【ワンニャンのSOS】#62

 感染症法上の新型コロナウイルスの位置づけがインフルエンザと同じ5類になって1年あまり、皆さんの生活はコロナ禍前に戻っていると思います。しかし、ワンちゃんの中には、コロナ禍が明けたことで、精神的なバランスを崩しているケースもあるのです。そんな事例を紹介します。

 コロナ禍では、在宅勤務が定着。ワンちゃんにとっては、飼い主さんとの生活が密になり、うれしい毎日だったかもしれません。しかし、そんな巣ごもり生活が少しずつコロナ禍前の日常生活に戻るにつれて、飼い主さんは在宅勤務を減らし、通勤して仕事するスタイルになり、中には飼い主さんと離れる寂しさから精神的に不安定になるワンちゃんもいるのです。

 獣医学的には分離不安症といいます。多くは軽症です。その症状は、留守番ができなくなる、留守中に飼い主さんを捜すように吠える、など。飼い主さんがいるときに気を引こうとして、トイレ以外の場所で排泄したり、モノを壊したりといったことも少なくありません。当院でも、7頭います。

 重症化すると、攻撃的になり、特定のキッカケで飼い主さんを噛むこともありますが、7頭はすべて軽症でした。

 同じような症状は、ヒトのお子さんでも見られると思います。ワンちゃんもヒトも、精神的なストレスの蓄積で問題行動につながることが多く、そのスイッチとなるストレスを排除することが根本的な解決です。

 しかし、お子さんならともかく、飼い主さんが職場の上司に「ウチのワンちゃんが寂しがっているので在宅勤務に」とは言えないでしょう。それでどうしたらいいか、と悩まれるのです。

 精神安定剤に分類される薬がよく効きますが、よく効く半面、ステロイド以上に離脱が難しく軽症には使いたくない薬でもあります。そこで当院では、フェロモン製剤を使用して、7頭ともよくなりました。

「アダプティル」という薬で、かつて販売されていたものの、販売会社が撤退。昨年10月から別の会社で再び販売されるようになりました。

■リラックス効果でストレス除去

 この薬は、母犬が出産後に子犬を落ち着かせるために発するフェロモンに類似する化合物を製剤化したもので、心因的なリラックス効果からストレス除去が期待できるのです。すべてに効くわけではありませんが、精神安定剤のように慎重投与の必要はなく、ヒトに無害なのもメリットでしょう。

 使い方は拡散器で薬の成分を拡散するだけ。当院では、1週間サンプルを貸し出し、効果があれば新品を購入してもらっています。

 もしコロナが明けてから、精神的なバランスを崩したワンちゃんがいれば、フェロモン製剤を試してみてもよいかもしれません。精神安定剤より安全で使いやすいと思います。

(カーター動物病院・片岡重明院長)