新人監督・宮嶋風花監督が自身の体験を元に、高校生の時に亡くなった母への想いや、子供だったあの頃の自分が抱えた喪失感を3年の年月を経て映画脚本として完成させた『愛のゆくえ』。生まれ故郷の北海道の大自然の中で、親を失った14歳の愛と宗介の感情がアニメーションや絵も挿入されながら変化していくアートのような作品です。今回は、本作で初主演を果たした長澤樹さんと共演の窪塚愛流さんに、撮影でのことや自身が親から影響を受けたことなど「今」の自分を語って頂きました。

――映画『愛のゆくえ』は、象徴的なショットが多く、表現方法も多岐に渡り、驚きの連続でした。

長澤:本当に凄い映画ですよね。私は最初に台本を読んだ時から“『愛のゆくえ』の愛ってどっちの愛?”って考えていました。私が演じている主人公【愛】の名前を指しているのか?それともLOVEの愛なのか?でも、きっとどちらもあるんだろうと思っていて、もしかしたらもつと‥‥、色々な意味があるのではないかと思っていました。隅から隅まで作り込まれている部分があって、【愛】と一緒に旅をしている気分にもなりました。凄く”素敵だな”と思っていました。

――この映画は突如、アニメが入っていたり、斬新なシーンがたくさんありましたよね。  

窪塚:映画の冒頭、絵を描いているシーンがあるんですけど、あそこのオタマジャクシからカエルに変わっていくシーンが、凄くこの映画のキモのような気がしているんです。あのシーンは「生命の成長」を感じて凄く好きです。

――あのシーンは脚本に書かれていたのですか。

長澤:アニメーションになるとは書かれていました。でも実際にどのような画になるのかは全然分からなかったんです。なので完成された作品を観てハッとしました。

――長澤さんは、作品の分岐点となるシーンでは、渋谷のスクランブル交差点のシーンもありましたが、撮影は大変だったのでは。

長澤:あのシーンは凄くドキドキしながら演じていました(笑)。渋谷のスクランブル交差点での撮影は初めてで、”周りの人は撮影をしているのを知らないんだな”と思いながら、1人で赤いジャージを着ての撮影は凄く楽しかったです。

―― 一発撮りの撮影が多かったのですか。

窪塚:多かったです。積もった雪の中を2人で歩くシーンとか‥‥、映画のイメージ的に先に足跡を付けてはいけないから。

長澤:演技のリハーサルだけ雪のない所でやって、いざ、撮影という感じでした。

窪塚:僕たちも”本当にここ、足場あるかな?”って感じてやっていました(笑)。最後のシーンは2人でズボズボって雪に足を取られながら歩いていました。

長澤:「転ばなければ、とりあえず大丈夫だから」と言われていました(笑)。今回の撮影は景色に支えられた部分もありました。

――共演してみてお互いにどんなところが魅力だと思いましたか。

長澤:窪塚さんは、ひとつひとつ凄く丁寧に真摯に向き合われているところが“流石だな”と思いました。目の前の課題、やらなければならないことがあれば、それを全力でやってからその次に行く。そんな感じにひとつひとつを丁寧にやっていると私は感じていました。

――窪塚さんは宮嶋風花監督に撮影時に色々と質問などされていたのですか。

窪塚:質問しました。分からないまま演じるのは、色々な方に迷惑をかけるし、勝手に解釈するのも違うと思うんです。皆で本気でやりたいからこそ、最後まで追求するということを何時も心掛けています。長澤さんも本当に宮嶋監督とよく話し合っていました。皆で作り上げていくということを長澤さんを筆頭に、僕も一緒にやらせて頂いていました。

僕が長澤さんに対して“いいな、素敵だな”と思ったことは、ワンシーンワンシーンに沢山の想いがあるので、それを宮嶋監督とちゃんとすり合わせている姿です。自分だけでやるのではなく、宮嶋監督の想いをちゃんと聞いている。撮影の前やホテルに帰る時も宮嶋監督と映画の話とかをよくされていたんです。それが凄く素敵だと思いました。僕は”今日はちょっと疲れたな”って思っちゃったんですけど(笑)。あと“素敵なお芝居だな”と思ったのは、台詞が無くて、ただ何かを見ていたり、立っているだけなのに美しいんです。

――私はこの映画を観た時、自分と子どもの関係、更に自分と親の関係について考えました。親という存在は、自分の考え方なども含め、人生に大きな影響を与えてるんだなと気付かされました。考え方など親からどんな影響を受けていると思いますか。

長澤:いっぱいあります。今も受けていますし、これから先もずっと受けていくと思います。親の考えと同じこともあるし、もちろん違うこともあります。でも家族だからというのが凄く大きいと思うんです。もちろん、友達など話が合う相手って居ると思うんです。でも家族って何かが違うというか、言葉にするのは難しいのですが、きっと愛とか、そういうものが関わってくるのだと思います。

うちには「これはこうしなさい」というのはなくて、本当に自由にさせてもらっているような気がしています。例えば「女優をやりたい」ということも含めて、「やりたいことをやりなさい」と今も言ってくれています。私自身“女優になる為に生まれてきたんだ”と思っているのですが、家族皆が私と同じような考えでいてくれるんです。それが本当にありがたいです。

――素敵ですね。皆さんが肯定的というか、ポジティブなんですね。

長澤:応援してもらっています。でも、ちゃんと叱る時は叱る感じです。

窪塚:僕は昔から「感謝を忘れるな」と「何事も楽しめ」と言われています。それが自分の中の基盤になっています。例えば今のインタビューの会話も全力で楽しむとか、朝起きて仕事に行く時間でさえも楽しむ。「全てを楽しむに変換しろ」と言われていました。それが自分の人生にとって大きな『家族のメッセージ』で、その言葉があったからこそ今の自分があると思っています。あとは感謝ですね。

――私は以前から、窪塚さんのお父さん(窪塚洋介)とお仕事をご一緒させて頂いていますが、現場に小さな愛流くんを連れて来て、紹介してくれた時もありました。

窪塚:そうなんですか !?

――紹介されました。とても家族愛に溢れていますよね。

窪塚:はい、ありがとうございます。

――映画では、愛は親以外からもどんどん影響を受けていきます。長澤さんや窪塚さんが映像で刺激を受けた方を教えて下さい。

長澤:言ってしまったら出会った人、全員なんですよね。“この人が居なかった”という未来はないわけで、例え挨拶をしただけだとしても、その人が居ないという自分の人生は存在しない。そういう意味では全員で、皆さんとの出会いが大切なんだと思います。

その中で「女優になりたい」と思ったきっかけは、オードリー・ヘップバーンさんです。もちろん私とは生きた時代が違うので一度もお話をしたことはありませんし、亡くなられている方で写真や映像でしか観たことがないのですが、凄く影響をもらっていると思います。もともとは母が好きで部屋に写真が飾られていたんです。

――どの作品が特にお好きですか。

長澤:悩みますね。でも最初に観た作品は『ローマの休日』(1953)です。『ローマの休日』は本当にキラキラした作品で、素敵なロマンス映画だと思っています。でも最近は『シャレード』(1963)とか、いつものオードリーとはちょっと違う影のある感じの演技を観ることが出来るので凄く好きです。

窪塚:僕は高校の校長先生です。実は高校2年生まで凄く服装がだらしなかったんです。制服のネクタイの結び目をシャツの第二ボタンの所まで下げていたし、シャツのボタンも上まで止めない、授業中も凄くくつろいだ座り方で聞いている感じだったんです(笑)。

でも高校3年生に上がる時に、ずっと仲が良かった校長先生に朝呼び止められて「お前は良くも悪くも目立つ。だから服装だけはちゃんとしろ」と言われたんです。その時ハッてなって、“確かに”とその瞬間、自分の考え方が180度変わった感じがしました。そこから“身だしなみはちゃんとしよう”と思って、次の日からネクタイも一番上まで上げるようになりました。そういう社会人として基本的なことを教えてもらってからは、年上の方には敬語を使うなど言葉使いも改めていくようになり、今の自分の基盤になっています。あの校長先生の言葉がなかったら、僕は今でもきっとだらしないままで、人前でも身だしなみを気にしない、敬語も使えなかったのではないかと思います。自分の人生において、大きな分岐点を与えてくれた人です。

長澤:素敵ですね。

窪塚:とてもフラットな校長先生で、生徒と同じ目線に立つてくれる人でした。

――映画『愛のゆくえ』では、愛が絵を描く姿が何度か映し出されていきます。そのことから、自分を色に例えるとしたら何色ですか。

窪塚:う〜ん、どうだろう、でも白ですかね。僕は結構、人に流されやすいんです。居る人によって性格も変わってしまうぐらいに。白は青と一緒に居たら青色になっていきそうだし、良い意味で言うと色々な色になることが出来る。悪い意味で言うと色々な色に染まってしまう。

――役者向きですね。役によってストンと変わるということですよね。

窪塚:はい。服装によっても変わります。

長澤:私は‥‥、透明ですかね(笑)。何色でもない感じと言いたいです。窪塚さんと近いようで違うというか、自分を持ちたいと思っています。何色にもならないということを目指しているというか、そうなれたらいいと思っています。

何色にもなれるということは、本当に素敵なことだと思います。質問の意図とは違いますが【白】、いいですよね(笑)。

――色々な色の役を演じても、中身は透明ということですね。

長澤:そうですね(笑)。出来たら素敵だと思っています。

窪塚:【透明】凄くいいね!

宮嶋風花監督と一緒に考えながら役を演じていった長澤樹さんと窪塚愛流さん。撮影前に監督からそれぞれの役の年表のようなものを貰っていたとのこと。そのお陰で、演技をするのに自分の役を理解しやすかったと語っていました。映画を見ると、子供は親や周囲の大人から愛を貰い、影響を受けながら、自分なりに考えて成長していき、やがて巣立っていくんだと感じずにはいられませんでした。それが本作のあるシーンとなる雪景色のように厳しいものであろうとも美しい人生になっていくことを願い。『愛のゆくえ』は、宮嶋監督の独創的な視覚の変換が生み出した「愛の姿」を表現した映画なのではと私は感じています。

取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 岸豊

長澤 樹 / ヘアメイク:MAI KUMAGAI(HITOME)
長澤 樹 / スタイリスト:上田 リサ

窪塚愛流 / ヘアメイク:小嶋 克佳
窪塚愛流 / スタイリスト:上野 健太郎(KEN OFFICE)

作品情報 映画『愛のゆくえ』

北海道で暮らす幼馴染の、愛と宗介。宗介の母はうまく愛情を表現できず、愛の母は少しおせっかい。それでも2組の親子は懸命に生きていた。しかし、そんな日常がある日突然壊れてしまう。喧嘩をして家を飛び出した宗介を探している途中、愛の母が亡くなってしまう。愛は父親に連れられて東京へ、宗介は北海道に残った。大自然に囲まれた北海道と正反対の都会。引き離された孤独な心を抱えた少年少女は、苦悩の中で一体何を見つけるのか‥‥。

監督:宮嶋風花

出演:⻑澤樹、窪塚愛流、林田麻里、兵頭功海、平田敦子、堀部圭亮、田中麗奈

配給:パルコ

©吉本興業

公開中

公式サイト ainoyukue.official-movie