裏金問題をめぐって安倍派や二階派の幹部らに処分が下され、永田町ではさっそく処分された議員や、処分を下した首相の今後に注目が集まっている。処分された派閥幹部の中でも、その内容は離党勧告から党の役職停止までさまざま。責任を押しつけあう幹部もいれば、「明鏡止水の心境」と潔さをアピールする議員も。首相の「安倍派分断工作」は吉と出るか、それとも……。

議員辞職の勧めも「無視」した塩谷氏

「私のことで迷惑をかけた。これで出席は最後になると思うが、みなさんには引き続き頑張ってもらいたい」

4月9日、自民党静岡県連の国会議員が集まった会議で、そう陳謝したのは安倍派の塩谷立座長。しかし、今回の処分で最も重い離党勧告を受けて翌5日に開いた会見では「私どもが何かを画策して指導したことはまったくない。事実誤認がもとになった判断。はなはだ心外」と、処分に不快感をあらわにし、再審査請求を検討する考えを表明していた。
塩谷氏が強気の姿勢を見せた背景には、「塩谷さんは名ばかり座長だったのにかわいそう」「トカゲのしっぽ切りだ」との同情論がある。

「塩谷氏は座長とはいえ、実際の派閥運営は西村康稔元経産相や萩生田光一元政調会長ら5人衆が取り仕切る形だった。前回の衆院選で比例復活だった塩谷氏が座長になったのは、当選回数が多かったことと、もう一人のベテランの下村博文元文科相のことを、安倍派のオーナー的存在である森喜朗元首相が嫌っていたからにすぎません。

政治手腕を買われたわけでなく“無害”だったからこそ座長になった。なかには『森さんは最初からこうなることを予想しており“生贄”として塩谷さんを準備していたのでは?』と陰謀論を話す議員もいます」(全国紙政治部記者)

一方、「彼はベテランにもかかわらず前回の衆院選で比例復活だったのだから、自民党公認で戦えたとしても次はなかったような人物。『自分は知らなかった』と責任逃れをするのは、往生際が悪い」(自民党関係者)との批判の声もあがる。

自民党のベテラン議員は裏金問題が発覚して以降、塩谷氏に議員辞職を促したこともあったが、塩谷氏は首を縦に振らなかったという。

こうした塩谷氏の態度に安倍派議員からは「最初は5人衆による集団指導体制で進めていこうと話がついていたのに、自分も安倍派の幹部でいたいと座長になったのは、塩谷さんでしょう。塩谷さんがさっさと責任をとって辞めてくれれば、他の安倍派幹部もこんなに重い処分をされることはなかったのに」と恨みの声も聞こえてくる。

離党がチャンス?の世耕氏&会合に姿を見せなくなった西村氏

一方、同じ離党勧告でも「明鏡止水の心境」として処分を受け入れ、早々に離党した世耕弘成前参院幹事長。塩谷氏とは対照的に潔いと評価されているかと思いきや、直後に衆院鞍替えの意向が報じられる(世耕氏本人は否定)など、永田町では「無所属になったことをチャンスとして一気に仕掛けてくるのでは」との憶測が絶えない。

「もともと世耕氏は選挙区での鞍替えを狙っていましたが、無所属となったことで、出馬が噂される二階氏の息子とのガチンコ対決となるかどうかが注目されます。世耕氏が無所属で当選、二階氏の息子が比例復活となれば、世耕氏の復党を求める声が上がるのは必至で、次の選挙に向けてどちらが公認となるか、ややこしいことになりますし、二階氏VS世耕氏の争いはまだまだ続きそう」(全国紙政治部記者)

一方、これまで首相をめざす意欲を隠してこなかったが、党員資格停止(1年間)の処分後は「すべてを失った」として「裸一貫」の覚悟を示した西村氏。

「世耕氏や高木毅前国会対策委員長など他の安倍派幹部と比べ、選挙が厳しいとみられているのが西村氏。兵庫県内の地元選挙区には維新の新顔が立ち、地元・明石市の泉房穂前市長の出馬の憶測も絶えない。党員資格停止中であっても国会内の自民会派の会合には出られるのですが、西村氏の姿は見かけません。それだけ地元活動に必死なのでしょう」(自民党議員)

首相の「安倍派分断」は成功したのか

一言で「処分を受けた」と言っても、それぞれ異なった道を歩み始めた安倍派幹部ら。これこそが首相のねらいだったと安倍派議員は分析する。

「離党勧告から党員資格停止(1年と半年)、党役職停止と細かく分けることで、『あいつは俺より処分が軽かった』『なんで俺がこの処分だったんだ』と安倍派幹部を分断させ、『岸田おろし』でまとまることを防ぐねらいがあったのだろう」

それでも「首相の処分がないのはおかしい」との怒りのマグマは溜まり、首相の求心力には陰りがみられる。

自民党関係者は「夏前のたった4万円の定額減税で、支持を集められると思うか? 政治資金規正法の改正も、議員の反発を招く。裏金問題がホットなうちに解散されると困る議員が大勢いるし、今の首相にはとても6月に解散する力なんてないのでは」とみる。

安倍派議員も「派閥がなくなっても、分断されようとも、これからも後輩議員の面倒は見続ける」と宣言。「岸田首相の看板では選挙は戦えない」との危機感は強まり、9月の総裁選に向けた多数派工作は始まっている。

分断された安倍派は逆襲に打って出られるか。多数派工作VS分断工作の行方は……?

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班