FCバルセロナのポーランド代表ロベルト・レバンドフスキは、当代随一のストライカーと言えるだろう。

 最盛期と比べると、たしかに瞬発力、爆発力は落ちている。年齢を重ねたことで、一瞬に対するパワーは失われつつあるのだろう。時間の流れは残酷だ。

 しかしながら、失ったものと反比例するように、ストライカーとしては熟練の域に達している。例えば、チャンピオンズリーグのパリ・サンジェルマン戦のファーストレグでは、その老練さが傑出していた。

 序盤、レバンドフスキはセンターバック二人とアンカーに囲まれ、なかなか起点になれなかった。そこで、わざと(マークの)枠外まで出て、ボールをもらう動きをすることで相手を動かし、両サイドのラミン・ヤマルやラフィーニャにスペースを与える。それに対応せざるを得なくなったディフェンスに対し、今度は自らのポジションでボールを受け、優位に立った。

 前半36分、得点シーンは象徴的だ。

 レバンドフスキは、センターサークル付近でボールを受ける。絶妙のポジションとボールの置きどころで、背後のディフェンスにチャレンジさせない。そのまま前を向いて、相手を動かすように右へスライドし、ヤマルにパス。その後で猛然とゴール前に入ると、ヤマルのクロスを引き出し、相手もそれに引きつけられ、そこでこぼれたボールをラフィーニャが蹴り込んだ。
【動画】CLパリSG戦でバルサのゴールを生み出したレバンドフスキの巧みな動き
 レバンドフスキ自身はゴールを決めていないが、ゴールを作り出していた。
 
 時間が経過するたび、レバンドフスキはセンターバックを消耗させていた。コーナーキックから完璧に合わせたヘディングのように、今も横から来たボールで背後を取るうまさや強さは健在。そしてコンタクトプレーの強さだけでなく、絶妙な間合いのポストができ、スペースを作る動きが巧みなだけに、心理的にも疲弊を引き起こしたのである。

 彼自身はノーゴールに終わったが、3−2という逆転勝利にはその影が濃厚に見えた。相手のパリ・サンジェルマンが、(マルコ・アセンシオの)偽9番でストライカーを用いないシステムだっただけに対照的だった(セカンドレグで逆転負けするのだが、退場者が出て一人少ない戦いで、レバンドフスキに非はない)。

 バルサのディフェンダーも、キリアン・エムバペやウスマン・デンベレの神出鬼没には苦労していたが、いわゆるストライカーがいなかったことで、その消耗度はレバンドフスキに対応したパリSGディフェンダーほどではなかった。パウ・クバルシも、ロナウド・アラウホも、センターバックの動きが試合最後まで鈍らず、90分間を通した戦いで、力をセーブできた。

 ストライカー、レバンドフスキはじわじわと戦局を有利にし、勝利をもたらした。

 日本代表においても、こうしたタイプのFWは必ず一人は必要になるだろう。大迫勇也は近いタイプだろうか。‟彼ら”は勝利の確率を上げるはずだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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