4月13日のソフトバンク、山川穂高(32歳)の2打席連続グランドスラムが、球史に残る「伝説」になるかどうか。

 それが定まるには、まだ少し時間が必要かもしれない。

わずか3例しかない「1試合で2本の満塁弾」

 1試合で1つのチームが「2本の満塁本塁打」を記録したのは、4月13日のソフトバンクホークスが29例目になる。そして1人で1試合2満塁本塁打は、これでわずか3例目だ。

 1951年10月5日 大映、飯島滋弥 対阪急戦(大須球場)
 1回(投手:阿部八郎)、7回(投手:野口二郎)

 2006年4月30日 巨人、二岡智宏 対中日戦(東京ドーム)
 4回(投手:石井裕也)、5回(投手:クラウディオ・ガルバ)

 2024年4月13日 ソフトバンク山川穂高 対西武戦(ベルーナドーム)
 6回(投手:水上由伸)、8回(投手:豆田泰志)

 2打席連続は2006年の二岡に続いて史上2人目。なお、1951年の飯島は7回にもう一度走者2人を置いて打席が回り、同じ野口二郎からこの日3本目となる3ランホームラン。1イニング7打点はNPBタイ記録、1試合11打点は、今も破られないNPB記録である。

 また2006年の二岡は2満塁本塁打を打つ前の1回に、中日の先発・中田賢一から2ランホームランを打っており、セ・リーグタイの1試合10打点をマークした。

 今回の山川の本塁打は2リーグ制で12球団になった1958年以降で44人目の「全球団から本塁打」でもあった。

〈山川穂高の球団別の打撃記録〉
☆パ・リーグ:723試2455打622安200本539点率.253 OPS.905
 ソフトバンク:138試460打121安46本114点率.263 OPS.980
 楽天:144試472打130安43本109点率.275 OPS.997
 ロッテ:146試499打126安41本115点率.253 OPS.917
 オリックス:154試544打138安36本103点率.254 OPS.848
 日本ハム:138試467打103安32本90点率.221 OPS.785
 西武:3試13打4安2本8点率.308 OPS1.126

☆セ・リーグ:77試263打71安21本52点率.270 OPS.936
 広島:13試51打18安6本13点率.353 OPS1.136
 阪神:12試42打14安4本9点率.333 OPS1.094
 中日:12試42打14安4本10点率.333 OPS1.111
 DeNA:14試47打5安3本7点率.106 OPS.604
 ヤクルト:14試39打7安3本7点率.179 OPS.757
 巨人:12試42打13安1本6点率.310 OPS.908

山川は西武時代、ホークス相手に最多46本塁打を放った

 山川は2023年まで在籍した西武から本塁打を打ち「全球団からの本塁打」を達成した。

 昨年までの山川は、ソフトバンクから最多の46本もの本塁打を打っていた。打点もロッテの115打点に次ぐ114打点。ソフトバンクは、最も大きな被害を被っていた強敵が、今季から味方になった。収支計算が一気に逆転したのだ。

 山川穂高は一軍、そしてレギュラーに定着した2017年から22年まで、6年連続でパ・リーグの5球団すべてから本塁打を打っている。また、2021年と22年は交流戦でも6球団中5球団から本塁打を打っている。どんな対戦相手でも、どの球場でもコンスタントに本塁打が出る点では、当代一のスラッガーと言ってよい。

 打席での構えは、西武時代の先輩の中村剛也と遠目では区別ができないほどよく似ていたが、中村がボールをバットの上に載せて運ぶ「技のホームラン」が多かったのに対して、山川はバットにボールをぶつける「力のホームラン」を打っていた印象がある。この2人のスラッガーの「対照の妙」もライオンズの大きな魅力ではあった。

プライベートの不祥事のちモメにモメたFA移籍劇

 本塁打王をすでに3回記録、打点王も1回。WBC日本代表としても世界一を経験し、まさに全盛期を迎えようとしていたスラッガーだったのだが――。

 昨年、彼は自分がしでかしたプライベートの不祥事のために、無期限公式試合出場停止を科せられ、1年をほぼ棒に振った。チームは一昨年の打点、本塁打の二冠王を失ってBクラスに転落した。チームの主軸を失うことが、いかに大きな損失だったかを物語っている。

 それでも山川は「FA年限」を満たしていると認定され、FA移籍することとなった。移籍先はかねてより噂されていたソフトバンク、同じパ・リーグのライバル球団だ。そして年俸は、単年2億7000万円から4年12億円プラス出来高払い込みの総額20億円へ。「焼け太りみたいなものだ」との声まで上がった。

 このFA移籍に際しては、人的補償で一時はソフトバンク最年長選手の和田毅の名前が挙がって撤回する騒ぎになるなど、ひと悶着があった。とにかく近年まれにみる「モメにモメての移籍劇」だったのだ。

西武ナインも当惑した中でグランドスラム2発

 それを考えれば、去年までの本拠地、ベルーナドームに初めて姿を現した山川穂高に対して、観客席から大ブーイングが起こるのは、致し方ないと言うこともできよう。しかし、この大ブーイングは西武ナインにとっても、必ずしも心地よいものではなかったようだ。

 4月12日の西武−ソフトバンク第1戦の後、西武の捕手・古賀悠斗は「ブーイングが鳴りやまないので、やりづらさはありました。投手(今井達也)もたぶんやりづらかったと思います。起こっていることはしょうがないので、その中でやるしかなかったですね」と語っている。

 そして翌日の12日、異様な空気が続く中で、山川穂高は歴史的な「グランドスラム2発」を打った。

 山川はソフトバンクへの入団会見で、不祥事を起こした選手の常套句である「試合で頑張ることで償いたい」とは言わなかった。「一連の私の不祥事によって、ライオンズファン、ライオンズ球団、プロ野球ファン、すべての関係者に多大なるご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。本当に申し訳ございません」と謝罪から始め「マイナスからのスタート」と言い切った。自身の起こしたことの意味を理解していたのだ。

「ヒール」として相手に憎まれるような成績を残せるか

 2月の春季キャンプでも、山川穂高の写真は掲げられなかった。とにかく異例尽くしのスタートではあった。

 しかしシーズンが始まってしまえば、野球に専念するしかない。どんな針の筵であれ、野球をするためには足を踏み入れるしかないし、足を踏み入れれば全力を尽くすしかない。

 そういう意味で超逆風の中、空前の大活躍をした山川は「野球選手」だったと言えるだろう。西武のファンから今後もブーイングが起きるのは仕方がないが、そこに一定の自制心があるのが「良きファン」とも言える。

 ある意味、山川穂高は「ヒール(悪役)」として今後のキャリアを重ねていくことになるのだろう。それが彼の宿命である。そんな中で「相手に憎まれるような」成績を挙げることが求められる。

日曜日のベルーナはブーイングがトーンダウンしたという

 野球以外の例を引いて恐縮だが――昭和戦前の昔、圧倒的な強さを見せた横綱・玉錦三右衛門は、当時伸び盛りの花形力士だった双葉山定次(のち横綱)を、木っ端みじんに退けて、女性ファンから非難の声を浴びせられたという。

 しかし古い角通(相撲ファン)いわく、「玉錦、負けてやれ」との声を背に、傲然と仕切る玉錦は、惚れ惚れするほど格好が良かったとのことである。

 もちろん、プライベートでのトラブルなどもってのほかだし、今後は社会貢献もすべきである。ただ山川は、敵地ファンの刺すようなまなざしを感じながら成績を積み上げていくことで、いつしか非難が賞賛に変わるだろう。

 日曜日のベルーナドームでは、早くもブーイングの声はトーンダウンしたそうだ。

「大打者」と言うべき実績を残したときに――敵地での2本のグランドスラムは、「球史に残る伝説」として人々の記憶に刻まれるのではないか。

週間成績:巨人5連勝…岡本と若手勢が好調

【2024年4月8日〜14日 週間成績】
〈セ・リーグ〉

・今季成績
 中 日14試8勝4敗2分 率.667
 巨 人14試9勝5敗0分 率.643
 DeNA14試7勝7敗0分 率.500
 阪 神15試6勝8敗1分 率.429
 ヤクルト13試5勝7敗1分 率.417
 広 島14試5勝9敗0分 率.357

・3週目の成績
 巨 人5試5勝0敗0分 率1.000
 中 日5試3勝1敗1分 率.750
 ヤクルト5試2勝3敗0分 率.400
 阪 神6試2勝3敗1分 率.400
 広 島6試2勝4敗0分 率.333
 DeNA5試1勝4敗0分 率.200

 巨人がこの週負けなしの5連勝。中日も好調を維持している。

〈打撃成績5傑〉※打撃の総合指標であるRC=Run Creates順
 岡本和真(巨)21打9安2本6点 率.429 RC7.19
 村上宗隆(ヤ)15打5安1本2点 率.333 RC4.57
 佐々木俊輔(巨)19打6安2点2盗 率.316 RC3.60
 中田翔(中)20打7安0本6点 率.350 RC3.44
 萩尾匡也(巨)20打6安1本4点 率.300 RC3.24

 5連勝の巨人は主砲の岡本、新戦力の佐々木、萩尾が好調をキープしている。本塁打は岡本の2、打点は岡本と中日の中田の6、盗塁は佐々木の2がそれぞれ最多。

〈投手成績5傑〉※リーグ防御率に基づくPR=Pitching Run順
西勇輝(神)1登8回 責0率0.00 PR2.12
柳裕也(中)1登7回 責0率0.00 PR1.86
村上頌樹(神)1登1勝7回 責0率0.00 PR1.86
大瀬良大地(広)1登7回 責0率0.00 PR1.86
菅野智之(巨)1登1勝6回 責0率0.00 PR1.59
ヤフーレ(ヤ)1登1勝6回 責0率0.00 PR1.59

 阪神の西は4月11日の広島戦で8回零封も勝ち星つかず。中日の柳、阪神・村上、広島・大瀬良が7回零封。救援では巨人の大勢と中日マルティネスが2セーブ。巨人の新鋭、西舘勇陽が3ホールドを挙げている。

山川はこの週最多の11打点、周東も抜群の働き

〈パ・リーグ〉
・今季成績
 ソフトバンク14試10勝4敗0分 率.714
 ロッテ14試7勝6敗1分 率.538
 オリックス15試7勝8敗0分 率.467
 日本ハム13試6勝7敗0分 率.462
 西 武14試6勝8敗0分 率.429
 楽 天14試5勝8敗1分 率.385

・3週目の成績
 ソフトバンク5試4勝1敗0分 率.800
 ロッテ5試3勝1敗1分 率.750
 オリックス6試4勝2敗0分 率.667
 楽 天6試2勝3敗1分 率.400
 日本ハム5試2勝3敗0分 率.400
 西 武5試0勝5敗0分 率.000

 ソフトバンクが依然として好調維持。オリックスは2カード連続2勝1敗で3位浮上。西武は5連敗を喫している。

〈打撃成績5傑〉
 周東佑京(SB)21打13安0本2点4盗 率.619 RC7.76
 セデーニョ(オ)22打7安3本6点 率.318 RC6.19
 小郷裕哉(楽)26打9安4点3盗 率.346RC4.98
 岡大海(ロ)21打7安1点3盗 率.333 RC4.59
 牧原大成(SB)19打8安3点 率.421 RC4.54

 ソフトバンク周東は、4月13日の西武戦で5打数5安打1四球の6出塁とリードオフマンとしての役割を十全に果たした。本塁打はセデーニョの3、打点はソフトバンク山川の11、盗塁は周東の4が最多だった。

〈投手成績5傑〉
 宮城大弥(オ)1登1勝8回 責0率0.00 PR2.54
 モイネロ(SB)1登1勝8回 責0率0.00 PR2.54
 東晃平(オ)1登1敗H7回 責0率0.00 PR2.23
 西野勇士(ロ)1登1勝7回 責0率0.00 PR2.23
 今井達也(西)1登7回 責0率0.00 PR2.23

 4月13日の日本ハム戦でオリックスの宮城が8回無失点。同じ日、モイネロも西武戦で8回無失点とそれぞれ好投した。救援ではオリックスの平野佳寿、ソフトバンクのオスナが3セーブ。オリックスの小木田敦也、楽天の酒居知史が3ホールドを上げている。

文=広尾晃

photograph by Nanae Suzuki