女性が働く職場では、とかく「雑用」についての不満がささやかれやすいもの。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、“謎の雑用ルール”に嫌気がさして、この春に就職したばかりの会社をやめたくなった、という女性から投稿がありました。当初思い描いていた仕事内容とのギャップも大きいようですが、心ならずも負わされた雑用仕事を、どう捉えたらいいのでしょうか。多くの労働者の相談にのってきた特定社会保険労務士の篠原宏治さんに話を聞きました。

「就職1週間目だけど辞めたい」とのタイトルで投稿してきたのは、31歳の女性「める」さん。この4月、ある企業に正社員で入社しましたが、事務職として働き始めてわずか1週間で、雑用の多さにへきえきしてしまったそうです。

具体的には、〈1〉始業時間の20分前に会社に来て掃除をする〈2〉社員たちのコップを覚えておき、当人が好む飲み物を毎朝準備して配る〈3〉無駄に多いゴミ箱のゴミを回収する〈4〉加湿器を毎日掃除する〈5〉社員たちがそれぞれ注文した弁当を、各自がよく使う席に置いておく――などの雑用仕事を任されたそう。

しかも、仕事を教えてくれた先輩社員はこだわりが強いのか、「加湿器の掃除を〇〇時から行う」とスケジュールを決定。「める」さんが、その5分前に掃除を始めようとしたところ、「あと5分たったら、してくださいね」と笑顔で返されました。さらに、「この窓は〇〇さんがまぶしくないように、ブラインドを閉めるけど、外の様子が見えるように隙間を開けた状態で閉めてね」などと細かい指示があり、「本当にイライラしてしまいます」と嘆きます。

こうして、入社早々に大きなストレスを抱え込み、「私の悩みはぜいたくなんでしょうか。我慢すればいいのか……。同じ思いをした方などいらっしゃいますか?」と発言小町に問いかけました。

この投稿には120件を超える反響(レス)が寄せられ、「びっくりマーク」も1600回以上押されています。

「小さな会社あるあるです。『これは業務か?』から『これも業務か!』など、あらゆることをさせられます」(「う」さん)

「いつの時代の会社?って感じですね。今時、始業前に掃除したり、飲み物やお弁当を準備したりなんてあるんですね。それが、女子社員だから気を配ってやれ!だったらムカつきますが、庶務係としての業務であるなら、仕事と割り切ってやってみたらどうでしょうか?」(「ぶー」さん)

「私なら1日目で辞めます。理由は20分前の出社と、飲み物の準備と窓の件です。窓のブラインドをどのくらい開けるかは、その窓の近くの方がやればよいし、その人が休みなら、その近くの席の方がやればよいと思います」(「冨樫無礼子」さん)

このほかにも、雑用を強いられて不満を抱く事務職の女性から投稿が寄せられています。

「私は社員たちの母親じゃありません」。そう訴えたのは、トピ主の「たみちゃ」さんです。「来客が帰った後、社員たちは、お茶の紙コップを片付けてくれる人もいるのですが、給湯室に持っていった後、キッチンに置きっぱなしです。そこまでしたら捨ててくれてもいいのに。お菓子配りもお客さんからいただいたものなら分かりますが、自分のお土産くらい自分で配ればいいのに。ポットのお湯も、もう少しでなくなりそうになったら普通補充しませんか?」と、社員たちの行いに憤まんやるかたない様子。

「たみちゃ」さんと同じような体験をしている人は少なくないようです。

「コピー用紙の最後の束を使う時は『補充するから注文を!』って言っているのに、毎度毎度、なくなってから『紙がない!』って言ってくる。馬鹿なの!?って思うけど、ぐっっと飲み込むよ。今は別の場所に1束だけ隠してある」(「さち」さん)

「シュレッダー。満杯になって稼働できずに止まったまま。誰も袋を取り替えません。コピー機。紙が詰まったまま、なぜか翌朝その状態。紙の補給も誰もしません」(「匿名」さん)

「なんで職場にいるのに子育てしてる気分になるんだと毎日思っています。最近、入社2か月で辞めていく新人に大きい段ボールいっぱいのお菓子をドンと渡され、『最後なんで皆さんで分けてください!』って言われました。社員何人いると思ってんねん。最後くらいこっちに仕事増やさんと自分でやれ。あいさつがてら自分で配れよとキレそうになりましたねー」(「ゆみ」さん)

お茶出し・お菓子配り・ゴミ捨て……。令和の職場にも依然として、誰かの手を必要とする雑用はあるようです。特定社会保険労務士の篠原宏治さんは、「める」さんの雑用仕事について、「不満に思う気持ちはよくわかるし、女性という理由でやらされているのであれば性差別として問題でしょう。ただ、この投稿内容だけでは『女性だからやらされている』『業務外のことをやらされている』とまでは読み取れません。問題があるとしたら、始業時間前の掃除のことだと思います」と指摘します。

篠原さんによると、始業時間の20分前に会社に来て掃除をするように言われた場合、会社の指揮命令で行ったと考えられるので、会社側は、この掃除の時間を労働時間とする必要があります。国はガイドラインで「掃除をする」のほか、「制服に着替える」など業務開始の準備をするための時間も労働時間となると定めているためです。

そのほかの「社員に飲み物や菓子を配る」「ゴミを回収する」「加湿器を毎日掃除する」「ポットの湯を入れる」などの雑用を事務職がすることについて、篠原さんは「その会社における業務区分の定め方の問題です。入社後にミスマッチが起きないよう、企業側が採用時に業務範囲をしっかり説明すべきですし、応募者の側も、業務範囲について疑問があったら、詳しく聞いたほうがいいです」とアドバイスします。

また、「社員それぞれのカップや飲み物の好みを覚えておく」など、細かいことまで要求する職場があるとしても、「それを“謎ルール”と考えるかどうかは、それぞれの主観の問題です。ただし、『無駄だ』『効率が悪い』と考えるのであれば、会社に業務のやり方について相談しましょう」と提案します。

会社への提案は、時として有効なようです。「たみちゃ」さんへの返信の中には、こんな経験談もありました。

「うちの職場では、お茶出し自体、5年以上前になくなりました」と書き込んだ「愚痴ねえ」さん。お菓子配りについても、「まず課長に『お菓子は食べない人もいるし、そもそもお土産を他人が配るのはおかしいのでは』とかけ合った上で、『〇〇さんのお土産を給湯室に置いたのでお取りください』と一斉メールするようにしました。その後、お土産は各自で給湯室に置き、メールも買ってきた本人が送るようになりました」と報告しました。

生成AI(人工知能)の普及などによって省人化が進む令和の今も、なかなかなくならない職場での雑用仕事。せっかく採用した人材から「いつまでこんなことを続けるの?」と言われるような企業では、先の見通しは暗いでしょう。まずは簡単に改められることから、職場で提案していくのがいいのかもしれません。

(読売新聞メディア局 永原香代子)