大谷翔平がやっと通常運転=無双状態になり、日本のファンの多くはほっとしていることだろう。しかし、今年の大谷翔平の周辺は「景色」が違う。もちろん赤から青への「衣替え」はインパクトがあったが、それだけではない。

 エンゼルスとドジャース打線、中継を見ていて――その違いぶりに驚いている人も多いだろう。

エ軍時代、トラウト(とレンドン)以外は…

 昨年まで6年間在籍したエンゼルスは、マイク・トラウトを除く大谷のチームメイトが目まぐるしく変わっていた。入団した当時は、レジェンドのアルバート・プホルズがいたが、毎年のように選手が変化していく。

 昨年の顔ぶれで言っても、大谷の大の仲良しでWBCではイタリア代表として活躍したデービッド・フレッチャーはFAになって今はブレーブス傘下にいる。4番を打っていたハンター・レンフローはロイヤルズである。強豪とは言えないチームの定めとして、チームが解体モードになれば選手が目まぐるしく動く。

 そんな中で大谷とトラウト、それに「不良資産」と言われたアンソニー・レンドンだけがずっと名前をとどめていた。それは少々わびしい景色ではあった。

 しかしMLB屈指の名門で強豪チームのドジャースでは、ベンチの景色が違う。大谷の前後には、まさに「一騎当千」と言うべき――頼りになる選手が並んでいるのだ。

現役最多安打フリーマンは1億6200万ドル契約でド軍へ

 1番のムーキー・ベッツは先日紹介した。2018年のMVPだ。

 2番・大谷に続く3番のフレディ・フリーマンは、4月3日のジャイアンツ戦の7回、大谷が左腕テイラー・ロジャースの3−1からの5球目を打つと、右中間に飛ぶ大飛球の行方をじっくりと見届けていた。打球が客席に着弾した瞬間に、悠然と打席に向かって歩みを進めた。その慎重で、重厚な所作に、この選手の人柄がにじみ出ていた。

 彼は2007年にドラフト2巡目(全体78位)でアトランタ・ブレーブスに入団、2010年にメジャーに昇格すると2013年からは、強豪チームのスター一塁手としてオールスターに5回選出、打撃のベストナインであるシルバースラッガーに3回選出。一塁手としても堅実で、ゴールドグラブも1回獲得。そして2020年にはMVPを獲得した。MLBに在籍する現役打者では最多の2132安打を打っている。

 2022年3月に6年総額1億6200万ドル(当時のレートで約189億5400万円)の契約でドジャースへ。同地区のライバルチームへの移籍だったが、移籍後も不動の一塁手としてオールスターに2回選出した。

 筆者の見るところ、フリーマンは「最高の中距離打者」だ。最多二塁打を4回獲得。昨年の59二塁打は史上7位タイ、21世紀以降最多だった。選球眼も良く、欠点が少ない選手。身体は頑健で、2018年以降の試合欠場は毎年、5試合以下だ。昨年のWBCではカナダ代表の中軸として活躍した。

 大谷より5歳年長だが、長期契約でもあり、これからも大谷の打席をネクストサークルで見続けることだろう。

 ムーキー・ベッツはレッドソックス、大谷翔平はエンゼルス(2回)、フレディ・フリーマンはブレーブスと、3人のスター選手はそれぞれ前に所属したチームでMVPになっている。そして大型契約でドジャースにやってきたのだ。ドジャースで最初にMVPを取るのは誰だろうか?

“ヒマワリの種”テオスカーは侍ジャパンと対戦経験が

 ドジャース初本塁打を打った大谷に、ヒマワリの種をぶちまける手荒い祝福をしたのが、主に5、6番を任されるテオスカー・ヘルナンデス。シャツの間に種が入ったりしないかと少々気がかりだが――彼もまた大谷と相前後してドジャースへの移籍が決まった。

 ドミニカ共和国出身、アストロズに入団。身体能力の高い外野手としてマイナー時代から知られた。2015年のプレミア12ではまだマイナー選手だったが、侍ジャパンの小川泰弘から痛烈な二塁打を打ったのが印象的だった。

 2017年にブルージェイズに移籍してから本格的に活躍。シルバースラッガー2回、オールスターに1回選出されている。四球をあまり選ばない積極打法で、右翼守備でも数多くの補殺を記録した。2022年11月にトレードでマリナーズへ、そして今年1月にドジャースと1年2350万ドルの契約を結んだ。この選手の移籍で、ロバーツ監督はベッツを内野で起用する決心がついたのではないか。確実性はないが、下位打線で「意外性」を発揮する役どころだ。

打てる捕手ウィル・スミスは「228億円契約」

 ウィル・スミスという名前を聞いて「バッドボーイズ」や「MIB」を思い浮かべた人は多いと思うが、名優と同じ名前のメジャーリーガーは現役に2人いる。

 1人はロイヤルズのクローザー、そしてもう1人がドジャースでスター選手になろうとしている強打の捕手だ。

 2016年ルイビル大からドラフト1巡目(全体32位)でドジャースに。2019年にメジャー昇格すると、デビューが強烈だった。初出場の5月28日のメッツ戦で2安打、6月1日のフィリーズ戦ではヘクター・ノリスからサヨナラ本塁打、わずか54試合の出場で15本塁打。以後「打てる捕手」として一軍に定着し、主にMVPトリオの後を打つ4番を任されている。

 2023年にはオールスターに選出され、今シーズン開幕後に10年1.4億ドル(現在のレートで約212億8000万円)の契約を結んだ。来季、大谷が投手として復帰するときにマスクをかぶるのはウィル・スミスになるはずだ。

 ただし肩は強いとは言えず、盗塁阻止率は2割台。最近の捕手には必須とされるフレーミングも優秀とは言えないが、昨年、新人のボビー・ミラーを好リードして評価を上げた。山本由伸はここまでの登板3試合のうち2試合がスミスとのコンビだった。大谷の1歳年下だが、彼もずっとチームメイトになるはずだ。

通算打率.228でもマンシーがドジャースの個性なワケ

 三塁手のマックス・マンシーは、2012年にベイラー大学からドラフト5巡目(全体169位)でアスレチックスに、2015年にメジャー昇格するも2017年にリリースされドジャースに拾われる。エリートとはいえない野球人生だったが、粘りに粘って四球を取るしぶとさと長打力で生き残っている。

 これまで一塁、二塁を守ることが多かったが、フレディ・フリーマンが加入してから三塁に回った。しかし2022年は25失策、20年は23失策、守備率は.950前後。今季早くも2失策。打球が三塁に飛ぶとヒヤヒヤする。

 思い切り引っ張る打者で通算打率は.228だが、「極端な守備シフト」が禁止になった昨年、初めて100打点をマーク。下位に置けばこれほど嫌な打者はいないだろう。危うい魅力のマンシーもドジャースの個性の一つだといえる。

 フリーマン34歳、マンシー33歳、テオスカー・ヘルナンデス31歳、ベッツ31歳、このほか左翼手のクリス・テイラーは33歳、ユーティリティのミゲル・ロハス35歳、エンリケ・ヘルナンデス32歳、控え捕手のオースティン・バーンズ34歳。ドジャースは働き盛りの「大人の選手」がそろっている。

30歳になる大谷が“若手級”、アウトマンやラックスも

 今年30歳になる大谷はこのチームでは若手と言ってもよい。そこに大谷から“クリケットバット練習”を拝借して本塁打を放ったジェームズ・アウトマン26歳、ギャビン・ラックス26歳といった生え抜きの選手がレギュラーの座を確保しようと切磋琢磨している。

 エンゼルス時代は、注目と期待感が大谷翔平に集中して、プレッシャーが半端ではなかったはずだが、ドジャースではのびのびプレーできているのではないか。

 魅力的な強打者ぞろいの打線で、大谷は四球が減って勝負されやすくもなっている。今季は昨シーズン以上の成績が期待できよう。「ヒマワリの種スプラッシュ」は、お手柔らかに願いたいものだが。

文=広尾晃

photograph by AP/AFLO