今から300年後の世界、進化した猿たちは絶対的支配を目論み、独裁者プロキシマス・シーザーのもと巨大な帝国<キングダム>を築こうとしていた。一方、人類は退化し、言語も文明も失って、まるで野生動物のような存在となっていた。この独裁者によって村と家族を奪われた若き猿ノアは、旅の途中で人間の女性ノヴァと出会う。彼女は人間の中で “誰よりも賢い” とされ、猿たちから狙われていた。

彼らの種を超えた団結は、狂気の支配を止められるのか。猿と人間の共存は不可能なのか。その先に “希望” はあるのかーー。映画史に残る神話的名作シリーズ『猿の惑星』の完全新作として描かれる新たな “猿の惑星”。ここに新章が開幕する。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『猿の惑星/キングダム』のウェス・ボール監督に、本作品や映画への思いなどを伺いました。

日本アニメとSF映画から始まった映画人生

池ノ辺 ボール監督は、日本のアニメが大好きだと伺いました。

ボール そうなんです、大好きです。もうそれで細胞ができているというくらい(笑)。

池ノ辺 小さい頃から日本のアニメを見ていたんですか。

ボール 当時は、これが日本のアニメだとはっきりわかって見ていたわけではないです。というのも、高校生、大学生くらいからははっきり自覚して見始めたわけですが、そうしたら、「あれ? これは見たことがあるな」というものがあったので。とにかくそこからは、しっかり意識して見て、いろいろ吸収してきました。特に宮﨑駿監督の作品は、特別でしたね。何というか、宮﨑作品は没入できる物語です。その中に一つの世界が構築されていて、自分もその世界に住みたいと思わせるような魅力があるんです。

池ノ辺 それがきっかけで、映画監督になろうと思ったんですか。

ボール 少なからず影響はあるとは思います。ただ、具体的に映画を作りたいという思いは、13歳の時に劇場で『ジュラシック・パーク』(1993)を観て受けた衝撃から始まっています。

池ノ辺 他にも衝撃を受けた映画はありますか?

ボール 『ターミネーター2』(1991)や『E.T.』(1982)、『エイリアン』(1979)、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)などのシリーズなどですね。

池ノ辺 そして映画監督への道を歩まれたんですね。

ボール はじめは監督になりたいというより、とにかく映画作りに参加したいと思っていました。ですから、スタントマンでも爆薬を扱うような特殊効果スタッフでも何でもよかったんです。

池ノ辺 実際に映画の爆薬を扱う仕事をしてたんですか。

ボール していましたね(笑)。

これは一つの成長の物語

池ノ辺 正直に言うと、これまでの『猿の惑星』シリーズでは、登場する猿たちの顔の違いがなかなかわかりづらくて、みんな同じように見えてたんです。それが、今回の作品では、各々のキャラクターが個性的ではっきりと違いがわかりました。

ボール それは、この映画を作るにあたり、すごく気を遣ったところです。かなり時間をかけて、それぞれのキャラクターが区別できるように作っていきました。

池ノ辺 それで今回は何が違うのかなと、自分なりにもいろいろ考えてみたんですけど、一つは表情がとても豊かなこと。まなざしとかね。そして、ハートが感じられたんです。

ボール とてもうれしい感想です。この作品はもちろんエイプ(類人猿)たちが登場する物語ではあるんですが、同時に人間の物語です。観ている僕たちは、彼らの中に感情移入したり、彼らの中に自分自身を見るわけですから。

池ノ辺 そうなんです。だから心を動かされ、泣きそうになったりもしました。

ボール 池ノ辺さんにとっては、どの辺りが心を動かされるポイントだったんですか。

池ノ辺 たくさんあったんですが、特に、主人公のノアが成長していく過程に感動しました。彼の両親も、やはり人間と同じように我が子を愛し力を与え、息子もそれに応えるようにたくましくなっていく。顔つきも変わって行動も変わっていく。その成長がはっきり見えて、驚きましたし、ジーンときました。

ボール あれはまさに、人が大人になる、成長の過程ですよね。最初の場面であった彼の純真無垢な部分は、最後には失われている。最後の彼の目は、いろんなものを見てきた、そんな目をしている。

池ノ辺 そうなんです。

CGとリアルの融合が創り出す超リアルな世界

池ノ辺 この作品で、ほかに素晴らしいと思ったのが、音や映像がすごくリアルで、風景や風の音、鳥の声など本当に自分が森の中にいるように感じられたことでした。

ボール あれは、ほとんどがCGなんです。ただ、100%CGによる場面でも、リアルな、地に足がついたものにするために努力しました。全部がCGというのは映画全体の内の30分くらいでしょうか。あとは、CGとリアルなロケーションでの映像を組み合わせて作っています。こちらに本物の木、カメラを回すとCGの木、こちらには本物の馬、あちらではCGの馬というようにね。

池ノ辺 そういうところからも、この映画は皆さんにはぜひ劇場の大画面で観てほしいと思いました。没入できる映画ですから。

ボール 僕もそう思います。

池ノ辺 CGとリアルという点では、同じような衝撃を受けたんですが、山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』(2023)はご覧になりましたか?

ボール もちろんです。彼も僕と同じようにVFXのバックグラウンドを持って、そこから監督になっているので、ツールの使い方がよくわかっていますよね。

池ノ辺 ところで、『猿の惑星/キングダム』の続編はあるんですよね。

ボール そうだといいなとは思っています。実際、脚本を書いている時からどういう方向に向かっていくのかということは考えていますし、これは、より大きな物語の始まり、序章に過ぎないと思ってます。ですから、この映画の成功によって、何とか次回作につなげたいですね。

池ノ辺 私は、この映画が大ヒットして次作が絶対に作られると思っていますけど(笑)。

ボール 僕もそう願ってはいますが、映画というのは何が起きるかわかりませんから、あまり期待し過ぎないようにしようとも思っています(笑)。

映画は、起きながらにしてみる2時間の夢

池ノ辺 それでは、最後にお聞きしたいのですが監督にとって映画って何ですか。

ボール 「夢」でしょうか。映画にはまず、音や音楽があります。普通なら気が散るような、うるさいと感じるようなものかもしれないのに、それが、観る人にとっては、“映画の体験” になります。そして目から入ってくるのはカメラで撮られた映像です。今回のこの映画でいえば、CGという人工的なものとリアルを組み合わせた映像です。これらを約2時間にわたり浴び続け、まるで本当に体験しているかのような感覚で没入して、そこに共感したり感動したりする。実際にはもちろん起きているんだけれども、まるで夢を見ているような、つまり僕たちが夢の中で受けるような感覚で体験する、それが映画じゃないかと思います。

池ノ辺 その夢の中で、それを観ることで感動したり元気になったりしますよね。

ボール それは作品の質にもよるかもしれませんね。素晴らしい作品ならそうだと思いますけど、中には悪夢として機能するものもあるんじゃないかと(笑)。

池ノ辺 私はこの作品を観て元気になったし、何より愛を感じましたよ。

ボール そういうことを考えながら作った作品なので、そこを受け止めてくださってとてもうれしいです。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

ウェス・ボール(Wes Ball)

監督

1980年、米・フロリダ出身。フロリダ州立大学映画芸術大学で学んだ後、グラフィックデザイナー、VFXアーティストとして活動。2011年に約9分の短編CGアニメーション『Ruin』を監督。2014年にジェームズ・ダシュナーの同名小説を映画化した『メイズ・ランナー』の監督に抜擢され、全世界で大ヒットを記録。続く『メイズ・ランナー2:砂漠の迷宮』(2015)と『メイズ・ランナー3:最期の迷宮』(2018)でも監督を手がけた。本作の完成後には、日本初の人気ゲームの映画化『ゼルダの伝説』の脚本・監督、短編『Ruin』の長編映画化プロジェクトなどが控えている。

作品情報 映画『猿の惑星/キングダム』

人間と猿、地球の支配者の劇的な交代劇が起こってから何年も後の世界。高い知能と言語を得た多くの猿は文明的なコミュニティを築き、人間社会のような進化を遂げた。一方で人類は言語、文化、技術、社会性を失い、野生生物のような存在となっていた‥‥。

監督:ウェス・ボール

出演:オーウェン・ティーグ、フレイヤ・アーラン

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

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