巨人か、ソフトバンクか、それとも……。高校球児の選ぶ「好きな球団」1位はどこなのか。『センバツ2024 第96回選抜高校野球大会完全ガイド』(週刊ベースボール別冊春季号)に掲載された全633選手のアンケートを元に、「好きなプロ野球選手」「好きなプロ野球選手の所属球団」ランキングに続く第3弾を集計した。※敬称略。パーセンテージは小数点2位以下を四捨五入〈全3回の3回目/第1回、第2回も公開中〉

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 最初に、地区別の「好きな球団」ベスト3を見ていこう(複数回答は全てカウント。「12球団」回答はNPBの12球団を各1カウントした。左から順位、票数、得票率)。

地区別「人気の球団はどこ?」

■北海道2校 36人36回答 ※21世紀枠の別海含む
1位:14票 38.9% 日本ハム 2位:7票 19.4% オリックス 3位:5票 13.9% 巨人 

■東北3校 60人60回答
1位:19票 31.7% ソフトバンク 2位:8票 13.3% 楽天 3位タイ:7票 11.7% オリックス、阪神

■関東/東京6校 120人121回答
1位:32票 26.4% 巨人 2位:15票 12.4% ソフトバンク 3位:13票 10.7% オリックス

■東海3校 60人60回答
1位:15票 25.0% 中日 2位:13票 21.7% 阪神 3位:8票 13.3% 巨人

■北信越3校 60人60回答
1位:17票 28.3% 巨人 2位:15票 25.0% 阪神 3位:8票 13.3% ソフトバンク

■近畿7校 137人148回答 ※21世紀枠の田辺含む
1位:66票 44.6% 阪神 2位:18票 12.2% 巨人 3位:17票 11.5% ソフトバンク

■中国2校 40人40回答
1位:15票 37.5% 広島 2位タイ:8票 20.0% 阪神、ソフトバンク 3位:4票 10.0% オリックス

■四国2校 40人41回答
1位:20票 48.8% 阪神 2位:6票 14.6% 巨人 3位:4票 9.8% オリックス

■九州4校 80人82回答
1位:36票 43.9% ソフトバンク 2位タイ:13票 15.9% 巨人、オリックス 3位:10票 12.2% 阪神

 東北を除けば、本拠地を持つ球団が各地区で1位になった。一方、フランチャイズのない北信越は巨人、四国は阪神がトップを奪った。では、総合ランキングはどうなったのか。

好きな球団ランキング「強さと人気は比例する?」

【2024年版「好きな球団」ランキング】(順位横のカッコ内数字は昨年の順位)

1位(↑3):153票 23.6% 阪神
2位(↓1):116票 17.9% ソフトバンク
3位(↓2):107票 16.5% 巨人
4位(=4):68票 10.5% オリックス
5位(↑8):30票 4.6% 中日
6位(↓5):28票 4.3% 広島
7位(↑10):26票 4.0% 日本ハム
8位タイ(↓7):23票 3.5% ヤクルト
8位タイ(↓6):23票 3.5% 特になし、なし
10位(↑12):22票 3.4% ロッテ
11位(↑12):17票 2.6% DeNA
12位(↓11):15票 2.3% 楽天
13位(↓9):13票 2.0% 西武
14位タイ(=14):2票 0.3% パドレス
14位タイ(圏外):2票 0.3% フィリーズ
16位タイ(圏外):1票 0.2% 首位のチーム
16位タイ(↓14):1票 0.2% エンゼルス
16位タイ(圏外):1票 0.2% ヤンキース

 昨年、38年ぶりの日本一に輝いた阪神が3位から1位となり、パ・リーグ3連覇のオリックスは2年連続4位につけた。やはり、強さと人気は比例するようだ。阪神の得票率は昨年16.9%から今年23.6%と伸び、昨年1位のソフトバンクの20.0%を超えた。また、昨年と比べると全9地区のうち東北を除く8地区で得票率が上昇。その順位はこうなる。

こんなに拡大…阪神の全国的人気

【各地区における「好きな球団:阪神」得票率上昇ランキング/23年→24年】

1位:20.0% 四国
2位:12.4% 東海 
3位:11.1% 北海道 
4位:9.9% 北信越
5位:5.7% 関東/東京
6位:4.1% 近畿
7位:2.5% 九州
8位:1.8% 中国
9位:−1.0% 東北

「好きな球団」に阪神を1人も挙げなかった高校は昨年7校あったが、今年は学法石川(福島)と作新学院(栃木)の2校しかなかった。四国は出場校が4から2に減ったのに、票は増えて約半数が阪神を挙げた。その分、巨人(21.2%→14.6%)やソフトバンク(16.7%→7.3%)の得票率が減った。つまり、日本一の阪神が常勝のイメージのある2球団から票を奪ったと言える。他地区でも似たような現象が見られた。

前回の日本一では「人気拡大せず」

 猛虎人気は近畿だけでなく、全国的に拡大した。この傾向は、実に現代的と言える。過去のデータを使いながら、理由を説明しよう。まず、阪神が前回日本一になった1985年から2年後のセンバツ球児の「好きな球団」ランキングを調べた(86年の名鑑に当該の質問項目がないため、87年を調査)。

【1987年版「好きな球団」ランキング】

1位:210票 巨人
2位:91票 なし
3位:74票 阪神
4位:49票 西武
5位:13票 広島
6位:11票 中日
7位:6票 大洋
8位タイ:5票 近鉄、南海、阪急
11位:3票 ヤクルト
12位タイ:1票 ロッテ、メッツ、東映

※日本ハムは0票。複数回答は全てカウント。「東映」は1972年限りで日拓に身売りしていたが、学法石川の諸積兼司(現・千葉ロッテ二軍外野守備コーチ)が回答。ちなみに、趣味は「ナンパ」と書いていた。

 当時は巨人戦が毎試合のように全国中継され、阪神、広島、中日は本拠地のある地区でローカル放送されていた。そのため、巨人の人気が圧倒的であり、上位はセ・リーグがほとんどを占めていた。次に、85年日本一前後の阪神の得票率は各地区でどう変わったのか。85年の名鑑に「好きな球団」の項目がないため、84年春と87年春を比較する。

【各地区における「好きな球団:阪神」得票率上昇ランキング/84年→87年】

1位:7.7% 近畿
2位タイ:6.7% 四国
2位タイ:6.7% 東海 
4位:0.2% 中国
5位:0.0% 北海道 
6位:−0.7% 関東/東京
7位:−1.7% 九州
8位:−9.6% 東北
9位:−13.3% 北信越

※84年は「好きなプロチーム」表記

 日本一の直後ではないとはいえ、前年もランディ・バースが三冠王を獲得し、Aクラスを確保。まだ余韻の残る87年春で4地区もマイナスになっている。一方、23年と24年の比較では北信越は9.9%、関東/東京は5.7%、北海道は11.1%もアップしている。

全国放送(無料のBS)が“人気拡大”に影響?

 なぜ、同じ日本一なのに、昭和と令和では球児の受け止め方が異なったのか。無料のBSテレビで全国から視聴できるからではないかと考え、昨シーズンのBSチャンネルの球団別中継数を調査した(左から順位、回数、全143試合に対する放送率、球団名。放送率は小数点第2位を四捨五入。以下同)。

【2023年 無料BSで生中継された球団ランキング】

1位:130回 90.9% 巨人
2位:58回 40.6% ロッテ
3位:57回 39.9% ソフトバンク
4位:55回 38.5% 阪神
5位:54回 37.8% DeNA
6位:53回 37.1% オリックス
7位タイ:47回 32.9% ヤクルト、西武
9位:46回 32.2% 楽天
10位:42回 29.4% 日本ハム
11位:40回 28.0% 広島
12位:31回 21.7% 中日

※各球団やBS局の公式サイト、朝日新聞のテレビ欄を参照。サブチャンネルでの放送、リレー中継含む。試合中止、NHK BS1のローカル放送は除く。二元中継は両方カウント。NHK BS1(1)、BS日テレ(4)、BS朝日(5)、BS-TBS(6)、BSテレ東(7)、BSフジ(8)、BS12 トゥエルビ(12)、BS松竹東急(260)、BSよしもと(265)の9局を対象。BSJapanext(263)の中継はなかった。カッコ内はチャンネル。以下同。

※BSの世帯普及率は77.1%(BS民放6社、ビデオリサーチ調べ/20年4月公表)

 昔からの人気球団である巨人が群を抜いていた。一方で、阪神は意外にも昨年の67回から55回に下落し、ロッテとソフトバンクの後塵を拝した。

 ただ、この順位にはカラクリがある。BSには地上波に電波を持つ局の関連会社、それ以外の後発会社がある。2つには知名度に大きな差があると考えられ、どちらで放送されるかは重要な基準になるだろう。前者を「既存局」として順位を出してみよう。

【既存BS局の生中継ランキング】

1位:130回 巨人
2位:53回 DeNA
3位:52回 阪神
4位:45回 ヤクルト
5位:38回 広島
6位:32回 西武
7位:31回 中日
8位:28回 ソフトバンク
9位:25回 日本ハム
10位タイ:24回 ロッテ、楽天、オリックス

 セ・リーグ5球団が上位、パ・リーグ5球団が下位と二分された。阪神は3位で、最も有名と思われるNHK BS1での放送は12球団最多の22回に上った。つまり、昭和の頃と違い、現代では近畿以外の球児が“強い阪神”に興味を持てば、無料のBSテレビで目に触れやすい環境にある。そのため、全国的に票が伸びたのだろう。

BS日テレの巨人戦「対阪神」がほぼ独占

 また、放送回数も大事だが、どれだけ見られたかが最も重要である。BSは視聴率ではなく“視聴到達人数”を指標としている。公表局が少ない中で、BS日テレは昨年の巨人戦の到達人数ランキングを発表している。

1位 4月12日(水) 巨人×阪神 770.4万人
2位 6月2日(金) 巨人×日本ハム 723.0万人
2位 8月9日(水) 巨人×阪神 723.0万人
4位 6月30日(金) 巨人×阪神 699.3万人
5位 8月10日(木) 巨人×阪神 675.6万人

※ビデオリサーチ調べ。BS日テレで放送された各試合を1分以上視聴した推計到達人数(重複無し)

 ベスト5のうち4つが阪神戦だった。この4試合で、阪神は3勝1敗。1位は村上頌樹が7回まで完全に抑えながら8回に交代した試合だった。2022年はBS日テレの巨人対阪神の最高到達人数は706 万人だったというから、数字は伸びている。

 注目すべきは8月9日、10日の阪神戦だ。巨人は夏場を迎えても優勝争いに絡めず、4位に低迷。数字の減少が予想される中で、ランクインしている。おそらく“強い阪神を見たい”という視聴者がチャンネルを合わせたのではないか。

DeNA、ロッテに人気拡大の可能性あり…その理由

 後発BS局(BS12 トゥエルビ、BS松竹東急、BSよしもと)の放送回数の順位も出してみよう。

【後発BS局の生中継ランキング】

1位:34回 ロッテ
2位タイ:29回 オリックス、ソフトバンク
4位:22回 楽天
5位:17回 日本ハム
6位:15回 西武
7位:3回 阪神
8位タイ:2回 ヤクルト、広島
10位:1回 DeNA
11位タイ:0回 巨人、中日

 既存BS局とは逆に、パ・リーグ6球団が上位を占め、セ・リーグの主催試合の放送は1試合もなかった。後発BS局の認知度は高くないと思われるが、無料放送の利点は大きい。オリックスは昨年のBS放送の総合ランキングで最下位だったが、BS松竹東急が20試合中継したため、6位まで順位を伸ばした。「好きな球団」4位の主要因はパ・リーグ3連覇と思われるが、無料BS放送の増加も一因かもしれない。

 逆に言えば、後発BS局で1位のロッテ、既存BS局で2位のDeNAは優勝すれば、順位が一気に上がるはずだ。ロッテには藤原恭大や佐々木朗希、DeNAには度会隆輝や松尾汐恩などスター性のある若手選手が所属しており、ポテンシャルを秘めている。

 阪神の「好きな球団」1位も、その可能性を実証した。元来、人気球団のタイガースは一昨年2位、昨年3位と順位が高かったが、1位には届かなかった。つまり、日本一が栄冠をもたらしたのだ。来年も「好きな球団」トップになるためには、“アレンパ”が求められる。

文=岡野誠

photograph by Hideki Sugiyama