混戦模様のJ1序盤戦をリードしているのは、昨季王者のヴィッセル神戸と昇格組のFC町田ゼルビア。両チームに共通しているのは「ボール非保持」のスタイルであるところだ。一方、浦和レッズや横浜F・マリノス、川崎フロンターレといった「ボールをつなぐ」サッカーは、戦前の評判と違い苦戦を強いられている。

【高い強度の守備をベースにしたスタイルが序盤をリード】

 2024シーズンのJリーグも第13節を終え、(5月13日現在。以下同)首位から7位までわずか勝ち点6差にあり、それ以下も僅差で追随する、稀に見る混戦模様となっている。8分けの東京ヴェルディや7分けのサンフレッチェ広島、アビスパ福岡を筆頭に、非常に引き分けが多いのは、例年にも増して拮抗したシーズンであることを象徴している。


ヴィッセル神戸のキーマン・大迫勇也(左)とFC町田ゼルビアで活躍中のオ・セフン(右) photo by Getty Images

 そんな団子状態といえるリーグテーブルの頂点に、勝ち点26で君臨するのが王者のヴィッセル神戸、同勝ち点で2位につけるのが昇格組のFC町田ゼルビアだ。

 神戸と町田は細かな違いはあれど、ハードワークをいとわずタイトな守備で失点を抑えるスタイル。ボール保持にこだわらず、前線の強みを活かして効率よく得点を狙うという、コンセプトの似たクラブといえる。その堅い守りと効率のいい攻撃によって、両クラブともここまで2分けと引き分けが少なく、もたつくライバルたちからわずかに優位を取れている。

 横浜F・マリノスや浦和レッズ、川崎フロンターレなど、ボールを保持してゲームのコントロールを狙うクラブがやや出遅れるなか、昨季に続いて今季もハイプレス、ハイインテンシティな守備をベースにしたこの2クラブのスタイルが、Jリーグをリードしようとしている。

【神戸は昨季優勝メンバーに加え、選手層の厚みも見せる】

 今季の神戸は、昨季と同様に基本システムの4−3−3から、守備時にはインサイドハーフのひとりが一列上がって4−4−2に可変。2トップのプレッシングで相手のビルドアップに制限をかけて追い込み、前向きにボールを奪って素早いトランジションからカウンターを狙う。

 あるいはボール保持になれば、右サイドバック(SB)のDF酒井高徳が高い位置を取ってトップのFW大迫勇也も右サイドに寄り、右肩上がりに前線が近い距離を形成する。その前線右サイドへ後方からボールを送り込み、大迫や武藤嘉紀の個の能力を活かして起点を作りながら一気に相手陣内に攻め込んでいく。

 さらにセットプレーも武器とし、多くの得点パターンからここまでリーグ2位の23得点を記録。守備でもリーグ最少タイの10失点、5試合のクリーンシートはリーグ2位タイと、攻守に抜群の結果を残している。

 今オフにFW宮代大聖やMF井手口陽介、DF岩波拓也、DF広瀬陸斗ら即戦力級を補強し、さらに厚みを増した選手層も神戸の強みとなっている。

 大迫が不在となった第8節の町田戦ではFW佐々木大樹を代役に立てて競り勝ち、前節から中2日で迎えた第12節のアルビレックス新潟戦は、大幅にターンオーバーをしながら勝ちきった。

 そんななかでひと際インパクトを残すのが宮代で、6得点は大迫、武藤を抑えてチームのトップスコアラー。シュート総数、ゴール期待値(シュートチャンスが得点に結びつく確率)も大迫、武藤に次いでどちらもチーム3位の数字を残し、キャリアハイとなるシーズン8得点もまもなく更新する勢いだ。

 個のクオリティを前面に押し出す王者のサッカーのなかで、ヘディングやドリブル突破などさまざまな得点パターンからゴールを奪い、ブレイクを果たしている。ゴールセレブレーションの"領域展開"ポーズもお馴染みとなってきた。

【町田はシンプルなサッカーでプレーに淀みがない】

 町田は「失点をゼロで抑え、一本中一本をものにする」「相手が嫌がることを徹底する」といったコンセプトのなかで、チームとしてやること、優先順位が明確で、それを誰が出ても徹底できるのが強みであり、この順位にいる理由である。

 基本システムの4−4−2から2トップで相手のビルドアップを制限し、チーム全体でのハイプレスでボール奪取を狙う。ボールを奪えばオ・セフンや藤尾翔太、平河悠、藤本一輝ら前線のタレントを活かして、シンプルかつ素早く相手ゴールに襲いかかるサッカーは、よく訓練され淀みがない。

 ここまで10失点は神戸、ガンバ大阪と並んでリーグ最少タイ。6試合のクリーンシートはリーグ最多タイと強固な守備を築いている。

 また、明確なプレーモデルを実践できる戦力を的確に補強しているのも町田の強さを支えている要因で、その最たる例が"ウルトラセフン"こと、清水エスパルスから加入したオ・セフンだ。

 194cmという恵まれた体躯を活かし、空中戦勝利数は130を数える。次にその数が多いジュビロ磐田のFWマテウス・ペイショットが72、チームでの空中戦勝利数1位の神戸(町田は2位)で最多の大迫が58である。いかにオ・セフンの高さが圧倒的で、どれだけ活用しているかがよくわかるだろう。

 後方からのロングフィード、ゴールキック、ロングスロー、サイドからのクロス、あらゆるところからオ・セフンの頭を目がけてハイボールを送り、周りの味方はひたすらセカンドボールを狙い続ける。その圧力は相手にとってかなりの脅威だ。

 オ・セフンに限らず、町田のプレーモデルのなかで水を得た魚のように自身の強みを存分に発揮する選手たちは、ほかにも多くいる。

 その持てる能力、強みを適材適所で活かしきる指導力とマネジメントは、高校生の尖った個性をうまく活かしながらチーム作りを繰り返す高体連で、長年指導してきた黒田剛監督ならではと感じる部分だ。

 清水でくすぶっていた韓国人FWが、今季J1を席巻することを誰が想像できただろうか。

【浦和、横浜FMは新指揮官のもと苦戦を強いられた】

 昨季の横浜FMは2位とタイトル争いを演じたものの、ボール保持を主体とするクラブが数年前までの力を失っているのは事実だ。その横浜FMも今季は13位と出遅れている。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の影響で消化試合数が2つ少ないことや日程の厳しさもあり、順位が落ちているのは仕方がない面もあるが。

 ただ、それだけでなく、今季からハリー・キューウェル新指揮官を迎え、新しいやり方に不慣れな序盤に苦戦を強いられてもいた。ダブルボランチから1アンカーに変わり、SBの流動的な動きがやや制限されたことでビルドアップに苦しんだ。

 それでも試合を重ねるごとにSBのダイナミズムを取り戻し、インサイドハーフのバランスの取り方もスムーズになってきている。いまもっとも注力しているACL決勝を終えたら、浮上してくる可能性は十分にある。

 6位の浦和もペア・マティアス・ヘグモ新監督になって、タイトな守備がベースだった昨季からやり方が大きく変化し、ボール保持型のスタイルを模索している。

 新加入でアンカーを任される、MFサミュエル・グスタフソンの質は非常に高い。ただ、彼へのパスコースを消されると、インサイドハーフのサポートがややスムーズではないこともあってボールがうまく回らなくなり、サイドへ開いた両SBはプレスの餌食になる傾向にある。

 また、昨季の強みであった、守備のコンパクトさが失われているのも気になるところだ。アンカー脇のスペースを使われ、相手に簡単に前進を許すシーンが多くなっている。課題だった得点数は確かに増えているが、代わりに失点数も大幅に増加。昨季はわずか7敗だったが、今季すでに5敗を喫しているのは、守備の安定感を欠いていることが原因だろう。

【川崎は新しいサイクルの構築段階】

 もっとも過渡期にあるのが12位の川崎である。最後にリーグ優勝した2021年の主要メンバーもほとんどがチームを去り、新しいサイクルの構築段階だ。

 開幕戦こそ勝利したものの、寄せが甘く、スライドや戻りの遅い守備では失点が止まらず、第2節から3連敗を喫した。チャンスは作れていたものの、第6節から4試合連続で無得点とゴール欠乏症にも陥った。

 それでも、第11節の浦和戦で3−1と勝利。少しずつチーム状況が上向くきっかけを掴んだか、前節の北海道コンサドーレ札幌戦ではFWバフェティンビ・ゴミスが加入後初ゴールを決めると、ハットトリックの活躍で3−0と快勝した。

 ただし、局面での個の質は見せたものの、川崎のこれまでの基準からすればビルドアップの質も守備の強度も足りないだろう。8年目となる鬼木達監督が、新しいサイクルをどう作りあげていくのか。

 川崎のほかにも、新しいサイクルやスタイルの構築段階にあるクラブは多い。そんなクラブを尻目に、今季もこのままハイプレススタイルのサッカーがJリーグを支配していくのか。この混戦をどこが抜け出していくのか注目だ。

著者:篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko