Pete Schroeder

[ワシントン 16日 ロイター] - 国際通貨基金(IMF)は16日、国際金融安定性報告書(GFSR)を公表し、中央銀行がインフレとの戦いでソフトランディング(軟着陸)を実現できるとの期待が市場で高まっていることについて、過度な楽観論に警鐘を鳴らした。

前回のGFSRを公表した昨年10月時点では、春に発生した銀行部門の混乱から市場は回復途上にあったが、その後「かなり楽観的」になっていると指摘。

現在は下振れリスクが後退しつつあるが油断は禁物だとし、中銀が根強いインフレを抑制するため、高金利を長期間維持する必要に迫られた場合、さまざまな資産クラスの高い価値評価や地政学的緊張、債務の増大が全て問題をもたらす恐れがあると述べた。

報告書は「世界経済の軟着陸に対する自信が高まっている」とした上で「だが、世界のインフレ率が目標を根強く上回った場合、そうした見方が揺らぎ、不安定化を招く恐れがある」と指摘。

特に中銀などの政策当局はインフレの緩和に慎重に対応し「ディスインフレや金融緩和のペースに対する過度に楽観的な見方」をけん制する必要があるとしている。

IMF金融資本市場局のファビオ・ナタルッチ副局長は「主要なリスクは、特に米国の中央銀行がどの程度まで実際に利下げを行わない可能性があるかだ」と述べた。

<三重苦>

IMFは銀行部門について、リスクはあるものの、全体としては昨年の混乱からやや落ち着いたと分析。ただ世界的に「弱い銀行の裾野」があり、注視に値すると述べた。

全体としては、世界の銀行資産の約19%を保有する銀行が、IMFの銀行の健全性の尺度である主要リスク指標5つのうち少なくとも3つで基準を下回っている。大半は米国と中国にある銀行という。

また、銀行システムの資産の約3%を占める100以上の銀行が(1)商業用不動産への集中度が高い(2)資本準備金に対して比べて未実現損失が多い(3)預金の25%以上が保険対象外──という「三重苦」にあえいでいる。

ナタルッチ氏は、銀行システム全体は商業用不動産部門で予想されるストレスを乗り切れる状況にあるようだと指摘。ただ、商業用不動産価格の下落ペースは過去数十年で最大で、これまでは相対的に好調な経済が下落分の一部を相殺してきたため、特にエクスポージャーの高い銀行は圧力に見舞われる恐れがあるという。

また、今回のGFSRでは、IMFとして初めて金融安定のリスク要因としてサイバー攻撃を重視した。近年、金融機関の被る損失が数百万ドル規模から数十億ドル規模に拡大しており、「極端な損失」のリスクが高まっているという。

近年急成長しているプライベート・クレジット部門についても、世界の監督当局が「より介入的な」アプローチを採用し、リスクを適切に把握するためデータの収集を強化すべきとした。