日本各地には、個性豊かな"地域限定"アイスが存在しています。「しろくま」や「ブラックモンブラン」はいまや全国的にも有名です。長年地元に愛される老舗からローカルメーカーのアイスなど多種多様な「ソウルアイス」の魅力を、アイスマン福留さんの『日本ご当地アイス大全』を通じて紹介します。

※本稿は『日本ご当地アイス大全』(辰巳出版)より内容を一部抜粋・編集したものです。


愛さずにはいられない「ソウルアイス」が集合

全国各地、その土地で長きにわたって愛されつづけているアイスを網羅。そんな1冊を手にすると、まず自身の在住地、出身地をチェックするのが常だろう。

筆者の出身地は富山県。アイスモナカが充実している。ページを開くと、薄茶色の皮の合間からたっぷりのアイスが顔をのぞかせている写真の脇に、部活帰りの子どもたちが連れ立ってアイスを買いにきている写真が添えられていた。

「そうそう、ご当地アイスってこういう存在!」と膝を打つ。友人と「何味にする?」と言い合ったり、親を訪ねてきた人が手土産に持参したのをワクワクしながら待ったり......懐かしさに引きずり込まれる。

年間1000種類以上のアイスを食べるアイスマン福留氏が『日本ご当地アイス大全』でチョイスしたのは、町のアイス屋や食堂、喫茶店で提供されているアイスから、スーパーやコンビニで販売される地元メーカーのアイスまでバラエティに富んでいる。

秋田県を中心とした「ババヘラアイス」はいまや全国的に有名だし、佐賀県・竹下製菓の「ブラックモンブラン」も全国のコンビニなどで販売されている。食べたことがあるアイスを見つけるとうれしくなるが、「まったく知らなかった!」というアイスを眺めるのも、なんだかうれしい。

日本は各地にその土地ならではの食文化が根づき、魅力的な郷土料理も多数ある。同時に「アイス文化」というべきものもあるのだろう。

青森県弘前市の「ジャンボアイス」には目を見張った。市内のアイス店では、ビニール袋にシャリシャリまたはサクサクのアイスをみっちり詰めたものが販売されているという。容量が800グラムのものもあり、かなりの迫力だ。

自宅でサイダーやコーラに浮かべてフロートにしたり、牛乳をかけてミルクセーキ風にしたりと、楽しみ方の自由度が高い。率直に、うらやましいと思う。こうしたアイス文化のなかで子ども時代を過ごしていたら、その後のアイスライフもいまとは違うものになっていたかもしれない。


知らないアイスですら懐かしく感じる理由

不思議なのは、見たことも食べたこともないご当地アイスやアイス文化にも、郷愁を覚えること。それは素朴な見た目やレトロなパッケージによるところが大きいだろう。

昨今、コンビニなどで見かけるアイスは、おしなべて凝っている。高級洋菓子と並べても遜色のないフレーバーや、果物の味だけでなく食感までもを追求したものが店頭に並び、季節ごとに新作が出る。その目まぐるしい変化についていくのは、楽しくも忙しい。

ご当地アイスのまわりに流れる時間は、まるで違う。見た目も味も変わらない。子どものころと同じ味に何度でも出会えるし、親子3代で通えるところもざらにある。

お店の外観も老舗然としたところやレトロな喫茶店のみならず、タイムスリップしたのかと思うほど古式ゆかしい駄菓子屋風の店舗もある。こんなに人気なんだから改装してもいいのではと思わなくもないが、その色気のなさこそがいいのだろう。

作り手との距離の近さは、ときに旺盛なサービス精神となってあらわれる。たとえば鹿児島県の「しろくま」は、いまやカップアイスなどで全国的にも知られているが、元をたどれば昭和初期、上から見ると白熊のように見える(諸説あり)シンプルなかき氷からはじまっている。

しかし現在はそれに色とりどりのフルーツが載せられ、お店によっては焼きプリンまでトッピングされており、白熊の目や口がどこにあるのかすぐには見つけられない。さらにストロベリーやチョコレート、抹茶のシロップをかけられると、白ですらなくなる。マンゴーをふんだんに使った「黄熊」まで誕生しているという。

類似品を出すほかのお店と差別化する戦略なのかもしれないが、やはり「食べる人を喜ばせたい」というシンプルかつ実直な願いがこうしたちょっとやりすぎのように見えるサービスにつながっているように思えてならない。この人情味こそが、どのアイスを見ても「懐かしい」と思う理由なのだろう。

同書にはネット等で取り寄せできるご当地アイスも多数紹介されている。しかし、作り手・店舗・街並み・常連の顔とともに味わう、それに勝る体験はないと断言できる。本書を一読すると、旅行に出たい気持ちをおさえられなくなるので、ご注意を。