大岡山にある人気店『立喰そばよりみち』が建物をリニューアルし、2024年の3月に再オープンした。以前は風情のある店舗が評判だったが、味と雰囲気はどうなったのだろうか?

店は見違えるほどきれいに

『立喰そばよりみち』の最寄り駅は、東急目黒線の大岡山駅。とはいえ、駅からは歩いて10分ちょいと、少し離れている。商店街を抜けた環七との交差点にある、いわゆるロードサイド店だ。

大岡山駅前の商店街。ここをずいずいと進んでいく。
大岡山駅前の商店街。ここをずいずいと進んでいく。

改装された店は、見違えるほどきれいになった。店名が建物の上部に書かれているのは、遠くからも見やすいように。

実は店舗の前には葉の茂る大木の植え込みがあり、環七を走る車からは、店舗が見えにくいのだ。私も何度、気づかずに通り過ぎたことか……。

リニューアル前は風情ある店舗の見た目や、まるで親戚の家に来たかのような店内のざっくばらんさ、さらに「べらんめえ」なお店のおとうさん、高瀬米次郎さんのキャラもあり、テレビのロケやYouTubeで取り上げられることも多かった。

某有名歌手が通っている、という話が拍車をかけていたところもあったようだ。しかし、さすがに建物の老朽化が著しく、2023年の6月にいったん店を閉め、リニューアルして24年の3月に再オープンしたのだ。

リニューアル前の店舗。夏はよしずが立てかけられていた。
リニューアル前の店舗。夏はよしずが立てかけられていた。

店舗は新しく変わったが、そばは変わらずのうまさだった。

色は濃くともバランスの良いツユは、カツオなどの節とかえしのうまみがしっかりと絡まり、奥深い味わい。ごわっとした『むらめん』の茹で麺に負けない力強さもある。

かき揚げそば500円。かき揚げの具材は、玉ねぎ、小エビ、にんじん、春菊。具材の風味良く揚がっていて、旨味のつまったツユを吸わせると、抜群にうまい。
かき揚げそば500円。かき揚げの具材は、玉ねぎ、小エビ、にんじん、春菊。具材の風味良く揚がっていて、旨味のつまったツユを吸わせると、抜群にうまい。

天ぷらも軽すぎず重すぎず。ツユのなじみもよく、具材もしっかり入っている。要するに、立ち食いそばとして、バランスよくまとまっているのだ。

ツユをたっぷり吸わせてガブリ。ふにゃけた衣がたまらないのだ。
ツユをたっぷり吸わせてガブリ。ふにゃけた衣がたまらないのだ。

リニューアル後の変化は?

もともとこの場所に『立喰そばよりみち』ができたのは、1988年のこと。米次郎さんと、息子の成友(なるとも)さんで始めた。そのとき米次郎さんの妻は、神楽坂で飲食店を営んでいたのだが、その店を閉めたので、同じ場所で米次郎さんが「米次郎」という店名で立ち食いそば店を始めた。

大岡山では成友さんがひとりで切り盛り。店の味を守っていた。

店主の高瀬成友さん。『立喰そばよりみち』の味を守ってきた。
店主の高瀬成友さん。『立喰そばよりみち』の味を守ってきた。

その後、米次郎さんは神楽坂「米次郎」を閉め、『立喰そばよりみち』に復帰。それが2008年ぐらいのこと。そのときに神楽坂で使っていた「米次郎」の電飾看板を「もったいないから」と店前に置いたため、大岡山の、この立ち食いそば店が「米次郎」だと多くの客に思われていたという、ほほえましいエピソードもあった。

現在の店内。立喰いカウンターが長くのびる。
現在の店内。立喰いカウンターが長くのびる。

そんないろいろがあり、開店から36年目にしてのリニューアル。現在、高齢もあって米次郎さんは店に立っていないが、リニューアルオープン後はかなりの大盛況だったようだ。

店は変われど、変わらずおいしい『よりみち』のそば。待ちかねた常連が押し寄せたのかと思いきや、新しい人もかなり多かったそうだ。

人気のごぼう天そば500円。太く切られたごぼうがシャキッとうまい。
人気のごぼう天そば500円。太く切られたごぼうがシャキッとうまい。

転入者が多い土地柄。近隣の方が多く訪れる

成友さんが言うには、動画の影響や、リニューアルを拡散してくれた知り合いのおかげ、さらに周辺地域の変化もあるかもとのこと。

環七沿いにあるためドライバー客は今も多いのだが、それに加え、近隣住民の客が増えているようなのだ。

『よりみち』は車通りの多い環七沿いにあるが、店から駅までのエリアは住宅地になっている。武蔵小山や自由が丘が近いこともあり、転入してくる住民も多い。

「なんだかネットで見たことのある、近くの立ち食いそば屋がリニューアルしたらしい。ちょっと食べに行ってみよう」。ということなのではないだろうか。

ちなみに、店舗前にある植え込みの木が切られ、整備されるらしい(ここは国の持ち物)。真夏には涼を呼ぶ木陰となっていたので惜しいのだが、店の場所は分かりやすくなるかもしれない。

環七から見た『よりみち』。この前の木がなくなるのだ。取材時には既に伐採作業が始まっていた。
環七から見た『よりみち』。この前の木がなくなるのだ。取材時には既に伐採作業が始まっていた。

長く愛されてきた『よりみち』は、リニューアルをきっかけに、さらなる人気店になりそうだ。

立喰そばよりみち
住所:京都目黒区南3-8-8/営業時間:6:00〜16:00/定休日:日/アクセス:東急電鉄目黒線大岡山駅から徒歩10分

取材・撮影・文=本橋隆司

本橋隆司
大衆食ライター
1971年東京生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て2008年にフリーへ。ニュースサイトの編集をしながら、主に立ち食いそば、町パンなど、戦後大衆食の研究、執筆を続けている。