「自然分娩のリスクが大きいと考えられる」…出産時、さまざまな事情や理由でそう判断された際に選択されるのが「帝王切開」です。この帝王切開について、ネット上などでしばしば聞かれるのが「低身長の女性は帝王切開になる可能性が高い」という声です。「小柄」「低身長」であることから「早い段階で帝王切開が決まった」といった体験談も少なくないようですが、「必ず帝王切開になるの?」という疑問の声や「小柄だと自然分娩は難しいのかな…」と気にする声も聞かれます。

「低身長の女性は出産時、帝王切開になることが多い」。この真偽について、神谷町WGレディースクリニック院長で産婦人科医の尾西芳子さんが解説します。

「小柄だから即、帝王切開」ということはない

 まず、「帝王切開」がどのようなものなのかについてお伝えします。

 帝王切開とは、お母さんのおなかを切開して、赤ちゃんを取り出す手術のことです。以前は下腹部を縦に切開していましたが、最近では美容の観点もあり、横に切開することがほとんどです。

 分娩時に赤ちゃん、またはお母さんの状態が悪い場合に選択されますが、母子ともに異常がない場合でも、次のようなケースにおいては帝王切開を行います。

・多胎(双子や3つ子など)
・骨盤位(逆子)
・赤ちゃんが大きいか、お母さんの骨盤が小さい「児頭骨盤(じとうこつばん)不均衡」
・巨大児
・陣痛が弱まるなどして分娩が途中で止まってしまう「分娩停止」
・早産
・子宮の手術歴がある
・子宮筋腫がある

 結論からいうと、低身長の女性や小柄な女性が出産する際、帝王切開になりやすいのは「事実」です。

 分娩の際、赤ちゃんはお母さんの骨盤を通って出てきます。通常、赤ちゃんの頭の大きさにはさほど違いがないのですが、低身長の女性は背の高い女性に比べて骨盤が小さいため、そこを通ろうとすると、赤ちゃんの頭が引っかかって通れないということが起こるのです。医学的には「児頭骨盤不均衡」といい、帝王切開の対象になります。

 ただし、「お母さんが小柄だから即、帝王切開」ということはありません。あくまでも、赤ちゃんの大きさとお母さんの骨盤の大きさの相対的な評価によります。

 よく、「夫婦の身長差がある(夫の身長が高い)と帝王切開の可能性が高い」などという話も耳にしますが、これは夫婦とも小さければ赤ちゃんも小さいのが一般的ですが、「お父さんが大きいと赤ちゃんが大きい可能性があるため」ということです。

 また、骨盤が張っている「女性型」や、すらっとして細い「男性型」など、お母さんの骨盤の形態によるところもあります。そのため、事前にお母さんの骨盤のエックス線検査を行い、超音波で計測した赤ちゃんの頭の大きさと比較して、スムーズに通り抜けることができるかを判断します。

 ただ、実際は自然分娩にトライしてみないと分からないことも多く、分娩の途中で帝王切開になるケースもあります。

帝王切開にかかる費用は?

 ところで、ネット上では「小柄な妊婦さんは帝王切開に備えて民間保険に入っておいた方がよい」というアドバイスがしばしば見受けられます。

 自然分娩は「病気ではない」という認識から、公的医療保険や民間保険の適用対象にはなりません。そのため、かかった費用の全額が自己負担になります。現状、日本全国の出産費用の平均は48万円程度ですが、2023年、加入している健康保険や国民健康保険から受け取れる「出産育児一時金」が従来の42万円から50万円に引き上げられ、少子化対策として自己負担が減るようになってきています。ただし、無痛分娩や個室を希望した場合は追加料金がかかります。

 一方、帝王切開の場合、これにプラスして、検査や手術、麻酔などの費用がかかってきます。こちらは公的医療保険が適用されるので、自己負担金は3割になりますが、自然分娩と比べると自己負担金は平均して10万円程度増えます。それに備えるために「民間保険に入っておいた方がよい」という声があるのでしょう。

 加入を考えている場合は、「妊娠する前」に加入しておきましょう。妊娠してから加入すると掛け金が高くなる他、帝王切開に伴う入院や手術が補償の対象外となる場合も多いです。医療保険なので、妊娠・出産関係だけでなく、さまざまな病気やケガによる入院・手術の補償をしてくれますから、学校を卒業して働き出したら加入しておいてもよいかもしれません。

 女性の中には、身長と出産の関係を気にして、不安な気持ちを抱えている人もいると思います。

 近年、産科医の減少や医療訴訟の増加などを背景に、少しでもリスクがある場合は予測不可能な自然分娩を避け、帝王切開を行うことが増えています。しかし、「身長だけ」で帝王切開にするか否かを判断するということはないので、妊娠前から過度に不安に思う必要はありません。分娩方法については主治医とよく相談しましょう。

 ただ、分娩はお母さん、赤ちゃんの双方にとって命懸けです。どう計測しても自然分娩が不可能な場合は、帝王切開をおすすめすることもあります。その場合は「元気な赤ちゃんを迎えること」を一番に考えましょう。