昨季からDeNAのスタメンマスクをかぶる機会が増え、正捕手への歩みを見せる山本祐大。ハマの扇の要はどのような野球人生を歩み、今シーズンを迎えたのか。その野球歴と今季の覚悟に迫った。(Number Webインタビュー全2回の第1回)

 “正捕手”へ向けた着実な歩み――。

 横浜DeNAベイスターズの山本祐大は、実感のこもった口調で、噛みしめるように語る。

「今のところ試合に多く出させてもらっているので、充実感にあふれています。ただ、キャッチャーというのは、勝敗を左右するポジションなので、プレッシャーという部分では、毎日ひしひしと感じています。とはいえ、昨シーズン後半の経験が生きているというか、少なからず落ち着きみたいなものは、自分の中にありますね」

“相棒”東の証言

 山本は冷静沈着な表情で言うと、“扇の要”としての矜持を感じさせた。

 昨年はブレイクを果たした1年間だった。一昨年までは、主に第2、第3捕手といった立ち位置であったが、プロ6年目の昨季は、チーム最多の52試合でスタメンマスクをかぶり、相手の反応をつぶさに見るリードと自慢の肩でチームを牽引した。さらにドラフト同期であり最多勝、勝率1位のタイトルを獲得した東克樹と組み、リーグの『最優秀バッテリー賞』に選出された。東がヒーローインタビューで常に語った「祐大のおかげ」という台詞は、ファンの間で流行語にもなった。

 頼りになる恋女房に対し、3学年上の先輩である東は、感謝を込めつつ更なる成長を促す。

「祐大は、チームの要としてマスクをかぶっていくだろう選手。だから自分のことだけではなく、チームのこともしっかり考えて、周りを見られるようなキャッチャーになってもらいたい。本当、チームの底上げのために頑張ってもらいたいですね」

相川コーチの証言

 そして今シーズン、東の言葉通り、開幕からここまでチームは19試合を消化し、山本は13試合でスタメンマスクをかぶっている。過去、DeNAは投手によって併用制で捕手を起用してきたが、昨季後半から山本は、その枠を超え多くの投手とバッテリーを組む機会を得てきている。これが先ほど述べていた「昨シーズン後半の経験」であり、首脳陣からの山本への信頼の厚さが窺われる。

 出番が増えることで、相川亮二ディフェンスチーフ兼バッテリーコーチからは、次のように喝を入れられた。

「毎試合、ファイティングポーズを取れるようにしなさい」

苦しい時ほどファイティングポーズを

 山本は、頷きながら言う。

「勝っている時はいいですけど、負けが込んでしんどくなった時こそ、『今日はやってやるぞ!』という気持ちで向かっていけるかが大事だぞって。本当にその通りだと思いますし、苦しい時ほどファイティングポーズを取っていきたいと思っています」

 守備の時、ただひとりバックスクリーンの方向を見ている捕手。つまり投手や野手から常に視線を浴びる存在であり、チームに安心感を与え鼓舞する役目が求められる。捕手は戦う姿勢を誰よりも見せなければならない。

阪神・梅野からの言葉

 またレギュラーとして試合に出る上で心の中に浮かぶのが、この数年、自主トレをともにしている阪神の梅野隆太郎の言葉だ。

「梅野さんからは、とにかく『コツコツやっていくことが大事だよ』って。初めから上手くいくことはない、と。でもどうしても僕は、初めから上手くやりたいというか、完璧主義のところがちょっとあるんですよ。梅野さんからそういった言葉を頂いて、考えを改めたというか、毎日が成長の場だと思うようになりましたし、今できないことも明日はできるように。また長期的に1〜2年見てできるようにするには、本当に毎日コツコツやることが大事なんだって実感しています」

途中出場した試合で辛酸を嘗めたことも

 アンドレ・ジャクソンやアンソニー・ケイといった新加入した外国人投手と組むこともあれば、投手交代のタイミングで途中からゲームに入ることも増えてきた。起用法も多岐に渡り、それに付随し責任も重くなっていく。

 捕手として喜びを感じることもあれば、当然、悔しい思いを経験することもある。直近の試合で思い出されるのは4月14日のヤクルト戦(横浜スタジアム)だ。0対2のビハインドの7回表、ソフトバンクからDeNAに移籍した森唯斗が、横浜ブルーのユニフォームをまとい初めてハマスタのマウンドに立った。山本もまた交代でマスクをかぶったのだが、味方のエラーが3つも絡み1イニングで7失点(自責点1)してしまう。

「流れを変えるという意味で、試合に出させてもらったと思うのですが、逆に相手に試合を決められてしまった。自分としてはまだまだだなと思いましたし、悔しさはありますが、これをいかに次に繋げていくかが大事。今後も試行錯誤していきたい」

 山本は真っすぐな目で言った。失敗を糧とし成長すること、そして引きずることなく切り替えていくこと。正捕手への道は簡単ではないが、着実に一歩一歩進んでいるようだ。

さらに成長しているバッティング

 持ち味であるスローイングを始め、キャッチング、ブロッキング、インサイドワークと完全に一軍レベルに達している山本ではあるが、欠かすことのできない武器がそのバッティングである。

 昨季はキャリアハイとなる打率.277という成績を残し“打てる捕手”を印象付けたが、今季も継続して打撃は好調だ。ここまで打率.295、OPS.789、得点圏打率.308(データは4月22日現在、以下同)と上々の成績を記録している。1シーズンだけ状態が良く、翌年ガクッと成績を落とすことが珍しいことではない世界だが、山本は昨年以上にボールの見極めが鮮明であり、バッティングカウントではしっかりとコンタクトできている。自分の打撃の状態を山本は次のように語る。

出塁率がカギだと思っている

「まだシーズンは始まったばかりですし、今後どうなるかはわかりませんが、悪くないスタートは切れていると思います。やっぱり出塁率(.380)が自分の中では鍵だと思っているので、フォアボールを取れているうちは自分のバッティングができているのかなって感じています」

 バッティングフォームは昨年よりもシンプルに、トップから素直にバットが出ており最短距離で強くスイングできている。

意識しているのは打球速度

「意識しているのは打球速度ですね。打球速度が上がれば、(内野の)間を抜けるヒットも出ますし長打も増えるので、そこを練習で取り組んでいます。あと、うちはいい右バッターが揃っていて、クワ(桑原将志)さんを始め、宮﨑(敏郎)さん、牧(秀悟)に打席の入り方とか、相手ピッチャーへの対策などアドバイスを頂けるので、毎日スムーズにゲームに入れるといった感じですね」

 現在、得点力不足に悩むDeNAにあって、主にクリーンナップの後を打つ山本の存在は、今後チームの勝敗を左右する大きなポイントになりそうだ。

 的確なチャンスメイクと、ここぞの強打。“打てる新世代の捕手”として、山本はチームの枠を超え、日本代表の捕手に選出されることになる――。<つづく>

  

文=石塚隆

photograph by JIJI PRESS