石川祐希のAttack The World vol. 11

ペルージャ移籍について 後編

(前編:日本からのオファーもあったが「目標に向かって突き進むことを最優先」>>)

 セリエAの常勝軍団、ペルージャへの移籍を決めた石川祐希。イタリア1部リーグで過ごした9シーズンのうち、最も長い4シーズンを過ごしたミラノを去る今、どんな思いを胸に抱いているのか。自身の今後、日本バレーボール界の未来も見据えた決意を聞いた。


ミラノで4シーズンを戦った石川 photo by PA Images/AFLO

【「ミラノには感謝の気持ちしかない」】

――2018−19年シーズン、石川選手のプロ生活はシエナでスタートし、少しずつステップアップしてきました。ミラノでもしっかりと成績を残し、「セリエAのトップ4」という目標も果たしましたが、ここまでの歩みを振り返っていかがですか?

「時間はかかったなと思います。でも、ちゃんとステップアップして、さらに上の目標にも辿り着きつつある。本当に一歩ずつ上がっている感覚です。来季から、また新たなスタート。ペルージャで迎えるシーズンも、新鮮な気持ちで臨みたいと思っています」

――目標はペルージャでプレーすることじゃない、ということでしょうか。

「そうですね。今の目標は、イタリアリーグで優勝し、チャンピオンズリーグで優勝してMVPを獲ること。それを達成するために、やることは変わりません。今まで積み重ねてきたものをペルージャでも出すだけです」

――これまでは移籍の際、出場機会が多くなりそうなチームを選択してきましたね。

「試合に出ることが最も大切だと思っていたので、そのチャンスがあるチームを選びながら、目の前の目標を達成していくという選択をしてきました。それは間違っていなかったと思います。

 僕は『何歳までにこのチームに行く』といった目標設定をしていませんでしたが、仮に『25歳までに』と考えていたら、早い段階でリスクを負ってでも強いチームへの移籍を選択していたかもしれませんね。どちらがいいかはわからないですし、『こっちの道がオススメ』ということもない。僕はただ地道に、確率の高いほうを選んできただけです」

――石川選手はミラノで4シーズンを過ごし、その間にクラブも成長しました。この4シーズンを振り返っていかがですか?

「ミラノには感謝の気持ちしかありませんし、本当に『ありがとう』と言いたいです。パドヴァ時代(2019年−2020年)にオファーをくれて、移籍後は契約を更新し続けてくれた。そのなかで、チャレンジ・カップで優勝したり、コッパ・イタリアやリーグのプレーオフでベスト4に入ったり......。

 今季はプレーオフで3位になり、ミラノは初の欧州チャンピオンズリーグ(CL)出場権を獲得しました。それは僕だけの力ではなく、もちろんチームメートの力もありますけど、ミラノと一緒にやってこられた、歴史を作ってこられたことはとても幸せなことでした」

【ペルージャは"強くあるべきチーム"】

――移籍前に、CL出場権を置き土産にしたかった、という気持ちもあったのでしょうか。

「昨季は4位で終わってしまって、ミラノの力になれませんでした。準決勝で負けた時点で力尽きてしまったので、今季はそうではなく、3位決定戦までしっかり"持つ"ようにトレーニングしてきましたし、『さすがに昨季と同じ成績は嫌だな。最後は勝って終わりたい』と思っていました。

 確かに、『CL出場権を置き土産に』という気持ちもありましたね。ただ、それよりも最後に勝つことのほうが、チームを去るうえでのベストな結果だと思っていたので、そのために戦いました」

――ミラノは、イタリアで最も長いシーズンを過ごしたクラブになりました。取材していても、すごく温かみのあるいいクラブだと感じます。

「本当に温かくてホーム感があり、ファミリーみたいなチームでした。トップのチームに比べると、常に試合会場で練習ができるわけではないことなど、環境の面でストレスになる部分はありましたけどね。それでも、そのなかでやれることをやってきたと思っています」

――ペルージャに移籍するにあたり、意識していることは?

「優勝しか見ていません。リーグもCLも、コッパ・イタリアも、優勝するために今回の選択をしました。トップのチームとはどんなものなのか、といったことも学べるので、さらに成長するきっかけにしたいです」

――チームに対してはどんなイメージがありますか?

「今季とメンバーはほぼ変わらないですし、"強くあるべきチーム"だと思います。昨季はすべてのタイトルを獲っていますから、僕が入ることによって負けたら、単純に僕の評価が下がるでしょう。それくらいシビアな世界だとわかっています」

――日本人選手がセリエAのトップチームからオファーをもらい、そこでプレーすることの意味をどう捉えていますか?

「非常に価値があることだと思います。優勝チームからオファーをいただけたのはうれしいですし、これまで以上に注目も集まるでしょうから」

【新天地で背負う「責任」】

――ファンにはどんな姿を見てもらいたいですか?

「勝ち続ける姿を見せたいですね。先発で出場を続けて、実力を証明していく。日本人でもトップチームでプレーできる、世界のトップになれるということを見せたいです。

 そうすれば将来、子どもたちや若い選手たちが海外リーグに挑戦しやすくなるはず。自分が行きたいと思うのはもちろん、逆に海外のチームから声がかかることもあるでしょう。日本人選手の価値をわかってもらえたら、そういう環境がどんどん整っていくと思います。その責任も背負いながら戦いたいですね」

――日本バレーボール界の未来のためにも戦っていくということですね。

「そうですね。今、日本のバレーボール選手の価値は上がっています。それは僕だけじゃなくて、西田有志選手もイタリアでプレーしたり、今季に髙橋藍選手がプレーオフ決勝まで進んだりと、イタリアで戦った日本人選手たちの実績と、日本代表での活躍に対する評価です。今は、それをもっと高めるチャンスだと思っています」

――これから、どんなキャリアを歩んでいきたいですか?

「まずは、ペルージャで勝つこと、優勝すること、MVPを獲るという目標を達成したいです。それが叶ったら、あとは勝ち続けるしかない。それは高校の時とも同じで、勝ったら次の試合、また次の試合、さらに次の試合も、といったように。そんなシーズンを送りたいです」

――日本代表としてはネーションズリーグも控えていますが、あらためてペルージャでの意気込みを聞かせてください。

「とてもワクワクしていますが、自分がペルージャのユニフォームを着た姿はまだ想像できません。『似合うのかな?』と思ったりもしますね(笑)。今は『石川祐希=ミラノ』というイメージがあると思いますが、『ペルージャといったら石川祐希だよね』と言われるようになりたいです」

――自信のほどは、いかがでしょう?

「もちろん、自信はあります」

【プロフィール】

◆石川祐希(いしかわ・ゆうき)

1995年12月11日生まれ、愛知県出身。イタリア・セリエAのミラノ所属。星城高校時代に2年連続で三冠(インターハイ・国体・春高バレー)を達成。2014年、中央大学1年時に日本代表に選出され、同年9月に代表デビューを飾った。大学在学中から短期派遣でセリエAでもプレーし、卒業後の2018-2019シーズンからプロ選手として同リーグで活躍。2021年には日本代表のキャプテンとして東京五輪に出場。29年ぶりの決勝トーナメント出場を果たした。

公式X(旧Twitter):@yuki14_official>> 公式Instagram>>

著者:柄谷雅紀●取材・文 text by karaya masaki