キーワードは「上がり最速」

世界中を探しても、これほどまでに末脚が生きるGⅠはないのではないか。他でもない、牝馬クラシック第1弾・桜花賞のことである。外回りでの施行となった07年以降の17回を振り返ると、4角で10番手以降だった馬が過半数の10勝。同じく16番手以降だった馬が6勝もしているのだ。よく聞く言葉に「前に行ったもん勝ち」があるが「後ろから行ったもん勝ち」のレースはかなり珍しい。

そんな特殊なレースだけに、成績を振り返るときにもひと工夫いる。よく言われるのは「前走着順が悪い馬は消し」ということ。確かに07年以降でみると、前走4着以下の馬が【1-4-4-87】の勝率1.0%、連対率5.2%とイマイチだ。ただ、そもそもこういう馬は人気しない。むしろ、桜花賞で3番人気以内だった馬に限れば【1-2-0-1】と健闘していることを評価するべきで、データとしての信頼度は低い。

そこで注目したいのは、これまでのレースでの上がり3Fの順位だ。前走上がり3F最速の馬は【6-6-2-48】の勝率9.7%、連対率19.4%だから、特筆するような成績ではない。いや、むしろ低調といえるかもしれない。ただ、大事なのは上がり3F最速を「出し続けている」ことなのだ。そこで桜花賞までの全てのレースで上がり3F最速をマークしていた馬の成績を紹介しよう。

デビュー以来、全レースで上がり3F最速を記録した馬の桜花賞成績,ⒸSPAIA


該当11頭の成績は【5-3-0-3】の勝率45.5%、連対率72.7%。これだけでも優秀だが、キャリア2戦の4頭、さらにマイル未経験だったルージュバックを除くと【4-2-0-0】の勝率66.7%、連対率100%まで跳ね上がる。まさに「継続は力なり」。デビューから上がり1位を記録し続けることが桜花賞制覇への近道なのだ。

そこで今年の登録馬をチェックする。するとただ1頭、デビュー以来、一度も上がり最速の座を譲っていない馬がいた。それがクイーンズウォークだ。20年の朝日杯FSを制したグレナディアガーズの半妹という血統馬。前走のクイーンCは後方から外を回しての差し切りだった。ゴール前でアルセナールに首差まで迫られたとはいえ、実際は着差以上の完勝。まさに本番の予行演習のような内容だった。

中内田充正調教師と川田将雅騎手のタッグは、昨年の覇者リバティアイランドと同じで実に頼もしい。調教師には70年ぶり2人目の連覇、騎手には史上初の3連覇がかかる一戦。クイーンズウォークの自慢の末脚で記録尽くめの勝利に期待したい。

《ライタープロフィール》
逆瀬川龍之介
国内の主要セール、GⅠのパドックはもちろん、時には海外のセリにも足を運ぶ馬体至上主義のライター。その相馬眼を頼りにする厩舎関係者、馬主は少なくない。一方、マニアック、かつ実用的なデータを駆使して、ネット媒体や雑誌などにも寄稿するなど、マルチな才能を持っている。

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