PRESIDENT Online 掲載

オーストラリアのワーキングホリデー制度はなぜ、時給が高いのか。現地を取材したブックライターの上阪徹さんは「非正規雇用のリスクを賃金に換算している。リスクとリターンを賃金に相関させないどこかの国とは違う」という――。

※本稿は、上阪徹『安いニッポンからワーホリ! 最低時給2000円の国で夢を見つけた若者たち』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

■ワーキングホリデー制度って何だ?

そもそもワーホリとは何か。ここで改めて簡単に紹介しておきたい。

ワーキングホリデー。その名のごとく、働きながら休日を過ごせる、というものだが、当該政府がビザを発行してくれるのだ。

本来は、文化交流を目的に、若い旅行者が長期休暇を取り、旅をしながら短期雇用で収入を得ることができる仕組み、である。

始まったのは、1980年。オーストラリアとの間で最初に制度ができた。その後、対象国はどんどん拡大し、今は29カ国・地域になっている。

短期間の旅ならいざしらず、数カ月など長期で休みを取って海外を旅するとなれば、まとまった資金が必要になる。もし、現地で働くことができれば、旅の資金にもなるし、現地の人たちとの交流も深められて一石二鳥、というわけである。

もちろん、働かなければいけないわけではない。まったく、あるいは、ほとんど働かずにワーホリ期間を過ごすことも可能。

私は50代だが、30年ほど前のワーホリといえば、このイメージだった。社会にまだ出たくない、お金に余裕のある若者たちがモラトリアム的に過ごす場所。あるいは、バックパッカーの猛者たちが活用しているケースもあったのかもしれない。

■ワーホリは英語習得のチャンスにもなる

ワーホリの何よりのポイントは、若者に限定されている、ということだ。ビザの申請条件は、18歳から30歳まで。ただし、渡航時に31歳になっていることは問題ない。子どもの同伴はできない。

そして各国ともに、ワーホリビザの活用は一度だけ。オーストラリアでワーホリを経験したら、もう一度、というわけにはいかない。ただし、再びワーホリでカナダに行ったり、ニュージーランドに行ったりすることは可能だ。

日本人にとっては、長期の海外滞在といえば、習得のチャンスになるのが英会話。中学校から高校まで6年にわたって英語を学ぶにもかかわらず、英語が話せない日本人がほとんどなのは昔も今も同じだ。

これは本書で詳述するが、英語力を求めてワーホリに関心を持つ若者も少なくない。そこで、オーストラリアなら、1年間のワーホリで最長4カ月、英語が学べる語学学校に通うことができる。語学学校にはワーホリ以外も含め、それこそまさに世界中から学生が集まるため、多国籍な友達ができることも魅力だ。

学校によっては、TOEICなどの試験対策や接客英語を学べるコース、バリスタやダイビングなどの英語プラスαを学べるプログラムを提供しているところもある。

オーストラリアは先に書いたように日本がワーホリ制度を導入した初めての国で、その歴史は40年以上になる。両国とも人数の制限はない。日本からはコロナ禍の時期を除くと、おおよそ年間1万人がワーホリでオーストラリアを訪れていた。

カナダは6500人と人数を定めている。また、イギリスは1500人の定員制限に加え、抽選式で申請時期も限られているなど、国によって制度の概要は異なる。