トム・ブラウンの布川ひろき(左)とみちお
トム・ブラウンの布川ひろき(左)とみちお

中毒性の高すぎるネタで唯一無二の存在感を放つ漫才コンビ、トム・ブラウン。『M−1』ラストイヤーにかける意気込み、"首折りネタ"誕生秘話、"怪力伝説"と"巨根伝説"など強烈エピソードが盛りだくさん!

■"首折りネタ"の反響がやまない!

――昨年末、『M−1グランプリ2023 敗者復活戦』で披露したネタが大きな話題になりました。

みちお ありがたいことにいろんな方からホメてもらいました。

布川ひろき(以下、布川) ネタが終わってステージから降りた後、リポーターをやっていた、おいでやす小田さんが来てくれて。「ほんま、めちゃめちゃおもろかった」って言ってくれました。

みちお 後輩は気を使って面白いって言ってくれるときもあるけど、先輩はあんまり嘘をつかないですから。

布川 このあいだ千原ジュニアさんの番組にお邪魔したときも、「めちゃくちゃ面白かった」って。うれしかったですね。

みちお チャンス大城さんは、敗者復活戦の後に何度もお会いしているんですけど、そのたびに「この前の面白かったわ」とホメてくれます。次に会ったときも言われる気がする。

――ただ、敗者復活戦で爪痕を残すも、惜しくも敗退。

布川 ロングコートダディ堂前(透)くんとニッポンの社長辻くんが生放送を見ていて、「これは決勝に行ったなあ」とふたりで話していたんですって。でも、その直後、エバースに80対20で負けたのを見て、「あれ、俺たちの感覚ってズレてる?」と不安になっていたらしいです。

――「スナックの迷惑な客の首の骨を折る」というネタを見て、客席は騒然としました。

布川 最初に首の骨を折る漫才をしたのは半年くらい前ですね。「先生をお母さんと言い間違えた生徒が、それをごまかすために先生の首の骨を折る」というボケがあったんですけど、お客さんの反応がすごく良かったんです。

みちお "首折り"はなぜか評判がいいんですよね。

布川 「ネタの設定が嘘っぽいとお客さんは笑わない」といわれているんですけど、「こいつならやりかねない」と思われているのかも。敗者復活戦の数ヵ月前に初めてライブでこのネタをやったときは、爆笑というよりも、ザワザワとした笑いが起きたんです。これはイケるかもと思いました。

トム・ブラウン

――笑顔で相手にとどめを刺す様子は怖いけど、面白かったです。

みちお 子供の頃からホラーコメディが好きなんです。『死霊のはらわたⅢ』という映画で、井戸に人が落ちて血が上に噴き出るシーンがあるんですけど、ひとり落ちただけなのに200人分ぐらいの血しぶきがドバドバと噴き出てきて。

「そんなわけないだろ!」って、ホラー映画なのについ笑っちゃうんです。「怖いけどアホなものが好き」というのが根っこにあるんだと思います。

■ネタ作りでケンカすることも

――ネタはどうやって作っているんですか?

布川 もともとふたりで作っていたんですけど、最近は元芸人の構成作家の先輩と3人で作っています。誰かがボケを思いついて、それを聞いたふたりが笑ったら、「いいかも」みたいな。まあ、ケンカもしますけど。

――例えば、どういうことでケンカするんですか?

みちお 温泉まんじゅうが喉に詰まったときに、スポンと吐き出すのか、一回グッとため込んでから吐き出すのか。そういうボケの細かいところでもめますね。

布川 エスカレートして本気のケンカになったこともあります。そういうときはライブでそれぞれやってみて、お客さんの反応で決めます。

――みちおさんが首の骨を折り、布川さんが白目をむいて死ぬ。みちおさんは「力を制御するリミッターが壊れている」と医者に言われたこともあるほどの怪力ですが、布川さんは怖くないですか?

布川 「本当に折れるかと思ってドキドキした」と見ている人に言われたことはありますけど、僕は体が柔らかいから全然大丈夫です。

みちお なんなら、「もっと強くやれ」って言われますけど、こっちが怖くなっちゃう。「自分の力を制御できなかったらどうしよう」って。昔、背筋力を測定するときに、自分の限界がわからず、力を入れすぎてヘルニアになったことがあるんで。

布川 怪力の限界に挑戦という企画で、パイナップル潰しに挑戦したこともあったね。

みちお 絶対に失敗すると思ったら、プシャーッて潰れてジュースになりました。

――みちおさんは怪力でおなじみですが、布川さんは巨根で有名だとか。一説によると、「北日本で一番大きい」とか。

布川 週プレっぽい質問だ(笑)。確かに父さんはデカかったし、兄弟はみんなデカいですね。

「北日本で一番大きい」とも噂される"巨根伝説"を持つ布川
「北日本で一番大きい」とも噂される"巨根伝説"を持つ布川

――それを自覚したのはいつ頃ですか?

布川 小5のときにふざけて、友達と出し合っていたら、みんなが「でけー!」ってドン引きしたんです。全員、真顔でした。

みちお 『稲中』(マンガ『行け!稲中卓球部』)の竹田だね。

布川 先輩芸人と見せ合ったときはいい勝負でした。

みちお 太さは先輩、長さは布川に軍配。ちなみに、ヤーレンズ楢原(真樹)もでかいです。

布川 ケイダッシュステージのツートップです。二大巨頭ならぬ二大巨根。

みちお 僕はタマキンだったら負けないんだけどな。袋が他人の4倍あるんで。

■意外とタメになった先輩からのアドバイス

――おふたりはもともと清潔感とは無縁だったとか。

布川 きれいにしたら売れるかと思って、公務員みたいな短髪にした時期もありました。でも、根っから汚いやつって、どんなに新しい服を着てもダメなんですね。

みちお オーダーメードのワイシャツを作ったこともあったけど、隠せなかったなあ。海外製の(洗浄力の強い)洗剤じゃないと落ちないような強烈な汚れなんで。

布川 その路線を諦めて、黄色のワイシャツと、ペンギンのセーターで舞台に立つようになったら、お客さんにしっかりとネタを見てもらえるようになったんですよね。

みちお 見た目とネタがしっくりきたんでしょうね。

布川 昔からネタの方向性って、そんなに変わらないんです。見た目とネタの違和感がなくなって、ちょっとずつお客さんに受け入れられるようになったんだと思います。

――昨年の『M−1』で準優勝したヤーレンズのおふたりにも、ビジュアル面でアドバイスしたことがあるとか。

布川 昔のヤーレンズのネタはスタイリッシュな衣装で良かったと思うのですが、ここ2、3年くらいのネタは違うので、「おまえはホットパンツをはけ!」と、楢原に勧めたことがあります。

みちお ネタはみんな面白いんです。だったら、僕たちにできるのはそういうアドバイスだけですから。

――おふたりが先輩からもらったアドバイスで、今でも覚えていることはありますか?

みちお ネタを間違えたり、ウケなかったりしたらどうしようと弱気になっていた頃、事務所の先輩であるHi−Hi岩崎(一則)さんの言葉に救われましたね。「ウケてもスベっても、おまえはみちおだろう」って。

布川 ハゲてるけど、いいこと言うんです。

みちお それまでは何者かになろうとして、実力以上のことをやろうとしていたんですけど、その日から肩の力が抜けて、楽しくできるようになりました。「へたくそだけど、それがどうした」って。

「力を制御するリミッターが壊れている」と医者に言われた"怪力伝説"を持つみちお
「力を制御するリミッターが壊れている」と医者に言われた"怪力伝説"を持つみちお

布川 僕が岩崎さんに言われて印象に残っているのは、「ステージにしっかりと立て」ですね。「本当に面白い人たちって、親指の付け根で舞台をぐっとつかんでる感じしない?」って。柔道と同じ。

みちお 売れないやつって、だいたいステージ上でフワフワしているんです。だから、お客さんも笑いづらい。

布川 足の指に力を入れて立つようになってから、確かにウケ方は変わりました。でも、岩崎さんの言ったことを真に受けたってバレたら、みんなにナメられちゃうな。

みちお 僕なんて、岩崎さんにお金を貸してますからね。

――ちなみに、おふたりから見て、汚い芸人とは?

布川 や団の中嶋(享)。下着みたいな服で舞台に立つし、トリオの中で一番女性人気があるなんて信じられない。

みちお 僕は同じハゲ仲間のきしたかの・高野(正成)です。錦鯉・長谷川(雅紀)さん、みなみかわさん、ギャロップ林(健)さんとハゲ芸人は多いけど、高野はちょっと髪を伸ばしていて汚らしい。あのハゲ方はみっともない(笑)。

■今年が『M−1』ラストイヤー

――おふたりの漫才は理屈を超えた面白さがあります。老若男女に受け入れられる理由はそこにあるのかなと。

みちお うれしいですね。こう見えて、ネタのセリフをなるべく減らすとか、わかりやすさは常に意識してるんで。

布川 前よりは子供から人気出た気がします。

みちお でも、子連れのお母さんが「うちの子がファンです」と言ってくれたのに、肝心の子供は遠くからこっちを恐る恐る見ているだけ。街で僕らに話しかけてくる人って、基本的に腰が引けてる。ビビリながら声をかけてくることが多いですね。ひとりでも怖いのに、ふたりそろったらもっと怖いんでしょう。

――もともと同じ高校の柔道部で、布川さんが先輩、みちおさんが後輩という関係性ですが、最近はふたりでどんな話をするんですか?

布川 恋愛事情とか話しますよ。「今、付き合っているアイドルとはどうなってんの?」とか。

みちお 布川は結婚して子供もいるので、恋愛から生活に関する悩みまで、いろいろと質問してます。

布川 この前は、LINEのメッセージの送り方を指南しました。こいつは、訳がわからないカエルの絵文字を、2行空けて入れたりするんです。「これ、入れないほうがいいよ」って言ってあげました。

みちお LINEが気持ち悪くて、実際に女のコにフラれたこともあるので、勉強になりました。

布川 本当に気持ち悪いよ。なんで、わざわざカエルを入れるんだよ。

みちお 注目させたくてさ。

布川 意味わからないし、怖いって。

トム・ブラウン

――さて、今年は『M−1』ラストイヤーです。

布川 やっぱり、もう一度決勝に行きたい。優勝したいです。

みちお 「話題になって良かった」という段階はもう終わったかな。もっと上を目指したいです。

布川 一緒にネタを作っている構成作家さんに、みちおはお金を貸しているんです。

みちお 今年、準決勝まで行ったから、いったんチャラにしました。

布川 優勝したら100万円をあげるらしいので、みちおがどんな表情でお金を渡すか見たいですね。

みちお 「50万円でいいや」と向こうが言い出すのをじっと待ちます。あと、マネジャーにも時計を買ってあげます。布川も半分出して。

布川 おまえが言い出したんだから、自分で払え。

――私生活も充実しているから、そろそろ結果を出したいという思いも強いのでは?

みちお まずは5月から始まる単独ライブでネタを磨いて、『M−1』で結果を残したいです。

布川 ありがたいことにお仕事もいただいていますが、ネタをたくさん作らないと。

みちお 僕は負荷をかけないと頑張れない人間なので、相方からのプレッシャーもいい刺激になっています。

布川 僕たちが全開でいけるのは、単独ライブなんです。とにかく舞台に立つのは楽しい。単独ライブも全力でやりますので、よかったら見に来てください。

●トム・ブラウン(Tom Brown)
同じ高校の柔道部の先輩・布川と、後輩・みちおで2009年にコンビ結成。ふたりの代名詞ともいえる"合体漫才"を披露し、『M- 1グランプリ2018』では決勝に進出

■トム・ブラウン単独ライブツアー「たろう7」
愛知・北海道・大阪・福岡・東京の5都市で5月から6月にかけて開催予定!

取材・文・撮影/キンマサタカ