5年8カ月、史上最速でM-1王者になった令和ロマンのNumberWebインタビュー。29歳と30歳という若さで8540組の頂点に立った2人。「芸人を食わせてくれるのはM-1だけです」なぜ“異例の再出場”宣言をしたのか?【全3回の後編/前編、中編へ】

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「来年も出ます!」の理由

――M-1で勝つと大抵のコンビは、真っ先に、もうM-1に出なくていいんだと、やっとM-1から解放されたと言うじゃないですか。それくらいM-1は芸人にとって重圧なわけですよね。でも、くるまさんは番組のエンディングで、さっそく「来年も出ます!」と宣言しました。あれにも驚かされました。

高比良くるま 時代が違いますから。昔の芸人は、本当に食えなかったんだと思いますよ。この地獄から這い上がるためにはM-1で優勝するしかないんだ、と。だから、やっと脱出できるんだという思いが、そういう言葉になったんじゃないですか。今は配信やYouTubeもあって、普通に生活できている芸人も多いですし、M-1に苦しめられているという感じも昔ほどないと思うんですよ。

松井ケムリ 僕らはむしろM-1のお陰で食べられているという感じなので。

――苦しめられているという感覚はないですか。

くるま むしろ、恩恵の方が大きい。昔はM-1で準々決勝いったぐらいじゃ何も変わらなかったと思うんです。でも僕らの世代の吉本芸人は準々決勝まで勝ち進んだら、自分の所属以外の劇場にも出られたりする。それで給料が10万円ぐらい増えれば、バイトも辞められるじゃないですか。1年に1回、M-1で働けば1年食えますよみたいな世界なんですよ。遠洋漁業みたいなもんです。2カ月、そこでしっかり仕事をしたら、その蓄えで何とかなる。コント師もピン芸人もほんと食えてないですから。M-1だけですよ。食わせてくれるのは。

――M-1のスタッフには「今年も出ます」と伝えたのでしょうか?

くるま ABCテレビで一緒に番組やっているスタッフには打診というか。出るんですね、みたいな感じで応援してくれていますね。

「漫才熱はないですよ」「M-1こそ正義なんです」

――くるまさんは東京出身で、ケムリさんは神奈川出身ですよね。生い立ちからすると、あまり漫才との接点はなかったようにも思えるのですが、2人の漫才熱のルーツはどこにあるのですか。

くるま 漫才熱はないですよ。俺はM-1熱があるだけで。ケムリ先生はM-1熱があるわけではないけど、今の環境ではM-1をがんばるのがいちばん効率がいいと分かっているわけです。

ケムリ 効率、本当そうですね。

くるま 漫才愛があると、理想とM-1とのズレに苦しんだりすることもあるかもしれない。M-1に寄せ過ぎたくない、とか。でも僕らはスタートからM-1しかないから。迷う余地がないんです。関西で育つと偉大な師匠方や先輩方の漫才がちらついて、漫才とはこういうものだみたいなのがあるかもしれないけど、俺らはそういうものも知らないし。

ケムリ 寄席の漫才とかを知らずに育っているので、M-1こそ正義なんです。

「お笑いブームだが、漫才ブームではない」

――令和ロマンはNGK(なんばグランド花月)の舞台にもよく立っているので、大阪所属の若手だと思っていた人も多いようです。

くるま ほとんどの大阪の師匠方にそう思われていますよ。あんまり東京の若手がNGKの舞台に立つことってないですからね。俺らは(2020年に)NHK新人お笑い大賞で優勝したとき、アホな振りをして、NGKの支配人にお願いしたんですよ。「NGKにも入れてください」って。

――NGKというと漫才の聖地みたいなイメージがありますが、やはり楽しいものですか。

くるま いや、楽しくないです。難しいんですよ。NGKも今や大阪の地元の人が来ているというよりは観光客が中心なので。寄席の見方がわかってない人も多い。若手を中心にお笑いブームみたいなのはあるけど、寄席の漫才が流行っているわけではないんですよね。漫才はテレビでちょっと観るくらい。なのでNGKの漫才は、そういう人を起こすスポーツみたいになってきているんです。

ケムリ いろいろな人がいる営業みたいな感じ。

くるま 800人ものお客さんがいる営業です。そういう人を笑わせるのがいちばん難しい。NGKは、もはや漫才の殿堂ではないのかもと思います。もう日本にそんな場所はないというか。だからこそ、せめてNGKで伝えないと漫才の歴史が途絶えちゃうと思うんです。

「東京と大阪の“格差”」

――東の芸人が大阪の劇場でトリを務めて笑いをかっさらっていくのって、本当にカッコいいですよね。

くるま タカトシ(タカアンドトシ)さんとか、まさにそうですからね。カッコいい。そういうのを考えると、やっぱりテレビに出て知名度を高めるというのも大事なのかなと思う。僕らは基本的にテレビには出ないんですけど、何年か後、NGKでトリを取れるようになったとしたら、どんな風になるんでしょうね。

――上方漫才大賞は少し前までは大阪で活動している漫才師が対象でしたが、大阪から東京に拠点を移した芸人も受賞するようになってきました。今後は、もともと東京で活動している東京の漫才師が上方漫才大賞を受賞するような時代もやってくるのでしょうか。漫才に関しては、それくらい東と西の境目がなくなってきていると思うんです。

くるま 上方の言葉をしゃべってないという点をどう考えるかという問題は残ると思いますけど。

ケムリ 上方漫才をしっかり継承していく人たちもいて欲しいですし。

くるま 漫才言葉もどんどん標準化され、関西弁を保護しようという時代がくるかもしれませんね。今までお笑いだけは大阪が中心という奇跡のバランスが保たれてきたわけじゃないですか。経済規模を考えたら、東京が中心にならないわけがないのに。伝統とか、吉本創業の地であるということで市場原理から外れていた。でも今、毎年のように10組近い若手が大阪から東京に移籍してきていますよね。当たり前なんですよ。収入がぜんぜん違うんですから。

「吉本には感謝して欲しい」

――M-1では4年連続で東の芸人が優勝しましたが、それもわかりますよね。

ケムリ ライブの数もぜんぜん違いますからね。

くるま ライブの数だけではなく、あらゆるものの規模が違いますから。それがコロナで全部、ばれちゃった。大阪ではライブできない時期でも、東京では音声アプリが盛り上がっていて、スタンドFMがあって、ネットラジオもできるぞ、と。ほかにもYouTuberの事務所があるので、YouTubeもゲーム実況も協力してもらえる。これまでは「漫才の本場は大阪やで」「NGKはいつも満席やで」ということで覆い隠してきた東西格差が露わになってしまった。

――ここ2年のM-1は、錦鯉、ウエストランドと吉本以外のコンビが優勝していました。そろそろ吉本勢が奪還しなければという意識もありましたか?

くるま 上の人は焦っていたと思います。だって吉本勢が負けると、それだけで全体の仕事量がぐっと減りますから。だから、そこはもっと感謝して欲しい。

ケムリ 経済効果とかを考えて欲しいですね。

くるま 僕らは漫才はまだ全然突き詰められていないので、漫才を褒めてくれなくていいんです。なので、せめてお陰で食い扶持が増えましたって言って欲しいですね。

<全3回/前編・中編から続く>

(写真=末永裕樹)

文=中村計

photograph by Yuki Suenaga