初タイトルを獲得し勢いに乗る坂口楓華 photo by Takahashi Manabu

 ガールズケイリンの選手にとって、ひとつの大きな山場、「令和6年能登半島地震復興支援競輪・第2回オールガールズクラシック」が4月26日(金)〜28日(日)の3日間、福岡県の久留米競輪場で開催される。オールガールズクラシックは、昨年新設された3つのGⅠ開催のひとつで、ガールズケイリンのなかでは最も格式の高いレースに位置づけられている。出場できるのは、選抜された42選手のみ。優勝者には、年末に開催される最高峰のレース「ガールズグランプリ」への出場権をいち早く獲得できるとあって、選手たちは並々ならぬ意気込みでこのGⅠに臨んでくる。

 ここでは、3月のガールズケイリンコレクション2024取手ステージで初タイトルを手にし、優勝候補筆頭と目される坂口楓華に話を聞いた。

【出しきれて気持ちいい!?】

──オールガールズクラシック目前となりましたが、調整は順調でしょうか。

 私は大きなレースに合わせて調整することはなく、一戦一戦いつもどおりに走ることを心がけています。練習は変わらずキツいですが、いいコンディションをキープできていると思いますし、自分でも成長できているのを感じます。

──ご自身のSNSでは「最近は出しきれている」とつづっていました。

 昨年までのレースでは、踏み切れない展開も多かったんですが、今年はそれをなくそうと全力で踏み出して最後まで高いスピードをキープできるよう、取り組んでいます。全力を出しきっているので、最近は足だけでなく背中や手足の指がつることがあります。でも、筋肉が悲鳴をあげるくらいじゃないと体は成長しないですから、足がつるのも「出しきれているんだな」と感じて、気持ちいい感覚ですね(笑)。

──その"出しきる"走りの成果もあり、3月のガールズケイリンコレクションでは見事優勝、初タイトルに輝きました。あらためて感想はいかがですか。

 先に活躍している同期の存在もありましたが、私は本当に時間がかかると思って、これまでやってきました。(元選手で現在は評論家の)市田(佳寿浩)さんのところで面倒を見てもらうようになってまだ1年なんですが、こんなに早く結果が出るとは思ってもいませんでしたし、毎日、真面目にやってきてよかったとホッとしましたね。

──自信につながったのではないでしょうか。

 自信はそう簡単にはつきませんが、どれだけ頑張っても結果につながらないこともある世界のなかで、自分がやってきたことが間違いではなかったことを証明できたと思います。ずっとタイトルが獲れていない期間は先が見えないような状態でしたが、これでGⅠ優勝、そしてガールズグランプリ優勝という目標に向けて一歩進めました。


坂口はガールズケイリン界で存在感を増している photo by Takahashi Manabu

【無欲でちゃんと生きる】

──昨年は最後まで賞金ランキングでのグランプリ出場権争いを繰り広げましたが、GⅠであるオールガールズクラシックに勝利すれば、早くも出場決定となりますね。

「自分がGⅠを獲ったらどうなるだろう」と考えると、もしかしたら目標を達成して気が抜けてしまうんじゃないかと不安に思う気持ちもあります。ただ、賞金ランキングを争ってグランプリ出場をかけて戦う状態から、早く抜け出したい気持ちはありますね。

 でも、私はGⅠでも普通開催でも目の前のレースを目標に同じモチベーションで臨むようにしています。賞金ランキング争いも、サボらずに"ちゃんと生きていれば"結果が出る世界だと思っています。

──やはり優勝を意識しますか?

 実はお正月に「今年はとにかく無欲でいこう」と決めたんです。昨年末のグランプリでの敗戦(5着)が悔しすぎて号泣しましたし、そこから年末年始は立ち直れないくらい落ち込んでいたんです。

 その後は遊びに行って強引にリフレッシュしましたが、落ち着いて気持ちの整理をしてみると、去年のグランプリでの敗因は勝ちたい気持ちが強すぎて空回りしてしまったことだと思ったんです。だから、今年はGⅠだからと優勝を狙う気持ちは持たないようにしています。

──勝ちたい気持ちが強すぎると、具体的にどのようなデメリットが生まれるのでしょうか。

 もともと自分から動いて目標を掴み取りたい性格なんですが、レースで「自分なら勝てるはずだ」とプレッシャーをかけすぎてしまうと、動かないといけないタイミングで動けなくなってしまうんです。去年は競輪祭(女子王座決定戦)の決勝とグランプリの2回、動かずに負けてしまったことが自分で許せませんでした。それで、欲が強すぎたんだなと気づかされました。

──今年はレースに臨む心理状態から、昨年とは違うんですね。

 ずっとビッグレースで勝てていないことを悩んでいたんですが、1月の立川競輪場での開催で(児玉)碧衣さんとお話する機会があったのも大きかったですね。碧衣さんもビッグレースに勝てない時期があったので、その殻を破れたきっかけを思いきって質問してみたんです。すると、「つい忘れてしまうけど、人間は欲が出るとよくないんだよ」と教えてくれました。

 以前は碧衣さんも結果が出なくて悩んでいたそうですが、思いきって「負けてもまた練習すればいいし、まずは何も考えずに臨んでみよう」と考えて走ってみたら、初めて先行して逃げきれたそうなんです。あらためて"欲が出るとよくない"と確認できましたし、ありがたい話をしていただいて、自分も変われたと思います。



無欲でレースに挑むという坂口 photo by Takahashi Manabu

【見られる存在になった自分】

──今回の舞台は久留米競輪場で、その児玉選手を含めて地元・福岡勢の選手も数多く参加します。どのような開催になると予想していますか?

 今までのレースとは立場が少し変わって、今の私はタイトルを獲って賞金ランキングも1位ですから、やっぱり見られる存在になると思うんです。自分が逆の立場だった時のことを思い返せば、旬な選手のことは警戒していましたから。GⅠなのでやりづらいレースになるとは思いますが、引き出しは増やしてきたつもりなので、先行でもまくりでも、何でもやって決勝に進めるように頑張ります。

──ご自身では時間がかかるタイプだと分析されていましたが、だからこそマークする立場の気持ちもわかるというのは強みになるのではないでしょうか。

 まだまだ負けてきたことのほうが多いので、むしろトップの選手の気持ちがわからないという面では経験不足です。それでも負けてきた人間のほうが強いと思うので、プライドを持って走りたいです。

──昨年末のインタビューでも内面の変化を成長の要因に挙げられていましたが、今回の「ちゃんと生きていれば」という言葉も印象的でした。

 人間的にちゃんとした振る舞いをしていたら結果につながると思っています。練習をさぼらず、挨拶もする。相手が喜んでくれることを進んでやるようにもしています。本とかもよく読んでいて「ちゃんと生きる」ことを人生のテーマにしているんですが、そこはちょっとほかの人と話が合わなくて「変わってる」と言われますね(笑)。

──それでも今の坂口選手の成績を見れば、誰もが真似するようになるかもしれません。

 そうなったら平和になって、きっと強い選手も増えると思います。後輩や新人の選手にも人間としてカッコいいと思ってもらえるよう、ちゃんと結果を残して、自転車を降りてからも尊敬してもらえる存在になりたいです。


【Profile】
坂口楓華(さかぐち・ふうか)
1997年10月1日生まれ、兵庫県出身。小学生時代から自転車競技に励み、高校時代には全日本ロードレースU17で優勝するなど、若くから実力を発揮する。高校卒業後に競輪学校(現日本競輪選手養成所)に入学し、19歳でデビュー。2021年、24歳でガールズグランプリに初出場した。2023年4月に通算200勝を達成し、5月には32連勝も記録。同年12月のガールズグランプリで2度目の出場を果たす。2024年3月のガールズケイリンコレクション2024取手ステージで初タイトルを獲得した。

著者:ハル飯田●文 text by Haru Iida