中国の重要政策を討議する第14期全国人民代表大会(全人代=国会に相当)が5日、北京の人民大会堂で開幕。習近平国家主席ら党と国家の指導者が出席し、李強首相が政府活動報告を行った。

政府活動報告によると、今年の発展目標として、1.国内総生産(GDP)成長率5%前後、2.都市部新規就業者数1200万人以上、都市部調査失業率5.5%前後、3.消費者物価指数(CPI)上昇率3%前後、4.住民所得の伸び率は経済成長率と同ペースに保つ、5.国際収支は基本的に均衡を保つ、6.食糧生産量6億5000万トン以上、7.GDP単位当たりの総エネルギー消費量を2.5%前後削減し、生態環境の質を持続的に改善する――などを決定した。

習近平主席は5日、全人代で産業構造の改革に意欲を示した。江蘇省の代表を集めた分科会で「イノベーションを促進し、新興産業を育成し、産業システムを改善しなければならない」と表明した。

江蘇省は機械や電子工業が盛んで中国経済をけん引してきた。習氏は「国際競争力を持つ戦略的な産業クラスターの創出を加速し、新しい質の生産力を発展させる重要な地域にしなければならない」と強調した。

習氏は「改革を全面的に深化させる」と力説し、財産権の保護や市場の参入、公正な競争の確保に取り組むと言明した。中国国内の事業環境を改善させ、経済の対外開放を促進すると説いた。景気回復による国民の所得向上の重要性も唱えた。「人民中心の発展思想を堅持し、人々の生活水準を着実に改善し、大衆が自らの手で幸福な生活を築くよう鼓舞しなければならない」と語った。

経済官庁や金融当局のトップらは6日、記者会見し、今年の経済成長率目標「5%前後」はさまざまな施策を総動員することで実現できると指摘した。

国家発展改革委員会の鄭柵潔主任は、5日に表明した1兆元(約21兆円)の「超長期特別国債」の発行により「当面の投資と消費を喚起できる」と言明。調達した資金は科学技術や食糧、エネルギーなどの分野に投じ、景気刺激に寄与すると説明した。

内需を拡大させるため、企業の設備更新や、自動車や家電や住宅設備などの買い替えを促す方針を示し、「企業の設備更新だけで年5兆元(約105兆円)以上の巨大な市場になる」と強調した。成長率目標は「積極的な努力によって達成できる前向きな目標」と述べ、達成に自信を示した。

財政赤字は対GDP比3.8%、準備率引き下げ余地大きい

鄭氏は「24年に1兆元の超長期特別国債を発行する計画は投資と消費を促進する」と語った。資金は災害救援や建設に充てられる。23年の財政赤字は対GDP比3.8%とし、日米欧など主要国に比べ健全な水準にとどまっていることを示した。

中国人民銀行の潘功勝総裁は市中銀行の預金準備率を引き下げる余地が残されていると指摘。物価の緩やかな回復を促進することは、人民銀の政策決定にとって考慮すべき重要事項であると指摘。十分な金融政策の余地と十分な手段があると繰り返した。最近のドル安傾向にも触れ、中国からの資本流出を招かずに金融緩和が可能だと話した。

人民銀はここ数カ月、住宅ローンの主要指標金利を過去最大の幅で引き下げるなど積極的な緩和策で政策効果を高めてきた。藍仏安財政相は、金融や雇用、産業政策などとの協調を強化すると述べた。

6日の記者会見には藍仏安財政相や王文濤商務相、証券監督管理委員会(証監会)の呉清主席も参加した。鄭氏と商務相の王氏は、24年1−2月の中国輸出が前年同期比約10%増加したことを明らかにした。

主要部長が記者会見、量子技術、人工知能、新エネルギーで独自の成果

5日に行われた全人代・部長会見では、中央行政省庁の科学技術部の陰和俊部長、水利部の李国英部長、農業農村部の唐仁健部長、国資委(国務院国有資産监督管理委员会)の張玉卓主任の4人がメディアの取材を受けた。

科学技術部の陰部長は「2023年にわが国の年間研究開発投資は3兆3000億元を超え、前年比8.1%増となった。わが国は量子技術、人工知能、新エネルギーなど『新三様』の分野で独自の大きな成果を上げ、新エネルギー車、リチウム電池、太陽光発電の輸出の伸び率は急増している。若い科学技術人材を支援するため、科技部は三つの側面からの支援を行っている。第一に宇宙関係の国家プロジェクト1100件以上が40歳以下の若手科学者によって主導されており、全体の20%以上を占めている。第二に基礎科学研究費の半分以上を35歳以下の若者に投資するよう奨励しトレーニングを行っている。第三は若手研究者が安心して研究に専念できるように生活や研究環境に関して支援する」と説明した。

水利部の李部長は「2035年までに全国的な水道網を完成させる。2023年にわが国の水利建設は加速し、水利建設への投資が年間1兆1996億元に達し、前年比10.1%増で、歴史上最高記録となった。2035年までに、完全なシステム、安全で高い信頼性、集約的で効率的、グリーンでインテリジェントなどスムーズな循環目標を達成するための全国水道ネットワークを構築する」と説明した。

農業農村部の唐部長は「穀物総生産量は1兆3908億斤に達し、歴史的新記録を達成した」と述べた。

国資委の張主任は「イノベーションを突出して優先する。中央国有企業が新たな生産力の発展をどのように加速させるかは『源:技術には必ず源がある。イノベーションへの投資を増やす』『昇:新技術を利用して伝統的産業の効率を高める。AI、量子情報、核融合などの戦略的な新興産業を向上させる』『態:新生産力の生態をイノベイティブに発展させる』の3文字で表すことができる。中央国有企業はこれまでの「短期投資、短期利益」という後進的な概念を捨て、あえて最も困難な道を選び、あえて最も高い山に登り、あえて最強の要塞を征服しなければならない」と述べた。

国家発展改革委員会のトップは、「5.0%前後」のGDP成長率目標の達成について「さまざまな問題はあるが、目標を達成する自信も、能力も、条件も、底力もある」と強調した。

景気の下支えをするために、およそ21兆円相当の超長期特別国債を発行したり、内需拡大を図るため、自動車や家電の買い替えや老朽化した工場設備の更新を促す政策を導入したりする。

中国経済の寄与度30%、世界最大の経済成長エンジンに

国務院新聞弁公室は5日にブリーフィングを行い、国務院研究室の黄守宏室長が政府活動報告を解説し記者の質問に答えた。

2023年の成果について、黄室長は「GDPが126兆元(2646兆円)を超え、経済成長率は5.2%に達した。中国は世界の主要エコノミーの中でも上位にあり、引き続き世界の経済成長における最大のエンジンであり、世界の経済成長への寄与度は30%前後を維持した」と述べた。

政府活動報告は都市部の新規雇用者数の目標を1200万人以上と設定した。この目標を実現するため雇用促進の面で的を絞った政策に力を入れ、雇用規模の大きい業界・企業への支援を強化するとした。

全人代で示された中国当局による金融緩和の姿勢や市場支援策を好感し、上海や香港の株式相場では反発している。