日本代表やJリーグといったフットボールについて、日本通のチアゴ・ボンテンポ記者に“お世辞抜き”で論評してもらうシリーズ。今回はU-23アジアカップのヤマ場だったカタール戦と勝てば五輪出場のイラク戦展望、そして韓国がインドネシア相手に敗北を喫するなどアジア勢力図の変貌についても語ってもらった。(全2回/第2回も)

 22日のグループステージ(GS)最終戦で日本が宿敵韓国に敗れたのを見て、「攻撃が余りにも単調。あれじゃあ点は取れないよ」と嘆き、「25日の準々決勝で、優勝候補にして開催国のカタールに勝つのは至難の業」と悲観的になったファンが多かったのではないか。

 しかし、ブラジルのスポーツメディアきっての日本通チアゴ・ボンテンポ記者(38)の見方は違った。

「互いに準々決勝を見据えて、ほぼBチームどうしの対戦だった」とみなしたうえで、「試合内容は日本の方が良かった」、「カタールは手強いが、インドネシアも非常に危険。インドネシアの方が与しやすいとは限らない」という見解を示した。

 はたして、日本は延長の末にではあるが、4−2でカタールを下した。一方、日本を倒して意気上がったはずの韓国は、インドネシアに散々苦労させられた挙句、不覚を取った(延長を終えて2−2、PK戦の末に10−11で敗れた)。ただし、そのチアゴ記者とてすべての予想が的中したわけではなかったが……準々決勝を終えて、率直な印象を聞いた。

山田はミドル、セットプレーでも頼りになる

――韓国戦後、望ましいと考える先発メンバーを聞きましたが、大岩剛監督はCFに藤尾翔太(町田ゼルビア)ではなく細谷真大(柏レイソル)を、左ウイングに平河悠(町田ゼルビア)ではなく佐藤恵允 (ブレーメン)を起用しました。

「藤尾と平河は、韓国戦で先発して長くプレーしていた。フィジカルコンディションを考慮し、韓国戦で先発を外れてプレー時間が短かった細谷と佐藤を選んだんだろうね」

――韓国戦であれだけ点が取れなかった日本が、わずか1分5秒で先制しました。

「右SB関根大輝(柏レイソル)のロングフィードがDFにクリアされたんだけど、それを受けたカタール選手のバックパスが短かった。山田楓喜(東京ヴェルディ)がかっさらい、なおかつカタール守備陣のマークが緩慢だったので、左足を振りぬいた。見事なシュートだった。

 山田は色々な種類のボールを蹴れるし、精度が高い。久々に、ミドルシュートを決められてセットプレーでも頼りになる選手が出てきたね」

関根のメンタルの強さは褒められていい

――しかし前半24分、カタールが右からクロスを入れ、19歳のアル・ラウィが豪快に頭で叩き込んだ。関根がマークしていたが、太刀打ちできなかった。身長は関根が187cmで、ラウィより3cm高いのですが……。

「フリーでクロスを入れさせたのが失敗だったし、関根はクリアするどころか、ラウィの邪魔をすることすらできなかった」

――とはいえ、関根はこの失態に下を向くことなく、以後も積極的にプレーしました。

「その通り。彼のメンタルの強さは褒められていい」

――前半41分、日本がゴール前へクロスを入れた。カタールのGKアブドッゥラーがジャンプしてボールをキャッチする際、競り合った細谷の腹を蹴った。VARの結果、一発退場処分を受けました。

「中国戦で、日本は西尾隆矢(セレッソ大阪)の相手選手への肘打ちがVARに見咎められ、退場処分を受けて非常に苦しい状況に追い込まれた。それが、今度はVARのおかげでカタールGKの細谷への蛮行が明らかになった。意図的な飛び蹴りだったから、彼の退場処分は妥当。この大会で、細谷が初めてチームに大きな貢献をした(笑)」

「それはないだろう!」と叫んだよ(笑)。

――前半は1-1のまま終了。すると、後半開始時、大岩監督はMF松木玖生(FC東京)の代わりに藤尾を投入し、細谷とツートップにします。

「『それはないだろう!』 と思わず叫んだよ(笑)。FWの決定力が物足りないのでCFを2枚にしたのだと思うけど、前半のうちにイエローカードをもらっていたとはいえ、チームの核である選手を下げたことには首を傾げた。中盤の選手が1人減って、構成力が低下した」

――後半開始早々、日本はカタールに左サイドでFKを与え、クロスを頭で叩き込まれて逆転を許します。

「日本は大勢の選手がゴール前を固めていたのに、藤尾が競り負けた」

――この大会で日本は準々決勝までの4試合で3点取られていますが、いずれもヘディングによる失点です。どうしてこうも空中戦に弱いのでしょうか?

「日本の伝統的な弱点だよね。以前は大柄で強靭な選手が少なかったのが致命的だったけれど、近年は長身選手が増えており、体格差によるハンディは減った。ボールの落下地点の予測、身体の強さ、そしてヘディング技術の問題だと思う」

――その後は、日本が攻勢を強めたものの、攻めあぐねた。

「カタールが1人少ないのに、まるで同数でプレーしているような時間帯があった。その後、カタール選手が疲れたせいで日本がボールを握ったけれど、それでもゴールを割れなかった。工夫が足りないクロスを何本入れても意味がない」

木村が“日本の救世主”となっている

――ようやく後半22分、日本は右CKを木村誠二(サガン鳥栖)が頭で決めて追いつきます。

「木村はUAE戦に続いての大会2点目。CBでありながら、チーム内得点王だ。GS最初の中国戦の前半途中から西尾の代役を務め、日本の救世主となっている」

――以後は、カタール選手の疲労が目立ち、日本のほぼ一方的な展開。しかし、日本は藤尾が決定機を二度外します。

「この試合では藤尾に頑張ってほしいと思っていたんだけど、残念だった。彼がどちらかのチャンスを決めていたら、日本は90分間で余裕を持って勝てていたと思う」

延長戦で細谷、内野が…図らずもプラス材料に

――後半アディショナルタイムに、日本は山田の代わりに荒木遼太郎(FC東京)を投入。90分では決着を付けられなかったが、延長前半11分ゴール前で藤田からのパスを受けた荒木が細谷へ絶妙のパスを送り、細谷がマーカーをかわして決めた。

「やっと決めてくれたね(笑)」

――今季、クラブでも7試合に出場して無得点。昨年11月のJリーグ鳥栖戦以来、実に5カ月ぶりの得点でした。さらに、延長後半、MF川崎颯太(京都サンガ)のシュートがカタールのDFに当たり、GKが辛うじて弾いたところを内野航太郎(筑波大)が押し込んだ。

「細谷、内野というこれまで不振を極めていた2人のCFが点を取ったのが、この試合の大きな収穫。藤尾が決定機を外し続けて延長戦にもつれ込んだ結果、図らずもこのプラス材料を手にした(笑)」

――日本は、前半41分から数的優位だったのに、なぜこれほど攻めあぐねたのでしょうか?

「サイドを突破しても、単調なクロスが多く、簡単に跳ね返されていた。工夫が足りなかった。そして、UAE戦からずっと続いていた決定力不足だね」

――試合の流れを変えたのは?

「荒木の投入かな。彼が、持ち前のテクニックと創造性を発揮して、違いを作った。細谷の得点の半分くらいは、荒木のおかげだね」

カタールの問題は“国民の熱量の低さ”だ

――カタール選手では、誰が良かったと思いますか?

「ラウィ。身体が強く、スピードも技術もある。まだ19歳だから、今後、順調に伸びたらとてつもない選手になる可能性を秘めている」

――カタールのフットボールは、アジアではすでに強国の仲間入りをしていますが、自国開催の2022年ワールドカップのGSでは3戦全敗するなど、世界の舞台ではまだ脆さがあります。何が足りないのでしょうか?

「人口が少ないという決定的なハンディを背負っている(注:300万人足らず)。これを他のアラブ諸国などからの帰化選手で補おうとしていて、選手育成にも力を入れている。でも、根本的な問題として、国民のフットボールに対する熱量が低い。この試合だって、観衆は1万人以下だからね(公式発表は9573人。今大会のカタールがらみの4試合で、観衆が1万人を超えたことはなかった)。

チアゴ記者は日本人以上にフラットな視点だった

 我々日本人は、目の前の事象に必要以上に引っ張られる傾向にあるようだ。これに対し、チアゴ記者は基本的に日本を応援してくれているのだが、見方がよりフラットで、より冷静に分析し、より的確に予測する能力を備えているようだ(ただし、そんな彼も、細谷と内野の得点は予想できなかったようだが)。

 今回の準々決勝では、日本以外の試合にも注目が集まった。グループステージ第3戦で日本に勝利した韓国が、インドネシアにPK戦の末に敗戦して五輪切符を逃した。この結果についてチアゴ記者は「韓国が悪かったというよりインドネシアが強かった」と。さらに日本はイラクに対していかに戦うべきかについて意見を聞くと「十分に勝てるよ」とも話す。その根拠とは――。<つづきは第2回>

文=沢田啓明

photograph by JIJI PRESS