日本ハム時代から長年、大谷翔平の番記者を務める柳原直之氏。アメリカに滞在中は大谷、山本由伸はもちろん実力派が居並ぶドジャースの選手たちの取材を進めている。そこで聞いた“テレビに映らない”裏話を記してくれた。

 ベンチで笑みを浮かべ、何やら楽しげに話をしている。時にボールやバットを持って真剣な表情で意見を交わしていることもある。その様子は日米ともに変わらないが、今季は特に大谷翔平、山本由伸が加入したドジャースのベンチの様子が多くの人々から注目を浴びている。

 私にとって、今季最初の米国出張は2月6日〜4月23日だった。ドジャースに密着し、大谷、山本以外にも多くの選手の話を聞くチャンスに恵まれたが、まず印象に残ったのが先発右腕タイラー・グラスノーだ。

グラスノー「僕の手の方が翔平の手より…」

 3月のオープン戦中、ベンチで大谷と手の大きさを比べているのが何ともほほ笑ましく、話を聞かせてもらった。

「僕の手の方が翔平の手より少し大きかった。僕(2メートル3)は翔平(1メートル93)より少し背が高いからね」

 大谷は体格は1メートル93、102キロとメジャートップクラスだが、比較的手が小さいことで知られ、足のサイズも28.5センチ。一方、グラスノーは「自分の手の大きさは分からないが、足は16インチ(34.0センチ)だ」と言った。

 私は規格外のサイズに驚き「欲しい靴は見つかりますか? 全てオーダーメイドですか?」と尋ねたが「店舗ではなかなかないけどネットで買えるよ。オーダーメイドではなく既製品だね」と笑顔で明かしてくれた。

大谷も受けた“ハイブリッド手術”についても

 レイズから移籍1年目のグラスノーは5月12日(日本時間13日)時点でリーグ2位となる6勝、同単独トップ73奪三振と存在感を発揮している。21年8月に人工じん帯を入れてより強化する「インターナル・ブレース」と、自身の腱を移植するじん帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)を同時に行うハイブリッド手術を受け、23年5月に復帰した。

 同手術は大谷が昨年9月に受けた手術としても知られる。

 グラスノーは「移植した腱は最初は固く締まって結んでいるし、それがハイブリッドの場合、二重。手術するまで右肘痛に長いこと苦しんでいたからそれくらいの張りはなんでもなかった。今は全く問題はない」と説明してくれた。

 大谷より1歳年上の93年生まれの30歳。同世代で同じ100マイル(約161キロ)超えの速球を武器とする同タイプの先発右腕と共通点は多い。

 大谷は2025年に投手復帰予定だが「彼が復活するかどうかなんてノークエスチョンだ。驚異的でアメージングな選手。(復活は)間違いないだろう」と語り、復活に太鼓判を押した。まだ具体的な話はないというが、大谷の投手のリハビリが本格化すれば、グラスノーの経験談は大きな助けになりそうだ。

右腕ミラーは笑顔で大谷のバットをスリスリ

 4月13日に右肩の炎症で負傷者リスト(IL)入りし、復活を目指す先発右腕ボビー・ミラーと大谷のやり取りも興味深かった。

 開幕直後はバットが湿りがちだった大谷を気遣ってか、ミラーはベンチで準備中の大谷のバットに念を送り、スリスリとバットの芯部分をこね、大谷もうれしそうにクシャッとした笑みを浮かべていた。

 ミラーは「僕らは(スリスリとこねることで)ただバットを温めていただけなんだ。翔平もよく同じことを自分のバットにする。彼がバットを僕の前に突き出したから同じことをしたんだよ」と説明。さらに、こう続けた。

「バットを温めてビッグイニングの準備をしている。バットが温まれば打撃も好調になる。彼は素晴らしい選手だから僕の助けは必要ないけど。楽しい時間だったね」

 エンゼルス時代の大谷も、打撃の調子が上がらない時に自身のバットに“心臓マッサージ”を施したことがあり、お茶目な一面を見せて心配無用とばかりに周囲へ笑顔を届けていた。それはドジャース移籍後も変わらず、ナインに明るいムードを生み出している。

フィリップス、ハドソンが見た“ショウヘイの素顔”

 大谷とグラウンドやクラブハウスで目に見える交流はないが、5月5日に右太腿裏の肉離れでIL入りし、復活を目指す抑え右腕エバン・フィリップス、中継ぎ右腕ダニエル・ハドソンにも話を聞く機会があった。

 フィリップスは「翔平はチームメイトとコミュニケーションを取るために、これまで英語を一生懸命に勉強してきたのが本当に分かる。これから何年も彼と一緒にいて、もっとたくさん、彼のことを知れることを楽しみにしている」と大谷の英語力を絶賛し、こうも語っている。

「投球メカニック(フォーム)についてもたくさん話すし、どこに住んでいるか、どんなツールを使って毎日回復しているかについても話してきた。同じルーティンを毎日続けているのが素晴らしいと思う」

「英語がかなり上手くなっていた」

 ハドソンは19年にエンゼルスとマイナー契約を結び、招待選手として大谷とともにエンゼルスのキャンプに参加していたことがある。

 開幕前にブルージェイズに移籍したが、当時の大谷と比較し「英語がかなり上手くなっていた。彼とのコミュニケーションは簡単。野球のこと、食べ物のこと、何でも話す。19年の時には少ししか知らなかった翔平のことをたくさん知れて楽しい」と笑顔で語った。

 フィリップス、ハドソンがともに口にしたのが「Baseball is universal language(野球は世界共通語)」という言葉。スペイン語を母国語とする選手も多いが、山本も含めてロッカールームはどこからともなく笑い声が聞こえてくるような良い雰囲気に包まれている。

 5月13日(日本時間14日)時点で28勝15敗、勝率.651で地区首位を快走するドジャース。ベンチやクラブハウスの雰囲気の良さやチームとしてのまとまりも強さの要因だろう。その笑顔の中心に大谷がいることもまた興味深い。

文=柳原直之(スポーツニッポン)

photograph by Ronald Martinez/Getty Images