高良健吾主演、大東駿介、石田卓也、この3人がある事件に関わる幼馴染として共演する映画『罪と悪』。監督は、今まで井筒和幸、岩井俊二、武正晴、廣木隆一といった監督陣の元、助監督を務めてきた齊藤勇起監督であり、自身による完全オリジナル脚本で映画監督デビューを果たした。14歳の少年達が罪を犯し、20年後に新たな事件で再会を果たすことに‥‥。正義とはなんなのか、そして悪人は一体誰なのか。

今回は本作で主演を務める高良健吾さんにお話を伺います。

―― 本作は高良さんも何度もご一緒している廣木隆一監督の助監督をされていた齊藤勇起監督の長編デビュー作になりますね。

はい、齊藤監督と初めてお会いしたのは廣木監督の現場でした。

―― 助監督時代から知っている齊藤監督のどういう部分が好きだったのですか。

助監督時代からスーパー助監督と思っていました。齊藤監督が仕切るとメチャクチャ現場が良い回り方をするんです。それに齊藤監督に言われると理解出来るというか、変に勘繰らずに安心感を持って接することが出来ます。助監督時代からの知り合いなら皆さん、齊藤監督に対してそういう印象があると思います。凄く頼られてきた人です。

―― 最初に脚本を読まれた時の感想を教えて下さい。

「こんな話の映画を撮りたいと思っている」と齊藤監督が頭の中で考えている段階から実は話を聞いていました。その時から脚本をいただくまでには、1年か2年ぐらいあったと思います。だから“やっと台本を手に出来た”という喜びの気持ちが大きかったです。それに自分が現場で助監督として出会った方が“監督をする”ということは、やっぱり嬉しいことです。

―― 齊藤監督の初監督ぶりはいかがでしたか。

OKを迎えるまでの潔さ、かっこ良さ、覚悟の持ち方、それが皆、そんなにズレていなかった。現場に僕は居て楽しかったです。「OK」を出したものに対して「これでいいんだ」という責任を持ってくれる監督について行きたくなる感じでした。

―― ワンショット、ワンショットが凄く締っていますよね。冒頭のシーンから私は好きでした。

そうなんです。冒頭は俯瞰からでしたが、映画の広がりを感じるんです。悔しいですけれども、韓国映画のようなスケールの大きさというか‥‥、韓国映画の凄さはスケールの大きさで、それにお金も使える。でもこの映画は低予算で3週間ぐらいの福井オールロケだというのに、これだけの作品に仕上げている監督は、滅多にいないと僕は思っています。物語は冒頭の回想シーンだけで20分〜30分あって、そして物語を2時間でしっかりとまとめていくんです。

―― この回想シーンに登場する子役の人たちの姿を見て、ご自身の演技に影響している部分はありますか。

それはなかったです。実は撮影順が逆で、僕たちの撮影が終わった後に少年時代の撮影があったんです。だから自分が子役の方の何かを参考にするということはなかったんです。

―― 映画を観ていて“気持ちの良い編集をされている”と感じました。

そういうのを含めた映画の作り方のスケールの大きさを僕は感じました。説明過多の映画ではないですし、登場人物に対して「わかる、わかる」と共感が出来たり、好きになってもらうことを求める映画でもない。だけどスケールが大きく、そこに感動するんです。しかも、この映画はサスペンスですが、犯人捜しの映画ではないんですよね。

―― 登場人物である子供たちの青年期は撮らず、大人になってからの姿でその後の様子を表現することになりましたが。

そうですね。だから正直、この脚本を貰った時、不安だったのは描かれていない部分でしたね。“自分はこれまでどう生きていたのか?”ということを、僕たち大人パートの俳優が、それぞれ考えていないと成立しない脚本だと思ったんです。だから映画の中で描かれていない部分も、凄く大切にしないといけないと思っていました。それで完成した映画を観た時、映画に映し出されているものの中に描かれていないものがたくさん映っていたんです。その描き方のスケールがでかい。

―― 共演された大東駿介さんと石田卓也さんの印象を教えて下さい。

2人とも1つ歳上ですが、10代の頃からオーディションで一緒でした。よくオーディション会場で会っていましたし、誰かが断った役が自分に来たり、もちろんその逆もあると思うし、そういう関係性でやって来ました。

僕の中では、2人に対してライバルという意識は1ミリもありません。ずっと10代の頃から一緒にやって来た仲間という感じでやれたので、凄くやりやすかったです。各々が考えて来る役のバックボーンを現場でセッションした時に「そういうことか」と気づかされることも多かったです。やっぱり同世代の俳優と一緒にやれたことは刺激的でした。

―― 撮影のない時は、何か話をされたのですか。

3人で食事に行ったのは‥‥、1回ぐらいじゃないかな。皆、ベタベタするタイプでもないので、それが良かったです(笑)。

―― 自分達を動物に例えるならなんですか。

大東君はでかい人だと思っているので、動物に例えるとゾウとかかな。石田君はちょっと歳を重ねたトラ。昔はトラだったけど、落ち着いた感じがするから(笑)。ちょっと老いて達観したトラです。自分は鳥ですかね、何となくですけど。

―― 色々なジャンルの日本映画にご出演されていますが、日本映画に携わる上で考え方に変化は生まれましたか。

年齢が変わっていくという部分で、変化していく部分は大きいです。ただもう少し、自分が居る世界や自分がやっていることに対して、自分事ではなくなってきた感じはします。今までは全部自分事でやって来た人間でしたし、いまだにそういう部分もあります。でも、もう少し「これは誰かの為になる。誰かが笑ってくれたらいいな。この映画で誰かが喜んでくれたらいいな」と関わり方として半径が狭かったものが、広がったとは思います。

―― 最近20代の若い俳優さん達にインタビューする機会があったのですが、皆さんが「自分の役でいっぱいいっぱいなのですが、先輩たちを見て映画全体を見ないといけないということに気づかされました」と言っていました。

僕の勝手な印象ですが、若い頃の方が逆に誰かの元気や勇気の為にやっている人が多いと思っていました。今は違うのですね。でも、20代の時に他人を演じる仕事を選び、それをしているのだから、いっぱいいっぱいであるべきですよね。それは“セットになっている”と思っているので、それでいいと思います。変に達観する必要はありませんよね。

―― その枠からは抜けられましたか。

抜けていると思います。抜けた方が広がって面白いので。自分の為だけでやるわけではないと。自分の中で抱えているものを消化出来たら嬉しいですよね。だけど、それだけじゃないと感じています。

―― 出演作品を選ぶのに、大切にしていることはなんですか。

タイミングと縁に重きを置いています。『Gメン』(2023)に出演した時、周りからは「よく出たね」と言われたりもしました。でも、あれは“スケジュールが空いている”という物理的なタイミングもありましたが、33歳で【高校生役】なんて2度と出会えるわけがないので、だったら2度と出会えない役を演じたいじゃないですか(笑)そういうのもあって“やって良かった”と思っています。これは縁ですね。

―― 『Gメン』も『東京リベンジャーズ』(2021〜)も下の世代の多くの若い俳優さん達と共演をされていますが、彼らを見てどう思われましたか。

まず吉沢亮とは、NHK大河ドラマ「青天を衝け」(2021)では、いとこ役を演じていて『東京リベンジャーズ』は兄弟役。血の繋がり的にはちょっとレベルアップしました(笑)。これもタイミングと縁ですね。

やっぱり若い人達と共演して思うことは、僕たちの若い頃と変わらず皆、芝居に真剣です。面白かったのは『東京リベンジャーズ』も『Gメン』も舞台挨拶の雰囲気から何から何まで違うんです(笑)。同じ下の世代の子たちなのですが、世代が一緒でもノリが違うという面白さがありました。

『東京リベンジャーズ』はちょっとヒリヒリ系な感じで、それは出演者たちが持っているもの、抱えている感じなんだと思います。『Gメン』は作品もそうですがもう少し柔らかい感じでしたね。

―― 面白いですね。私は以前ご一緒した『蛇にピアス』(2008)の時の井浦新さんと高良さん、吉高由里子さんの舞台挨拶を凄く覚えています

僕も凄く覚えています。この前、ご飯を食べる機会があって3人で話をしたんです。その時、『蛇にピアス』の舞台挨拶時の写真を皆で見ながらあの時の事を掘り下げたんですけど、僕と新さんが地面に座っていて、誰ひとりとして笑ってなかったんです。

―― 井浦さんから初日舞台挨拶では会場毎に質問内容を毎回変えて欲しいと言われて、「皆で色々と経験をしよう」という意図に感じました。

確かに、それはあったかも。新さんもまだ俳優という仕事を本腰でやっていない時だったと思います。だから当時は、どちらかと言えば元気なやんちゃなお兄ちゃんという感じでしたね。今はお父さんみたいな感じですが。 

―― 今は高良さんの背中を見ている後輩たちも居ます。今後“どんな俳優になっていきたい”というものはありますか。

自分がしてもらって嬉しかったことは、後輩たちに全部しています。自分がしてもらって為になったり、自分が貰って嬉しかった言葉だったりを自分の中で消化して自分の言葉に変えて伝えています。僕も先輩たちから大切な何かを貰っている感じなので、伝えることでその人にとって大切な何かになっていったらいいなと。先輩から貰ったものを後輩に繋いでいるという意識はあります。

僕自身は、かっこいい先輩に育ててもらいました。きっと、先輩たちももっと上の先輩から教えてもらい、受け継がれて来た言葉や接し方、現場の居方などだと思うので次の世代に伝えています。

―― 具体的な言葉とか、覚えてたら教えてもらえますか。

誰に言われたかは覚えていないのですが、今、パッと思い浮かんだのは「スタンドイン(撮影前に、配光、立ち位置を確認するといった照明や撮影の準備作業の為に、俳優の代理をする人物のこと)はなるべく自分でした方がいい」です。

スタンドインって、だいたい助監督さんやスタッフの人達がやってくれるんですけど、僕は自分でやると決めています。もちろん休憩などで出来ない時もありますが、なるべく自分でスタンドインからやると決めています。理由は一番良い光を当ててもらえて、一番良い所にカメラが入るわけじゃないですか、そして僕らはカメラの前に立つ。撮る人達も段どり前や本番の時だけ自分が出て行くよりも、最初から居た方が皆良いと思うんです。自分の為にもなるし、自分の一番良い所で撮影してもらえる。案外黙って現場でそれをやっていると不思議と皆そうなっていくんです。別に何かを言う訳でもありませんが、自分が立っていた方が良く映るんですよね。

どんなジャンルの映画にも縁とタイミングを大事に。確かに硬派な映画に出演していたイメージもあったものの、近年はエンターテインメント大作にも楽しんで出演している高良健吾さん。人との繋がりや出逢いから得たことを身体に染み込ませ、歳を重ねているんだと感じたインタビューでした。本作の『罪と悪』どの俳優も光るショットがある、これも助監督時代を経験した齊藤監督だからこその脚本だと確信します。

取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 岸豊

ヘアメイク:森田康平
スタイリスト:渡辺慎也(Koa Hole inc.)

作品情報 映画『罪と悪』

何者かに殺された13歳の少年、正樹。彼の遺体は町の中心のある橋の下で発見された。同級生の春・晃・朔は、正樹を殺した犯人と確信した男の家に押しかけ、もみあいになる。そして、男は1人の少年に殺される。彼は家に火を放ち、事件は幕を閉じたはずだった。時が過ぎ、刑事になった晃は父の死をきっかけに町に戻り、朔と再会する。ほどなく、ある少年の死体が橋の下で見つかる。20年前と同じように‥‥。晃は少年の殺害事件の捜査の中で、春と再会し、それぞれが心の奥にしまっていた過去の事件の扉が再び開き始める。かつての事件の真相は、そして罪と向き合うということとはー。

監督:齊藤勇起

出演:高良健吾、大東駿介、石田卓也、村上淳、佐藤浩市(特別出演)、椎名桔平

配給:ナカチカピクチャーズ

©2023「罪と悪」製作委員会

2024年2月2日(金) 公開

公式サイト tsumitoaku-movie