プレジデント 2024年5月31日号 掲載

人から嫌われないように、迷惑に思われないように、つい「いい人」のふりをしてしまう。「いい人ブっても、出世はできない。せいぜい課長代理どまりです」。そう喝破するのは経営コンサルタントの高松智史氏。仕事ができる人が実践している「いい人ブラない」習慣とは――。

■「報告、連絡、相談」VS「議論、時には炎上」

あの人、いい人だよね――この言葉、コンサル界隈では「仕事ができない、褒めるところがないから性格を褒めておく」ときの言葉だと知ったとき、「これが、プロフェッショナル、コンサルの世界!」と噛み締めたのを覚えています。違う言い方をすれば、「何かしらの付加価値を出してくれないなら、貴方の存在意義はない」。こう表現すると、プロフェッショナルの世界そのものです。

かつては、これは性格の悪い「コンサルの世界」の話でした。しかし、今は世の中全体が相手と距離をとる時代です。仕事終わりに容易に飲み会に誘えないし、若い部下を叱咤激励なんてできません。何より、SNSで気の合うコミュニティや存在意義を示せる安住の地を持ちやすくなりました。こうした背景もあり、職場においては昔のように「いい人」だけでは相手にされない時代になってしまったのです。

まさに殺伐としたコンサルの世界のような感じに、世の中が少し近づいているのです。だからこそ、昔ながらの「いい人」を捨てないと、ビジネスも人生も健やかに過ごせない時代になっているのです。

では、どうすれば「いい人」をやめることができるか。たとえば職場での習慣から変えていくことが「脱・いい人」の第一歩です。

皆さん、職場でつい相手に配慮して怒らせないようにと、「報告、連絡、相談」だけで仕事していませんか。新人でもあるまいし、「報連相」なんて嫌いましょう。

ビジネスは学校の試験のように「答えのあるゲーム」ではありません。絶対的な正解がないビジネスの世界で物事を判断し、後悔の少ない選択をする方法は、3つしかありません。仕事のプロセスを非の打ちどころがないものにする、2つ以上の選択肢から相対的に良いものを選ぶ。そして、議論を前提にする。

答えのないビジネスの世界では、意見が食い違うのは当たり前です。議論、そして、時には炎上するような喧々囂々のやりとりを日常のものとして受け入れましょう。議論の中で相手の意思決定に役立つ示唆を与えてこそ、職場での尊敬が得られるのです。

答えのないゲームで、炎上は当たり前

■「文句を言わず黙々と仕事」VS「出世のために社内政治」

そろそろ気づいてもいいし、大っぴらに言ってもいい時代が来ていると思う。特に、大きな企業、社員がいっぱいいる企業に勤めている皆さん。皆さんも気づいているはずです。「自然とは偉くならない」ことに。

いい人ブって文句を言わず、目の前の仕事に黙々と取り組んでも、偉くはなりません。昇進しても、せいぜい課長代理どまりでしょう。課長代理とは、いわば会社最適の人材。社内のことには詳しいから、会社としてはいると助かる。ただし、人材としての市場価値は低くてもできる役職でもあります。

課長代理より上の世界――課長、部長、役員、そして組織の「プレジデント」として活躍したい人は、そんなことでは困ります。だから、黙って与えられた仕事をやり続ける、いい人なんてやめる。「自然とは偉くならない」と認識して、「いかに偉くなるか?」を真剣に考えてみましょう。

具体的にどう行動するか? まずは現実を直視すること。同じ役職についた同期は一緒だと思っていても、実は裏側の評価シートやボーナス査定では大きな差がついているなんてことは当たり前です。普通はそこまで同僚に話したりしませんが、歯を食いしばって同世代のエースに評価の内情を教えてもらいましょう。このままではまずいと危機感を持つことが重要です。

出世に伴う現実を直視できたら、次は昇進の仕組みを理解して行動していきましょう。偉くなる人はどういうルートを辿っているか、会社はどんな仕事に高い評価を与えているのか――丁寧に情報収集をしていきます。

情報が集まれば、昇進するための戦略も見えてきます。たとえば、「今の部長は最近就任したばかりだから、この部署に居続けても出世するには分が悪い。あっちの部署に異動したほうがいいかも」といった具合です。

戦略が決まったら、異動を叶えるために行動する。商人魂を燃やして、異動したい部署の人や上司にアプローチをする。社内政治も含めた、ある意味「悪巧み」をしてほしい。

悪巧みをしても出世したいかを考えてみてください。そうすれば、自分の大切にしていることが見えてきます。出世を目指すとは、キャリアをつくっていく答えのないゲームでもあるからこそ、「いい人を続ける」路線と、「いい人をやめる」という2つの選択肢から方針を選ぶことが重要です。

あくまで「無駄に」「周りに流されて」いい人になるなと言っているだけで、生まれつき「いい人」は、そのまま「いい人」でも構いません。

いい人ブっても、課長代理どまり