人手不足が深刻な分野に外国人を受け入れる「特定技能制度」について、政府は3月29日、基本方針などの変更を閣議決定した。受入れ上限数の大幅に増やすとともに、対象分野などを追加している。これまで外国人技能実習生に対する割増賃金不払いや違法な長時間労働が多発していた繊維産業も対象に加わった。

 受入れ人数の拡大に伴い、特定技能外国人を雇用する企業においては、外国人労働者が安定して日本国内で生活し、業務を遂行できるよう、受入れ環境の整備に取り組むことが重要だ。新たに対象となった業種では、人権侵害行為の防止も課題になろう。

 基本方針では新たに、自動車運送業など4分野を追加。さらに、従来の「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」分野は「工業製品製造業」に名称を改め、その分野別方針で業務区分として、紡織製品製造や縫製、印刷・製本など7区分を追加した。

 対象業種の拡大は、入管難民法と技能実習法の一括改正案に盛り込まれた「育成就労」制度にも影響を与える。同制度の適用分野が、特定技能対象分野に限定されるためだ。つまり、今回の対象拡大は、繊維産業などに対しても、技能実習に替わる新制度を活用する道を開くことを意味する。

 ただ、繊維産業では、技能実習生の受入れ事業場で労働基準法違反が多発してきた。たとえば岐阜労働局管内では、平成30〜令和4年に技能実習関連で16件の書類送検を行ったが、そのすべてが縫製業だ。特定技能での受入れにおいても、労働法令の遵守が課題の1つになるだろう。

 令和4年に「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を策定し、国際的な労働基準に基づく行動を促してきた日本繊維産業連盟の日覺昭廣会長は、閣議決定を受け、「技能実習制度の適正な実施を一層進めるとともに、国際的な人権基準を順守し、労働者の人権を最大限に尊重した取組みを進めてまいりたい」とのコメントを発表している。

 特定技能対象業種への追加を契機に、各企業において、人権保護への意識が高まることを期待したい。