おじさん未来研究所理事長でおじさんLCC(ライフキャリアコミュニティ)を運営する、おじさん専門ライフキャリアコンサルタントの金澤美冬さんは、定年後のセカンドキャリアを考えるには個人が主体となって柔軟でしなやかにキャリアを形成する「プロティアン・キャリア」が有効だと考えます。

プロティアン・キャリアとは、1976年にボストン大学のダグラス・ホール教授が提唱した、環境の変化に応じ、自分軸を持って自分自身を変化させていくというキャリア形成の考え方です。

女性からのリクエストも受けて、50〜60代の男性・女性に定年前の準備や、定年後にセカンドキャリアをスタートするための応援をする金澤さんが、定年後のライフキャリア形成に向けてどんな「行動」を起こせば良いか紹介します。

※本稿は金澤美冬著『おじさんの定年前の準備、定年後のスタート今こそプロティアン・ライフキャリア実践!』(総合法令出版)から抜粋・編集したものです。


定年後は、発信をしないと仕事が来ない

定年後のライフキャリア形成に向け、組織外の人間関係構築をしてプロティアンを実践するためには、「行動」に全てがかかっています。しかし、「『行動』って言っても何を始めたら良いの?」と思われる方も多いと思います。ここでは、どんな「行動」を起こせば良いか、2つに絞ってお話をします。

1つ目は発信すること。発信することで自分という存在を知ってもらい、同じ志の人とつながったり、同じ目的の人を見つけたりできます。さらには、情報は発信した人のところに集まってくるから情報収集のためにも絶対に必要です(私はおじさん情報を発信しているのでおじさんに関する情報が集まってきます)。

発信には様々なやり方がありますが、3つ紹介したいと思います。


1.SNSでの発信

まずはSNS。告白しますと、私は38年間SNSをやったことがありませんでした。FacebookやInstagramはもちろん、Twitterもmixiもです。なんだか面倒くさそうで、発信したいことなんて何もないと思っていたからです。「なぜそんなにやるんだろう?マメだなあ」と思い、登録さえしたことがありませんでした。

どうしてそれほど遠い存在だったSNSをやる決心がついたのかというと、異業種交流会でのある女性との出会いからでした。

勝間和代さんの話題になり、「勝間さんもメディアに出たくて出ている訳じゃなくて、自分の会社のことを知ってもらうにはまず社長である自分を知ってもらわなきゃいけないから出ているんですって」ということを聞いたからです。

「え?あの目立つことが好きだからメディアに出まくっていると思っていた勝間さんが?」と驚くとともに、「そっか、じゃあ私のように会社を立ち上げたばかりの人は、自分が出ないといけないんだ。腹をくくろう」と思ったのでした。

しかし、そこからが長い道のりでした。腹をくくったはずなのに、いざ発信しようと思っても発信したいことが何も出てきません。「私の言いたいようなことなどは既に誰かが言っている」「キャリアコンサルタントなんてたくさんいるから、私が出てくる必要がどこにあろうか?」と悩んでみたりしているうちに、数日が経過していました。

最初に手を出したのがFacebookでした。今思うと、Facebookの性質上、友達が少ない私のような人にはハードルが高かったのかもしれません。誰もが「旅行に行った」「花が咲いた」「痩せた」などと軽やかに発信してるのを、ただただ見ているだけになっていました(未だに何となく恥ずかしいのですが、何とかセミナーの告知や「おじさんLCC活動報告」などをちらほら出せるようになりました)。

Twitterは意外と楽しくできています。趣味であるおじさん研究の報告(?)が気軽にできて、「今日はこんなおじさんがいた」「『おじさんLCC』でこんな面白い発言があった」などといては気持ちを発散させています。そうすると、同志から「こちらにはこんなおじさんがいましたよ」などと素晴らしい情報が集まってくるという成果もあります。

SNSの中にも自分に合ったものがあるはずです。いろいろとやってみて、自分に合うものを探したほうが良いということです。私は50〜60代が多いというのでFacebookをやってみたのですが、実際にFacebookから「おじさんセミナー」や「おじさんLCC」に参加してくれる方は稀でした。

逆に、年齢層が低いからと期待していなかったTwitterから参加をしてくれたりと予想していた結果と異なることばかりで、やっぱりやってみないと分からないと思いました。

だからこそ、ユーザー層や雰囲気、機能などを比べた上で、いくつかやってみて自分に合うものを見つけていく必要があります。「こんな仕事がないか」「あんなことがしてみたい」など、発信することで情報が集まってくるはずです。


2.受け皿としての発信

ここまでは、言わば攻めの発信でしたが、次は受け皿としてのホームページ(HP)やブログなどからの発信です。もし仕事を依頼するとき、インターネットで検索して、名前が出てくる人と何も出てこない人のどちらを選ぶでしょうか?検索したときに出てくるようにしておくことも大切なのです。

FacebookやTwitterでは発信したことが消えていってしまうので、検索したときに発見しにくいのですが、HPやブログならば検索して内容を確認できるので、受け皿としての役割をしてくれます。

「おじさんLCC」もTwitterやFacebookから存在を知り、noteでの「ブログリレー」を見て面白そうだからとか、HPで確認したら悪くなさそうだからと、入会を決めてくれた方も多いです。今の時代、スマートフォン(スマホ)やPCで検索して確認しない人はほとんどいないため、この受け皿を作っておくことがとても重要です。


3.身近な人へ発信

自分がやりたいことや、何となく興味がある、気になっていることなどを周りの人に伝えます。そうすると、「それなら、こんな人を知ってるよ」「こんな場があるよ」など意外な情報を教えてもらえるかもしれません。

気をつけなければいけないのは「ドリームキラー」の存在です。「定年後にいまさらそんなことして何になるの?」「定年後はのんびりするのが一番。セカセカしてどうする」などと言い、人の夢を壊す人のことです。

そんなことを言われてしまうと「そうなのかな?」と不安に思ってしまうかもしれませんが、そこはサラリーマンとしての「スルースキル」を発揮していただき、「心配してくれてどうもね!」とひと言伝えて彼らをスルーしましょう。

せっかく定年後に生きがい、心理的成功を追いかけようとしているのに、ドリームキラーのひと言でやる気をなくしてはもったいないです。誰の人生、誰のライフキャリアなのかということを分かっているか試されたんだ、と思うようにしましょう。

ここまで発信の大切さをお伝えしてきましたが、これも組織内キャリアだけなら必要性を感じなかったと思います。組織の中なら発信を積極的にしなくても○○部の○○さんということはある程度知られていて、仕事も勝手に向こうからやってくるものだからです。

しかし定年後は、発信をしないと仕事は来ません。どんなに実績があっても、どんなすばらしいことをやっていても、伝えなければ、そもそも自分という存在は誰にも知られることがないままになってしまうのです。