リーグ4連覇を目指すオリックス・中嶋聡監督は、開幕前にこう語っていた。

「苦しいシーズンになると思うし、団子状態でいくと思う。離されることなく、しがみついていきたい」

 いざシーズンが始まり、各球団の対戦カードが一巡した時点(4月14日)の成績は7勝8敗で順位は3位。4月13、14日の日本ハム戦に今季初の連勝で順位を上げたものの、開幕から3カード連続して負け越すなど、厳しいスタートとなった。


ここまでチーム7試合に登板している吉田輝星 photo by Koike yoshihiro

【143試合をどう戦うか】

 このオリックスの開幕スタートをどう見ればいいのか。解説者の野田浩司氏は次のように語る。

「去年も含め、近年のオリックスはスロースターターです。もちろん、開幕ダッシュするに越したことはないですが、オリックスは143試合をどう戦うかというチームです。巡り合わせとして、開幕時に調子の上がらない選手が揃ってしまっただけで、そこまで深刻ではないと思います」

 そしてこう続けた。

「中嶋監督とすれば、今年をどうやって戦っていくか、今は選手を見極めている時期だと思います。たとえば、先発投手は8人で回していました。宮城大弥、山下舜平大といったローテーションの軸になる投手から、2年目の曽谷龍平やルーキーの髙島泰都を含めた8人。当初は先発の一角と見られていた山岡泰輔が故障で出遅れていますが、この起用を見て、思いきりのいい中嶋監督らしいなと感じました。ちなみに去年は、開幕してから9人で回していました」

 今季のオリックスと言えば、ドジャースに移籍した山本由伸と日本ハムに移籍した山?福也の抜けた穴をどう埋めるかに注目が集まっている。ただ、中嶋監督の考えはこうだ。

「埋めるんじゃなくて、新しく積み上げるという形にしたい」

 そもそも中嶋監督の頭の中に、昨シーズンのようにぶっちぎりで優勝するなどない。前述したように、団子状態のなかでいかに離されずについていけるか。野田氏の表現を借りれば、「その準備を整えているのが今の時期」と言える。

 そのなかで、やはりポイントになるのがリリーフ陣だ。野田氏が言う。

「やはり宇田川優希と山﨑颯一郎ですね。あと阿部翔太と小木田敦也もいます。こうしたリリーフ陣が安定してこそ、リードした試合はきっちり逃げきるというオリックスらしい強い戦いができる。そういう点で、まだちょっと不安な部分は感じますね。ここが安定してきたら、ソフトバンクともいい戦いができると思います」

【想定外だった中軸打者の不振】

 また、他球団のスコアラーはここまでのオリックスの戦いをこう見ている。

「中嶋監督としたらホッとしていると思いますよ。対戦がひと回りして、よく借金1でいけたなと。おそらく、あそこまで打てないとは想定していなかったはずです。とくに森友哉、頓宮裕真、杉本裕太郎といった中軸を担う選手が揃って振るわなかった」

 開幕当初のオリックス打線について、前出のスコアラーは次のように語る。

「強いボールに対しての反応が悪く、簡単に連打で得点する感じがなかった。逆に、制球力で勝負してくるような技巧派は、まだチャンスがあるかなというイメージでした」

 その言葉どおりの戦いとなったのが、4月12日からの日本ハムとの3連戦だ。第1戦は伊藤大海らの前に4安打に抑えられ、0対1と敗戦。翌日は先発の加藤貴之ら日本ハム投手陣から5点を奪い快勝。14日の試合は初回に3点を奪われるも、日本ハム先発の根本悠楓を攻略してすかさず同点とすると、その後も着実に加点して6対3で勝利した。徐々にではあるが、打線がようやく機能してきた印象を持たせた。

 そしてもうひとつ、開幕からの15試合を振り返ると、"マジック"というほどでもないが印象に残ったのが吉田輝星の起用だ。まず開幕戦で、1点ビハインドの7回途中から宮城のあとに登板してピシャリと抑えると、徐々に勝ちパターンでの起用にシフトしていった。

 吉田がオフにトレードでオリックスに移籍し中嶋監督と会った際、"フォーム改造"を提案されたという。体重移動をスムーズに、かつ安定して持続させるフォームへの修正だ。

 ごく真っ当な指摘ではあるが、中嶋監督ら首脳陣にしてみれば、日本ハム時代からの吉田の課題を認識し、修正すればボールの威力が上がってくると見ていたわけだ。吉田はキャンプから体重移動をテーマに掲げ、実際、ボールの伸びは変わった。

 それでも13日の日本ハム戦は、5対0とリードした場面の9回に登板。二死から1失点し、なおもピンチとなったところで平野佳寿に代わった。まだ4点差あったにもかかわらず守護神を投入したことに、「この試合は絶対に落とせない」という気迫を感じた。そして翌日も平野を連投させ、今季初の連勝を飾った。

「この2連勝は大きかったと思います。7勝8敗と5勝10敗では、チームの勢いはまったく変わりますからね」(前出スコアラー)

 その一方で、こうも言う。

「中嶋監督は、吉田がシーズンを通して使えればいいと思っているけど、過度な期待はしていないはず。やはり宇田川、山﨑らが本来の調子になってきた時が、戦闘開始のサインと考えているのではないでしょうか」

【交流戦までは無理をしない】

 攻撃陣では頓宮だ。昨シーズンの首位打者であり、今季も4番でスタートした。しかし、一時期打率は.045まで落ち込み、8番降格どころか、スタメンからも外れた。

 すると中嶋監督は、登録抹消はせずに12日に1日限定でファームの試合に送り出したのだ。その試合(中日戦)は4打数無安打だったが、翌日は再び一軍の試合に8番で出場すると、本塁打を含む2安打と復調の気配を見せた。

「ファームで1試合出場させたことが、どれだけ効果があったのかはわかりません。おそらく気分転換的なものだったと思います。ただ、その日の一軍の試合は伊藤(大海)が先発で、頓宮が苦手とする投手のひとり。中嶋監督は初めから使う気がなかったので、ファームで出場させたのではないですかね」

 中嶋監督からすれば、"マジック"にも入らないような起用かもしれない。ただ、選手の状態を見極め、チームに落とし込んでいく。これが野田氏の言う「143試合を俯瞰して戦う」という中嶋監督の流儀である。

 前出のスコアラーは言う。

「中嶋監督は、交流戦までは選手に無理をさせず、勝ったり負けたりを繰り返しながら戦っていくと思います。ソフトバンクが独走しないという前提ですが、それまでにいかにしてチームを整えるか。そうした考えの監督だと思います」

 開幕から主力の不振が響き、苦しい戦いを強いられているオリックスだが、それでも連敗したのは一度だけ。これこそ中嶋監督の真骨頂と言えるかもしれない。はたして、4連覇に向けてこれからどんな"ナカジマジック"を披露してくるのか、楽しみでならない。

著者:木村公一●文 text by Kimura Koichi