福田正博 フットボール原論

■サッカーU−23日本代表が、オリンピックの出場権のかかった「AFC U23アジアカップ」で見事に優勝し、パリ五輪の出場切符を手にした。その戦いぶりの評価と7月の本大会のメンバー選考がどうなるかを、福田正博氏に聞いた。

【「チーム一丸」の言葉どおりの選手起用】

 U−23日本代表が「AFC U23アジアカップ カタール2024」で優勝し、8大会連続のオリンピック出場を決めた。アジア枠が8.5もある2026年W杯に対し、パリ五輪に出場できるアジア枠は3.5。W杯よりも狭き門で、しかもアジア全体のレベルアップが著しいなかで、U−23日本代表が結果を出したことは評価している。


AFC U23アジアカップで優勝したサッカー五輪代表の選手たち photo by Getty Images

 大会を振り返ると、日本は初戦から決勝まで難しい試合が続いた。初戦の中国戦は1−0で勝利したものの、日本は退場者を出して10人での戦いを強いられた。決勝トーナメント1回戦のカタール戦は相手に退場者が出たことを最後は勝利につなげたが、開催国で優勝候補に挙げられていたカタールに数的有利な状況でも苦しめられた。決勝のウズベキスタン戦でも、相手の前線からのプレッシングに苦しみ、押し込まれる展開が続いた。

 勝敗がどちらに転んでも不思議ではない展開にあったなかで、勝利を引き寄せられた要因のひとつは、大岩剛監督のチームづくりの妙があったと言えるだろう。

 この世代には久保建英がいる。傑出したタレントがいると、そこを中心にしたチームづくりをしたくなるものだが、久保はすでにA代表の主力で、レアル・ソシエダでも主軸としてプレーしていることもあって招集のハードルは高かった。

 また、久保以外の選手も、海外リーグでプレーしていたり、海外クラブへの移籍が多い時期とあって、大岩監督は誰かに頼るチームづくりはせず、誰が出場してもチームとして同じパフォーマンスが発揮できるチームを築いてきた。

 大岩監督は「チーム一丸となって戦う」というフレーズをよく使ったが、まさに言葉どおりの選手起用だった。U23アジアカップでは23名の選手がベンチ入りしたが、決勝までの6試合で唯一出番がなかったのはGKの山田大樹のみ。中2日の間隔で行なわれた大会で選手を入れ替えながら戦い、選手たちが疲労を溜め込むことなく次の試合へと向かえたのは大きかったと思う。

【A代表で見たい選手が何人もいた】

 選手個々のプレーを振り返れば、すぐにでもA代表で見たいと思わせる選手が何人もいた。筆頭は右サイドバック(SB)の関根大輝(柏レイソル)だ。攻守にハードワークができるのはもちろんのこと、攻撃の質が高い。クロスを相手GKが嫌がるところに上げられるのがすばらしい。

 なにより187cmの長身は魅力だ。世界的に両SBには高さのある選手が増えていて、日本代表にはこれまで185cmの酒井宏樹がいた。現在の日本代表右SBは毎熊晟矢(セレッソ大阪)が179cm、菅原由勢(AZ)も179㎝と低いわけではないが、関根の高さが加わればDFラインの高さへの不安はさらに小さくなるだろう。

 ただし、毎熊や菅原とのポジション争いに勝つためには、もっと全体的にスケールアップすることが不可欠。彼がもっと成長していくために、A代表のレベルを体験させて刺激を与えるのも手だと思う。

 キャプテンをつとめたボランチの藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)は"ポスト遠藤航"の最右翼だろう。いますぐA代表でプレーしても違和感なくフィットするのでは、と思う。

 彼の良さは、ボールを持った時のプレーの選択肢のなかで、常に相手が一番嫌がるパスが最上位にあるところだ。実際にパスを出すかは別だが、いつでもゴール前に縦パスを入れることを狙っている。

 相手にとって危険な臭いを発しているからこそ、相手は藤田がボールを持つと食いつくのだが、それをサッとかわすテクニックも持っている。だからこそ、彼の一挙手一投足は、ほかにはない雰囲気をまとっているのだろう。海外で経験を積みながらスケールアップをしていければ、遠藤(リバプール)を凌ぐ世界的なボランチになる可能性を秘めている。

 山田楓喜(東京ヴェルディ)もA代表に加わってもらいたい選手だ。山田は今季のJリーグでは7試合に出場して(5月13日現在。以下同)、すでにFKでのゴールがふたつ(計3得点)。このペースでシーズンを終えると、FKで2ケタ得点を記録するのではないかと思ってしまうほどだ。

 スピードボールを蹴って、曲げて落とせるのは、インパクトでの力の伝え方が抜群にうまいからだ。天性のものだろうし、練習の賜物でもあるだろう。

 日本は長年セットプレーからの攻撃を課題にしているだけに、山田の左足からのFKがA代表の武器に加わってもらいたいと思っている。ただ、それを実現するには伊東純也(スタッド・ランス)、久保、堂安律(フライブルク)といった日本代表の右サイドアタッカーとのポジション争いがある。FK以外の部分をもっともっと高めなければいけないだろう。

 GKの小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)は、すぐにA代表でプレーしても問題ない力がある。A代表正GKの鈴木彩艶(シント=トロイデン)もパリ五輪世代だが、安定感という面にフォーカスすれば、小久保のほうが上だろう。現状では「スケール感の鈴木」か「安定感の小久保」という選択肢だが、このふたりがここから長年にわたって切磋琢磨しながら、日本のGKのレベルを世界屈指の領域まで高めてくれるはずだ。

 ほかにも、すでにA代表経験のある細谷真大(柏レイソル)、鹿島アントラーズからFC東京への移籍で復活した感のある荒木遼太郎、今大会でも成長を遂げたセンターバック(CB)の高井幸大(川崎フロンターレ)なども、A代表でのプレーが見たいところだ。しかし、まず彼らがフォーカスすべきは、パリ五輪本大会のU−23日本代表に名を連ねることだ。

【オーバーエイジ枠は誰になるのか】

 過去のオリンピックで何度も起きたことだが、五輪予選で活躍したからといってオリンピック本大会でメンバー入りできるとは限らない。五輪アジア予選の登録メンバー数が23人なのに対し、オリンピック本番は18人。しかも、18人のなかにはオーバーエイジ(OA)の3枠も含まれる。その厳しい選手選考を突破しなければならない。

 OA枠を"使う・使わない"や、使うなら誰を招集するかは、五輪のたびに議論されてきた。個人的見解を述べれば、五輪におけるサッカー史、世界におけるサッカーのあり方を見れば、オリンピックの目的は選手育成の場で、OAを使う必要はないと思っている。しかし「日本ではオリンピック重視」という考えがあることも理解したうえで、メダル獲得に向けたOA枠を使うと仮定した場合、誰を呼ぶべきかを考えてみた。

 OA枠のひとつ目は町田浩樹(サン=ジロワーズ)を呼びたい。本大会の短期決戦では守備での安定感と経験値がモノを言うだけに、世界での経験値があり、190㎝という高さ、左利き、CBのほかに左SBでもプレーできる町田は心強い選手だ。さらに鹿島時代は、大岩監督のもとでプレーした経験があり、監督が求めるサッカーへの理解やコミュニケーションに不安がない点も町田を推す理由だ。

 ふた枠目は左SBだろう。伊藤洋輝(シュツットガルト)ならCBもできるため、複数ポジションができるメリットも得られる。先述のとおり、五輪はOA枠を含めて18人しかベンチに入れられないうえ、そのうち2枠はGKになる。短期決戦の短い試合間隔でゲームを重ねていくなかでは、複数のポジションができる選手はやはり重要になるからだ。

 3人目はスペシャリストを入れたいところだ。試合を決定づける仕事ができる選手となると、真っ先に思い浮かぶのは三笘薫(ブライトン)だ。東京五輪ではコンディション不良で不完全燃焼な部分もあっただけに、五輪の舞台で彼が本領発揮する姿を見たくはある。

 しかし、能力の高い選手をOAで加えたとしても、準備する時間が足りなければ効果はない。リオ五輪時に遠藤は「オーバーエイジが本大会の1週間、2週間前に加わっても、チームは急には変わらない。時間をかけなければ融合は難しい」と語っていたが、そのとおりだ。

 もっとも大事なのはU−23選手たちとの融合で、東京五輪では森保一監督のもとでA代表の試合を使いながら、OAの吉田麻也、酒井宏、遠藤との融合がはかれたからこそ、本大会でも選手たちが連動できたのだ。

【久保建英を招集できるか否か】

 パリ五輪でもOAの選手と融合する時間をつくれるかが、最大の課題になる。そこに日本サッカー協会のメダル獲得に向けた本気度が表われると思っている。そして、その本気度をはかるもうひとつの指針が、久保を招集できるか否かにあるだろう。

 海外組は6月で契約が切り替わる。パリ五輪への招集をクラブに打診していても、選手が新シーズンに向けて移籍することになれば、交渉は移籍先のクラブと最初からやり直しになる難しさがある。

 そうしたなかにあって、久保は年齢的にパリ五輪世代で、来季もレアル・ソシエダに残留することを表明している。交渉の窓口はわかりやすく、久保をその気にさせられるかどうかだ。

 日本サッカー協会がしっかりしたプロセスを踏んで久保にアプローチしていけば、日の丸へのこだわりが強い久保だけに、パリ五輪のピッチに立つ可能性はあるのではないかと期待している。

 日本サッカー協会が大岩監督をしっかりサポートし、メダル獲得のために最強メンバーを集める。それができれば、この夏は日本中がサッカーでふたたび盛り上がるはずだ。

著者:text by Tsugane Ichiro