“日本人以上に日本フットボール通”で熱視線を送るブラジル人記者、チアゴ・ボンテンポ氏は来日後、精力的に各カテゴリの試合を観戦している。そこで浦和レッズを筆頭とした「ファン・サポーター論」について聞いた。(全2回/第1回も配信中)

 ブラジルのスポーツメディアきっての日本通であるチアゴ・ボンテンポ記者は、3月中旬に日本へ到着して以降の約3週間に、2026年ワールドカップ(W杯)アジア予選1試合、AFCチャンピオンズリーグ1試合、J1を5試合、J2、J3、WEリーグ、社会人各1試合の計11試合を観戦している。

 11のスタジアムで、日本の男子17、女子2の計19チームを見ている(浦和レッズだけ2試合で、外国チームは北朝鮮代表と中国の山東泰山)。従って、日本の19チームのサポーター・ファンの応援ぶりを眺めているわけだ。

ウラワのファンの熱さは、もう国際水準じゃないかな

――これまで見た日本のチームのサポーター・ファンの応援ぶりを比較、分析してください。最も熱狂的だと思ったのは?

「浦和だね。3月17日のアウェーの湘南ベルマーレ戦、4月7日のホームのサガン鳥栖戦を見たんだけど、ゴール裏に陣取る大勢のサポーターたちは、90分間、歌い、飛び跳ね、一秒たりとも応援を止めない。それは浦和以外のクラブのサポーター・ファンも大体同じなんだけど、浦和は格段に人数が多く、熱量がすさまじい。

 サムライブルーのサポ―ターグループ『ウルトラスニッポン』も非常に力強い応援を繰り広げるんだけど、浦和の試合と日本代表の試合で大きく異なるのは、一般席に座っているファンの熱量だね。

 日本代表の場合、普段はあまりフットボールの試合を見ないライトなファンが多いようだ。もちろん、そういうファンがいても一向に構わないんだけど、『ウルトラスニッポン』の年季が入ったサポーターと比べるとどうしても熱量が落ちる。

 一方、浦和の場合は普通のファンであっても長年、応援している人が多い。チームのことなら何でも知っていて、『俺たちがチームを勝たせるんだ』という気概を持つ人が多い。これは南米のコアなファンと同じ。ブラジルであれば、飛び抜けて熱狂的なことで知られるコリンチャンスのファンと似ている。浦和のファンの熱さは、もう国際水準に達しているんじゃないかな」

一部サポが騒動を起こすのはコリンチャンスと似ている

――ただ、浦和のファンは熱意があり余ってか、これまで様々な問題を起こしています。昨年8月には天皇杯4回戦のアウェーの名古屋グランパス戦(3−0で名古屋が勝利)で試合後、騒動を起こし、多くのサポーターがスタジアムへの立ち入り禁止処分を受け、浦和は今年の天皇杯出場権剥奪という厳罰を受けました。

「この騒動については、僕も浦和のファン数人に意見を聞いた。『あれは当該サポーターがやり過ぎ』、『ルールに則って行動するべきだ』という意見がほとんどだった」

――南米では、サポーターが問題を起こすのは日常茶飯事。ブラジルやアルゼンチンでは、スタジアム内外で双方のサポーターが衝突して死傷者が出ることがあります。

「残念ながら、それが現実だ。ブラジルでは、大衆クラブであるコリンチャンスのサポーターが多くのトラブルを起こす。浦和とコリンチャンスのサポーター・ファンは、良くも悪くも似ているね」

日本人は、ブラジル人より怒りの沸点が高いのかな(笑)

――またブラジルでは、試合前、サポーターもファンも対戦相手のチーム、審判団がピッチへ入ってくるとブーイングを飛ばしてプレッシャーをかけるのが普通です。

「日本のほとんどのクラブのサポーターとファンは、そんな下品なことはしないね。強いて言えば程度だけど……浦和、鹿島、そして仙台のサポーターやファンの一部は、相手チームが攻めているときにブーイングすることがあったかな」

――なるほど。それから、これは世界でもかなり珍しいと思うのですが、日本では試合後、チームが勝っても負けてもサポーター、ファンの前へ行って挨拶をします。これはブラジルでは大事な大会で優勝したとき以外はまず見ない儀式ですね。

「勝ったときはともかく、負けた試合でそれをやると間違いなく大変な罵声を浴びるからね(笑)。でも、日本では試合に負けても、ほとんどの場合、サポーターとファンは選手の健闘を称えて拍手をする。日本人は、ブラジル人よりずっと忍耐強い。怒りの沸点が高いのかな(笑)」

――ただし、ブラジルでは大事な試合で負けてサポーター、ファンから散々罵声を浴びたチームや選手が奮起して、以後の試合で見違えるようなプレーをすることがしばしばあります。

「選手はみんなプロなんだから、勝っても負けても頭を撫でてあげるのがいいとは限らない。やさしい日本と厳しいブラジルの中間くらいがちょうどいいんじゃないかな(笑)」

カシマとベガルタも熱心…やさしいのが日本的だよね

――他に気になった応援をするサポーター・ファンはありましたか?

「鹿島アントラーズとベガルタ仙台。3月30日に、カシマスタジアムで鹿島対ジュビロ磐田の試合を観戦した(1−0で鹿島が勝利)。スタジアムの前で、ジーコの銅像と一緒に写真を撮ったよ(笑)。グルメでは豚の串刺しが絶品だったね。鹿島は小さな町だけど、Jリーグで最も多くのタイトルを手にしているクラブ。市民たちは、そのことを大きな誇りとしていて、とても熱心に応援するね。

 4月3日には、ユアテックスタジアム仙台でJ2の仙台対愛媛FCを見た(2−1で愛媛が勝利)。ベガルタのサポーターは、ゴール裏だけでなくサイドのスタンドにも陣取って応援するのがユニーク。『カントリーロード』(アメリカの歌手ジョン・デンバーの往年の大ヒット曲)やトゥイステッド・シスター(アメリカのヘヴィー・メタル・バンド)のヒット曲を応援歌にしたり、仙台出身の荒木飛呂彦先生の少年漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の旗を振ったり、『仮面ライダー』や『聖闘士星矢』の主題歌を選手のチャントに使っていたりして、とてもクリエイティブ。サポーターが町をとても誇りに思っているのが伝わってきた。仙台は、町もスタジアムもサポーターも素晴らしかった」

――日本では各々の選手にチャントがあってサポーターやファンが歌いますが、他国ではほとんどないですね。

「そうなんだよね。日本のサポーターとファンは、クラブのみならず、個々の選手に対して非常に強い愛情を抱いているんだね。南米でもヨーロッパでも、最も重要なのはクラブであって、選手に対しては少し厳しかったりする。でも、日本の場合はクラブへの愛情と選手への愛情が並び立っている。素晴らしいことだと思うし、人にやさしいところが日本的だね」

J3に落ちても熱心な大宮ファンに好感を持った

――これまで訪れた11のスタジアムのうち、特に気に入ったのは?

「カシマスタジアム、ユアテックスタジアム仙台、そして三協フロンテア柏。どこもスタンドからピッチまでが近くて、とても見やすい。その反対に、コクリツと日産スタジアムは陸上競技用のトラックがあるからちょっと遠い。ブラジルでは、ほとんどのスタジアムがフットボール専用。トラックがあるスタジアムは珍しい」

――日本では、どのクラブを応援しているのですか?

「基本的に、すべてのクラブを応援している。ただ、在ブラジル埼玉県人会の会員になっていて(注:ブラジルには日本人移民が多いことから、サンパウロなどに日本の全都道府県の会があり、会員間で親睦を深めている。その都道府県の出身者ではない日系人やブラジル人でも入会できることが多い)、新年会、運動会、忘年会などの行事に参加しているので、埼玉県のチームには親近感がある。

 浦和レッズには強いシンパシーを覚えているし、3月23日にはNACK5スタジアム大宮での大宮アルディージャ対テゲバジャーロ宮崎の試合を観戦した。アルディージャのサポーターとファンがチームがJ3に落ちても熱心に応援していることに好感を持った」

できるだけ多くの試合を見て、人とも触れ合いたい

――日本各地に多くの日本人、ブラジル人の友人がいて交流しているようですが、どのようにして知り合ったのですか?

「フットボールライターとしての仕事を通じて、あるいはソーシャルメディアで知り合った人が多い。また、サンパウロで元日本留学生協会という組織に属しており、その会員から紹介してもらった人もいる」

――今後の予定は?

「今月中旬から関西へ行って約3週間滞在し、その後は名古屋、広島、静岡、さらには北海道にも行きたい。とても楽しみだ」

 ブラジル人にはのんびりした人が多いのだが、彼は「できるだけ多くの場所を訪れ、多くの試合を見て、多くの人と触れ合いたい」と語る。極めて精力的だ。

 今後、彼が日本で何を見聞きし、何を感じ、何を考えたかをまた聞いてみたいと考えている。

<第1回からつづく>

文=沢田啓明

photograph by Tiago bontempo