NHKで放送中の連続テレビ小説「虎に翼」を楽しみに見ている。ヒロイン・猪爪寅子(伊藤沙莉)のモデルは、日本初の女性弁護士となった三淵嘉子さん。NHKのパンフレットによると、「日本で初めて法曹界に飛び込んだ女性の奮闘を描くリーガルエンターテインメント」です。ドラマに合わせて、三淵さんが通っていた明治大学では、駿河台キャンパスにある博物館(東京都千代田区)で衣装やセットなどの展示が行われています。

「はて?」という寅子のセリフが、いつも小気味いい。「おいおい、それは違うだろ」「ちょっとまって、それおかしくない?」と突っ込みたくなる場面で、寅子がつぶやく。おかしいことをおかしいと言うことの大切さを改めて教えてくれているようで、励まされている気さえします。

ドラマでは、100年前の女性たちには財産権も参政権もなく、妻は法的に「無能力者」とされていた状況が描かれます。世の中の“常識”に「おかしい」と声を上げ、司法で働く道を開き、社会を変えていく――。そんな女性たちが一歩一歩積み重ねた延長線上に、私たちは暮らしているのだと思うと胸が熱くなるのでした。

一般社団法人「あすには」代表理事の井田奈穂さんも、このドラマに気持ちを重ねている一人です。井田さん自身も、「はて?」と思ったことを放置せず、社会を変えるべく活動しています。それは、夫婦の姓の問題です。

日本は夫婦同姓です。1898年(明治31年)施行の旧民法で導入されました。1948年(昭和23年)施行の現行民法で家制度は廃止されましたが、姓のあり方はそのまま残りました。時代は下って1985年、日本も国連の女子差別撤廃条約を批准し、女性差別につながる法律の見直しが課題となりました。そして1996年、法制審議会(法相の諮問機関)は選択的夫婦別姓の導入を答申しました。しかし、「家族の一体感が損なわれる」などの声もあって、国会での議論は進んでいません。

井田さんは自身の再婚に際して、改姓の問題にぶち当たりました。そのときの苦労を踏まえて、2018年に選択的夫婦別姓の制度導入を求める活動を始めました。「始めたときは、もっと簡単に変わると思っていたんです。なぜなら、この話をするとたいていの人が賛同してくれたので。でも、政治が動かない」。自治体への陳情を続けるうち、制度導入に反対する人たちからの誹謗中傷が激しくなり、会社を辞めざるを得なくなったそうです。

それでも井田さんはあきらめていません。「制度を待ち望んでいる人がいるという責任感からです。今年2月に亡くなった『均等法の母』とも称される赤松良子さんに、『毎日人に会いなさい。法律を作るときは不完全でもいいから、とにかく作ること』という助言をいただきました。先輩方からも、後輩たちからも期待されている制度ですから、恐れずに向かっていきたい」

法律で夫婦同姓を義務づけている国は日本以外にないとされます。旧姓使用が広がってきたとはいえ、経済がグローバルになるなかで旧姓使用では限界があるとして、経団連など経済界から選択的夫婦別姓の実現を求める声が高まっています。

読売新聞の2022年の世論調査でも、「法律を改正して、夫婦別姓を認めるべきだ」という質問に、賛成20%、どちらかといえば賛成39%、どちらかといえば反対が26%、反対が13%で、賛成が反対を上回っています。女性の社会進出、人口減、デジタル化など、この間の社会の変化は大きく、家族や姓のあり方も未来を見据えて考える時期に来ていると言えるでしょう。

「はて?」と、私たちが日常生活の中で抱く違和感の正体は何なのか。突き詰めれば、自分ひとりの問題でも家族の問題でもなく、社会の問題である可能性があります。自分の抱く違和感を大切にしながら、世の中と向き合っていこうと思うのでした。(読売新聞生活部長 小坂佳子)