スタンドでは、何人もの西武ファンが祈るように両手を合わせていた。

 19日のソフトバンク戦の九回。八回まで強力ホークス打線を4安打無失点に抑えていた西武先発のドラ1左腕・武内夏暉(22)が、プロ初の完封勝利を目前にして突然、マウンドを降りたのだ。

 先頭の周東に右前打を許し、打席に代打の中村晃を迎えた場面。一塁にけん制球を投げた直後、武内が異変を訴えるようなシグナルを送ると、慌てて駆け寄った豊田投手コーチとトレーナーに伴われて、ベンチ裏に姿を消した。数分後、松井稼頭央監督がアブレイユへの投手交代を告げた。

 試合は、そのアブレイユが2安打1四球2失点の乱調でサヨナラ負け。試合後、武内の降板理由が「ちょっと左脚につりが出た」(松井監督)ことだと明かされた。

 通算2081安打の西武OB、評論家の山崎裕之氏がこう言う。

「今回の武内のアクシデントが大事に至らなかったとしても、心配は尽きませんよ。とにかく、打線の力不足、ベンチの無策がひどすぎる。武内は球界を背負って立つだけの逸材だと評価していますが、これだけ援護がなければどうしたって力が入る。当然、心身の負担は増します。故障のリスクも増してしまう」

 武内はこの日が6試合目の登板で、防御率1.43と抜群の安定感を見せながら、勝ち星は3勝(0敗)にとどまっている。登板6試合でマウンド上にいる間の援護点は計6点。つまり、平均1得点と打線が援護するどころかプレッシャーをかけているのだ。

 山崎氏が語気を強めてこう続ける。

「西武打線は打てないなら打てないなりの工夫もない。例えば、この日も6番に入っていた4年目の若林楽人の打率は.131。走者が塁にいる場面でも、引っ張り専門で自分が打つことしか考えていない。進塁打を打つ技術、状況判断に欠けている。これは若林に限ったことではなく、ベンチの責任も大きい。俊足の外野手で能力は高いのだから、今のうちにチーム打撃を徹底させることも必要ですよ。もっと言えば、西武の貧打はドラフト、育成力、補強戦略、監督・コーチの指導力など複合的な問題が絡んでいる。渡辺GMを含め球団が本気で考えないと、見殺しにされる投手の負担が増すばかりです」

 西武は5連敗で借金14の最下位。18日には早々と自力優勝の可能性が消滅した。武内を含めた投手陣の今後が心配だ。