栃木県那須町の河川敷で男女の他殺体が燃やされていた事件で、死体損壊容疑で4月21日に逮捕された埼玉県越谷市の建設業、平山綾拳容疑者(25)が「アニキに頼まれて燃料の携行缶や粘着テープを購入し、車も貸したが、自分は現場に行ってもいない」などと供述していることがわかった。栃木県警と警視庁は合同捜査本部を設置、共犯者の割り出しなどに全力をあげている。

依頼を受けた「アニキ」については「名前も言いたくない」

事件の被害者は東京・上野の繁華街で焼肉店など飲食店を14店舗展開している「サンエイ商事」社長の宝島龍太郎さん(55)。女性のほうは行方不明になっている妻のA子さんとみて、警察は身元の確認を急いでいる。

2人の遺体は両手を結束バンドで縛られ、頭部にビニール袋を被せて粘着テープでぐるぐる巻きにされた状態で、16日早朝に見つかった。また、この直前に付近を黒っぽい不審な乗用車が走っていたのを目撃されていた。

平山容疑者は翌17日朝に五反田駅前交番に「栃木の事件に関与したかもしれない」と出頭、事件現場近くの防犯カメラに平山容疑者名義の黒色の乗用車が行き来する様子が映っているなど容疑が強まったため、捜査本部は21日に死体損壊容疑で逮捕、22日に東京地検に送検した。

調べに対し平山容疑者は車や凶器の準備などは認めたものの、依頼してきた「アニキ」については「名前も言いたくない」と詳述を避けており、被害者の宝島さんについても「誰なのか名前も知らない」と供述しているという。

今の住まいの付近では「腕に刺青を入れたガタイのいい、ワルそうな若者」と認知されていた平山容疑者はどんな人物なのか。出身地の東京都江東区の友人たちの証言や、彼のSNSをたどってみると、おぼろげな印象が浮かび上がってきた。

GUCCIのチェック柄帽子やモンクレールのダウン

「平山さんにはほんと、サッカーのイメージしかないです」

中学校の後輩男性がこう振り返るほど、平山容疑者はサッカーに打ち込むスポーツ少年だったようだ。中学校時代は千葉県浦安市にあるサッカーのジュニアユースクラブチームに所属。都内の私立強豪高校に入学後もサッカー部で活動を続け、当時のSNSにもサッカー関連の投稿が目立つ。

プロサッカー選手への憧れだろうか、「ネイマールって本当に大きい存在なんだなー笑」「ロナウジーニョ、かっこいい」とブラジル代表選手をリスペクトする内容の投稿や、「これから、新小岩で公式戦だ!」「合宿2日目、昼休み中〜!」「あーやっと、家ついた! 今日の試合は、暑くてちょー疲れた これから、睡眠をとって明日に備えよー!」と自身のサッカー生活を日記風にまとめていた。

年ごろの少年らしく「みんなクリスマスは、特別な日って言うけど俺はそう思わない。それは、俺は、クリスマスに彼女が出来たことが無いからだー笑笑 俺にとってクリスマスは、いつもと変わらない平日じゃ〜笑笑」と呟いたり、同級生らしき友達をひんぱんにアップしていた。こうしたSNSを見る限り、高校時代は青春を謳歌していたようだ。

高校卒業後は、スポーツ業界で役立つ知識について学べる専門学校に入学。同校でもサッカー部に所属し、専門学校を対象とした都大会で優勝を果たして全国大会に出場するなど、輝かしい成績を収めている。ここでも高校時代と変わらず、休みの日は部活の仲間と海に出かけたり、バーベキューをして楽しむ姿がSNSにアップされている。

また、同級生らしき友人と沖縄旅行に出かけたり、スノボに出かけた際には「初スノボー ヤバイっ! 控えめに言って、バリ楽しかった! とりあえず、3150(最高)」などの投稿もしている。そんな平山容疑者に変化が見えるのは、専門学校卒業後のことだ。

社会人になって羽振りがよくなったのか、平山容疑者のSNSには、2019年ごろからクラブと思わしき店内でシャンパンを手に持つ写真など、「大人の階段」を登り始めた風情の投稿が増えてきた。服装にも大きな変化があり、GUCCIのチェック柄帽子やモンクレールのダウンを羽織るなど、繁華街によくいるキャッチのような恰好に。

さらには髪の毛も金髪に染めてサングラスをかけ、上下アディダスのセットアップに身を包むなど、いかにもヤンチャっぽい雰囲気が漂っている。

事故に遭って、働いてなくても休業補償や事故でお金が入る、と

そこに明るいサッカー少年だったころの平山容疑者の面影はない。一緒に写真に収まる「仲間」も学生時代とうって変わり、金髪やタトゥーを入れたイキった外見の若者ばかり。2020年の投稿にはクラブにて「#チームゴミ」と名付けた3人グループで、親指を立てたキメ顔の平山容疑者の姿も確認できる。

捜査本部の調べに名前や詳細をひた隠しにする「アニキ」と知り合ったことで、変わってしまったのだろうか。4月14日、平山容疑者の足に刺青をいれたタトゥーショップの関係者が話す。

「彼はもともと洋彫りが入っていて、どっちの肩だったか忘れましたが、ライオンを入れていました。こちらの店では洋彫りでなく和彫りを入れたいということでカエルとダルマと小槌を入れる施術を受けていました。今入れてるのが終わったら足に入れる範囲を増やす予定だったといいます。

施術中はいつも携帯をイジっていて、そこまでプライベートな話はしませんでしたが、仕事は埼玉で足場関係の仕事をしていたようです。昔は錦糸町や渋谷で飲んだり、渋谷のクラブに通っていたけど最近は仕事で忙しく飲んでなかったようです。いつも『よろしくお願いします』と礼儀正しくて。

今年に入ってから『彼女に浮気されたんすわ。もう別れたんすけどなめてるっすわー』とも話していました。確かその頃は仕事の最中に車で事故に遭ったとかで働いてなくて、それでも休業補償や事故でお金が入ると言っていました。

3月にも2回施術を受けにきて、最後に来たのは4月14日でした。その日も3時間施術して次回の予約を5月19日にとっていきました。最後に来たときもほんとふだん通りでしたし、次の予約もとってたくらいですから、事件とか思いもよらなかったですよ」

いっぽう、経営者の宝島さんの遺体が確認された翌日の17日から、サンエイ系列全14店舗は臨時休業を続けていたが、うち寿司店2店舗のみ22日から営業を再開していた。

「ちょうど今日からオープンしました。まあいろいろとあったのは知っていたので、出勤するまでは『お客さんも減るだろうな』と思っていたのですが、ありがたいことに客足は変わらずって感じで。

常連のお客さんも来てくれて『(店が)開くの待ってたよ〜』『頑張ってね』と声をかけてくれました。アルバイトの私にとっては、ようやく出勤できてお客さんも来てくれてホッとしてます」(従業員)

店からは活気のいい声が聞こえてきたが、店員の表情はどこか寂し気だった。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班