コミュニケーション能力が高い人というと「話すのが上手」なイメージがあると感じる人も多いと思いますが、一方で「聞き上手な人」といわれることもあり、「人の話を上手に聞けるようになりたい」と考える人もいるのではないでしょうか。実際、上手に話を聞くことができるようになると、コミュニケーション能力も磨かれるものなのでしょうか。心理カウンセラーの平井綾乃さんに教えていただきました。

ただ話を聞いて、肯定すればよいわけではない

Q.「ただ、話を聞く」ことだけでも、コミュニケーション能力はアップするのですか。

平井さん「相手の視点に立って考え、共感しながら話を聞く『傾聴(けいちょう)』というスタンスであれば、コミュニケーション力は洗練されていくのではないかと思います。

傾聴は、ただ相手がしゃべり終わるのを待って相づちを打ち、その内容に対して『うんうん、その通りだね』と肯定すればよいというものではありません。何か悩み事を聞いている状態だとしたら、なぜ相手が困っている状況に置かれているのかを、自分の価値観や思い込みなどにとらわれずに、相手の視点や気持ちに立って話を聞ける、というのが理想です」

Q.話を上手に聞くための「傾聴」のテクニックを教えてください。

平井さん「傾聴のスキルや精度を高めるのはそう簡単なことではなく、プロであっても数年かけてようやく習得できるものです。

そもそも人間は、自分自身の価値観や興味に引っ張られてしまいやすく、『相手の視点に立っている』と思っていても実際は自分をフィルターに通してしまった、ということが起きがちです。そのため、傾聴の第一歩として、まずは相手から投げかけられた会話の情報に意識を向ける癖をつけてみるとよいのではないでしょうか。

例えば、相手から『昨日こういうことがあったんだよね』と話しかけられたとして、『へぇ、そうなんだ』で終わらせるのはちょっと寂しいですよね。ここで、『どうしてそこに行ったの?』『私もしたことがあるんだけど…』などと会話を掘り下げるような選択肢をいくつか用意できるようになると、自然と会話が弾むと思いますよ」

Q.心理カウンセラーは、どのように「傾聴」を取り入れているのですか。

平井さん「アメリカの心理学者であるカール・ロジャーズ氏が提唱した『傾聴の3原則』があります。傾聴に関わる3つの要素を定義づけたもので、『共感的理解』『無条件の肯定的配慮』『自己一致』がこれにあたります。この原則が生まれた背景には、当時アメリカの精神科医やカウンセラーが相談者に対し、今でいう“上から目線”の批判的な関わりがあって問題視されたことがありました。

『共感的理解』は、『相手の視点に立って物事を考え、理解する』ということです。次の『無条件の肯定的配慮』は、相手の話を善悪や自分の好き嫌いで判断するのではなく、どうしてその選択をしたのか、中立的に物事を判断するという意味合いです。そして、最後の『自己一致』は、自分自身から生まれた感情や体験を受け入れるようになること、そして自分自身の感情や行動を客観的に分析・理解できるようになることをいいます。

プロのカウンセラーは、こうした傾聴のスキルや意識をもって、患者さんと対話をしています」

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 コミュニケーションにおいて、発言をすることだけでなく「耳を傾けること」も重要であると話題になることも増えてきたように感じます。とはいっても、「傾聴」というのは文字通り耳を傾けていればよいのではなく、相手の意見や価値観を尊重しているか、相手の視点に立って物事を理解できているか、といったさまざまな視点が重要であることが分かりますね。聞き上手になりたいと思っている人は、「傾聴」の考え方やエッセンスを取り入れてみるといいかもしれません。