レアル・マドリーのヴィニシウス・ジュニオールは、過去数年来、スペインで繰り返し人種差別行為を受けている。母国ブラジルのメディアは、「2021年以降、少なくとも20回以上」と伝えており、国民はスペインとスペイン人に対して強く憤っている。
 
 2018年7月、ヴィニシウスは18歳でスペインへ渡った。出場機会が増えて対戦相手にとって脅威となるにつれ、敵サポーターから「モノ」(サル)と呼ばれ、「死ね」といった罵声を浴びるようにもなった。主な加害者は、ライバルクラブであるアトレティコ・マドリーやバルセロナなどのサポーターたちだ。
 
 昨年1月には、アトレティコのサポーターがマドリード市内の橋にヴィニシウスのユニホームを着せた人形を吊るした。5月にはバレンシアのサポーターによる人種差別行為があった。ブラジルのルーラ大統領は、スペイン政府、そしてラ・リーガに加害者への処罰を求めると同時に、ブラジル国民にヴィニシウスへの連帯を呼びかけた。
 
 この大統領の言動が呼び水となり、3月26日、マドリードで「人種差別撲滅」をテーマとするスペイン対ブラジルの強化試合が組まれた。前日会見でヴィニシウスは、涙ながらにこう訴えた。
 
「肌が黒いというだけで虐げられるのは、まったく耐え難い。プレーをする意欲が削がれるんだ」
 
 3-3のドローで終わったその試合で彼は、腕にキャプテンマークを巻いてプレーした。

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 これまでも多くのブラジル人選手が欧州各国で人種差別の対象となってきた。しかし、ヴィニシウスほど執拗に標的にされてきた選手はいない。それはレアル・マドリーが超人気クラブである一方でアンチも多いからだろうし、彼が危険極まりないアタッカーに成長したからだろう。
 
 ブラジルに人種差別がまったくないわけではない。しかし、欧米と比べると格段に少ない。「人種差別は違法」と広く認識されており、実際に処罰を受ける。その点、欧州各国の対応は不十分に思える。
 
 あるブラジル人記者はこう語っている。
 
「ヴィニの問題で、わが国では『スペインは人種差別に甘い国』という認識が広がった。これは、両国にとって不幸なことだ」
 
文●沢田啓明
 
【著者プロフィール】
1986年にブラジル・サンパウロへ移り住み、以後、ブラジルと南米のフットボールを追い続けている。日本のフットボール専門誌、スポーツ紙、一般紙、ウェブサイトなどに寄稿しており、著書に『マラカナンの悲劇』、『情熱のブラジルサッカー』などがある。1955年、山口県出身。 

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