PRESIDENT Online 掲載

「カサンドラ症候群」とは、どのような症状で、なぜ起こるのか。産業医で精神科医の井上智介さんは、「パートナーや家族が発達障害の特性を持っているためにコミュニケーションでストレスを抱えるようになり、抑うつ状態になるなど、心身に不調をきたしてしまうのがカサンドラ症候群だ。まわりに相談してもなかなか理解を得られず、余計に悩みを深めることも多い。まじめで責任感が強く、思いやりや共感を大切にする人は、なりやすい傾向がある」という――。

■相手の気持ちを察することが苦手、こだわりが強い

相手の気持ちを察することが苦手で、「最近太ったね」「このご飯、まずいね」など、相手が気分を害するようなことであっても、思ったことをそのまま言葉にしてしまう。夕食を作ることになっていたパートナーが体調を崩して寝込んでいても、「私の食事はどうするの?」と聞いてしまう。
こだわりが強くて徹底した「マイルール」があり、例えばいつもテーブルの右側に置いてあるティッシュペーパーの箱が真ん中に置いてあると、イライラして怒ってしまう。朝起きてから出勤するまでの身支度の手順が決まっていて、家族の体調不良や用事などで、それを変えられると混乱して機嫌が悪くなる。天候の悪化や家族の病気などで、決められていた予定が直前に変わるとパニックになりキレてしまう。
あいまいなニュアンスを汲み取ることが苦手で、「今日は体調が悪くて食事の用意ができないから、夕食はコンビニで買ってきて済ませて」と言うと、自分の食べるものだけ買ってきて、寝込んでいるパートナーの食べ物まで気を利かせることができない。好物のメニューを作っているので、楽しみに待っていてほしくて「もうすぐご飯ができるから待っててね」と言っても、「もうすぐ」がどれくらい先なのかが気になってしまい「何時何分にできるの?」と聞き返してくる。
自分が関心を持っていること以外には目を向けず、子どもの教育について話し合おうと思ってもまったく関心を持ってくれない。逆に、子どもがいやがっても「子どもには絶対にこの習い事をさせないとダメだ」とこだわる。

最近、大人の発達障害については知られるようになってきました。約束を忘れてしまう、ものが片づけられない、こだわりが強くて習慣が変えられない、言葉になっていない相手の気持ちを読み取れない……などの傾向の背景に、発達障害の特性がある場合が考えられるのです。

そして、配偶者やパートナー、上司、部下など、身近な人が発達障害の特性を持つために、心の通ったやりとりやコミュニケーションができず、またそれを誰にも理解してもらえない孤独感から、心身の健康を害してしまうことがあります。正式な医学的な病名ではありませんが、こうした症状は一般的に、「カサンドラ症候群」と呼ばれています。