Mariko Sakaguchi

[東京 14日 ロイター] - 日銀の国債買い入れ減額が債券市場に波紋を広げている。円安の進行とともに日銀がタカ派的なトーンを打ち出しているとの観測が広がっていた中での減額だっただけに市場は敏感に反応した。一部には、6月会合での国債買い入れ減額表明や7月の追加利上げ観測も出ており、新発10年債利回り(長期金利)は1%超えまで上昇する余地があるとの見方もある。

<正常化へのメッセージか>

日銀は13日午前に通告した国債買い入れオペで、「残存期間5年超10年以下」対象のオファー額を前回の4750億円から4250億円と、500億円減額した。日銀が四半期予定で示すレンジ内ではあったものの、市場では「予期せぬサプライズ」(国内証券債券セールス担当)と受け止められ、同日の新発10年債利回りは0.910%から0.940%に上昇。14日時点でも一時0.965%と、2023年11月1日以来の高水準に迫るなど、金利上昇圧力が続いている。

日銀が3月の金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除して以降、残存5年超10年以下対象の日銀の国債買い入れオペは、需給の引き締まりを示す結果が続いた。今回の減額はこれを受けたものとの見方がある一方、円安対応として日銀が金利を高めに誘導をするためではないかとの指摘もある。

2日に公表された3月の日銀決定会合の議事要旨では、国債買い入れの調整は時間をかけ、能動的な政策手段としては用いないことが考えられる、との意見が明らかとなっている。

ニッセイ基礎研究所の金融調査室長、福本勇樹氏は、円安進行に伴う物価高への警戒感が広がる中、今回日銀が国債買い入れを減額したことは「より正常化に向かうというメッセージになった」との見方を示す。

156円手前まで上昇していたドル/円は、減額の発表後に一時155円半ばまで下落したが、短時間で155円後半に持ち直した。為替市場への影響は限定的だが、国債買い入れの減額による金利上昇が見込まれる中では、徐々に為替市場にもその効果が波及してくる可能性はある。

<国債買い入れ減額なら10年債は1%超え>

市場では、6月の日銀決定会合を巡り「バランスシートの削減決定への警戒感が広がりやすい」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介氏は話す。

鶴田氏の試算によると、今回の日銀オペ減額後の国債買い入れ額は月間5兆7100億円、年間では68兆円5000億円。今後1年間に償還を迎える国債68兆4000億円を差し引くと1000億円程度と、保有残高はぎりぎり減らない状況。

ただ、日銀が再び国債買い入れの減額に踏み切れば、ランオフ(債券償還に伴う保有証券減少)を通じた事実上のQT(量的引き締め)という思惑にもつながりかねない。

高水準の買い入れが続いている中長期ゾーンを中心とした国債買い入れの減額観測が市場で強まれば、長期金利は一段の上昇圧力がかかる。

ニッセイ基礎研の福本氏は、米長期金利が4.5%を中心とした推移が続くという前提で試算すると、「(円債の)新発10年債利回りを1.2%付近まで押し上げる効果がある」と指摘する。

4月26日の植田日銀総裁の会見後に進んだ円安を受けて、円債市場では、円安抑止のため日銀がタカ派に傾斜しているという思惑は出ていた。7日の岸田首相と植田総裁との会談、9日公表の4月会合の主な意見での国債買い入れ減額を巡る発言などが注目された。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田氏は、今回の日銀の減額について「円安を受けて日銀がアクションをとったと市場が受け止めた以上、(円安が)追加利上げの思惑を喚起する材料になった」とみる。

<利上げ時期は前倒し、利上げパスは変わらず>

ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のBOJウォッチのデータによると、7月30ー31日開催の日銀会合でのインプライドレートは13日時点で0.1766%。10日の0.1689%から追加利上げを織り込む動きが一段と進んだ。

実際に短期市場では、早期の追加利上げがより意識され、16日の1年物国庫短期証券入札は最高落札利回りが0.2%を超える可能性があるなど「金利は上昇方向にある」(国内短資会社)との声が出ている。

一方で、「市場は日銀の早めの利上げは想定しながらも、利上げ到達点の織り込みは変えていない」とSMBC日興証券のシニア金利ストラテジスト、奥村任氏は指摘する。最近のスワップ市場の織り込みをみると、手前の短いところの金利は上昇している一方、長めのフォワードの金利はあまり上がっていないという。

14日の時点のOISカーブをみると、4月の日銀会合前(4月26日時点)から比較すると、カーブ全体はやや上方にシフトしているものの、目立った変化はみられない。

(坂口茉莉子 編集:橋本浩)