■『今こそ女子プロレス!』vol.18

優宇インタビュー 後編

(前編:プロレスデビューまでの苦難 嫌がらせを受けた柔道時代、別の道も断念して辿り着いたリング>>)

 2016年1月4日にプロレスデビューし、同年9月にシングル戦無敗のままTOKYOプリンセス・オブ・プリンセス選手権を制して第2代王者に。2017年6月に坂崎ユカに敗北するまで、無敗のチャンピオンだった優宇。しかし、敗者に光が当たりがちなプロレスで、その「強さ」に葛藤するようになっていった。


鈴木みのるなど男子レスラーとも戦う優宇 photo by ペペ田中

【自分がいる場所ではなくなってきている】

 東京女子プロレスには、元アイドル、元お笑い芸人、元公務員など、個性あふれるバックボーンを持つ選手が集まっている。優宇の同期、のどかおねえさん(天満のどか)は「歌のお姉さん」というキャラクターで独自の人気を博していた。

 優宇はどんなスタイルでいくか? という話になった時、「(総合格闘家の)ロンダ・ラウジーみたいな感じがいいんじゃないか」と言われた。しかし当時の東京女子プロレスでは「強さ」がキャラクターになる時代ではなかった。

「お客さんに『キャラがないことがキャラ』と言われたんです。悪気なく言ったんだと思うんですけど、ショックで......。自分には個性がないという悩みに、ぶち当たり続けました。東京女子にいる間は、その壁は超えられなかったです。強いことがコンプレックスで、めっちゃ泣いていました」

「団体選びを間違えてるよ」「仙女(センダイガールズプロレスリング)でデビューすればよかったのに」とも言われた。優宇があまりにも強いという文脈で言われたことだったが、お客さんからも受け入れられていないと感じてショックだった。

 2018年には「アップアップガールズ(プロレス)」の活動がスタートし、現役アイドルだった伊藤麻希も活躍。団体の方針はアイドルに向かっていた。優宇は「自分がいる場所ではなくなってきている」と痛感した。あまりにもつらくて、当時のブログにこう綴っている。

「この悔しい気持ち、悲しい気持ちは忘れることができないから、わたしはもっともっと今のわたしより、プロレスで最高の景色をみたいなって強く強く思う」(原文ママ)

 そして2018年12月1日、フリー転向のために東京女子プロレスを退団。気持ちよく送り出してくれたことに、今ではすごく感謝しているという。

「ベルトを持っていたことが呪縛になっていたけど、あのベルトがあったからこそ、今もいろんな団体でチャンピオンになることの重みを大切にできていると思います」

【「橋本千紘のパートナーの子」と呼ばれて】

 東京女子プロレス退団後、ヨーロッパに渡った。ひどいホームシックに陥った時に助けてくれたのは、イギリスの「プロレスリングEVE」という団体だった。

 ヨーロッパで唯一の女子団体。小さな会場で試合をする小規模の団体だ。大会後にはみんなで写真撮影をしたり、「次、いつ帰ってくるの?」と聞いてくれたり、家族のような温かさがあった。

「私はYuuという名前なので、今でもEVEの試合に出ると、お客さんがタイトルや歌詞に『You』が入っている歌を歌ってくれるんですよ。ビートルズの『All You Need Is Love』とか。そういうのも温かくて、EVEの所属にさせてもらったんです」

 海外ではWWEやAEWといった大手の団体以外、所属という概念があまりない。契約が結ばれているわけではないが、それでも優宇は「EVE所属」と名乗ることで恩返しをしたいと考えている。「自分が活躍することで、EVEの名前を世界中に広めたい」と。

 2019年4月に帰国し、仙女への参戦を発表。7月27日には仙女初のイギリス公演が開催され、優宇は橋本千紘とタッグを組み、ミリー・マッケンジーとチャーリー・エヴァンスが持つ仙女のタッグベルトに挑戦した。試合は惜しくも敗れたが、この日をきっかけに優宇と橋本は「チーム200キロ」を結成した。

 結成当時、優宇は「橋本千紘のパートナーの子」と呼ばれることが多かった。仙女の所属選手ではないこともあり、どうしても主役は橋本になりがちだった。

「『パートナーの子』と言ってくる人に対して、『悔しい、見てろよ』と思ったこともあったけど、自分が橋本ほど努力しているかと言ったら、自問自答する日々でした。よく人と比べて落ち込むことってあるじゃないですか。でも私は、人と比べるにはその人と同じくらい努力をしていなければ、天秤にもかけちゃいけないと思っているんです」

 橋本と同じことをしても、つまらないタッグになってしまう。「だったら別の努力をしよう」と思った。そこから、体を大きくすることに注力するようになった。

 一般的に体を大きくするとスピードが落ちてしまいがちだが、優宇はスピードもある。特に脚のトレーニング、瞬発系のトレーニングには力を入れている。大きくても走れるのが自分のプロレス。優宇は「走れなくなったら引退」と決めている。

「ただ太っているだけだとケガもしますし、臨機応変に体が動かないと、相手をケガさせてしまう。『ケガしないのも、させないのも一流』と教わったので、トレーニングは人一倍やっています」

【転機になった鈴木みのるとの異種格闘技戦】

 2020年10月4日、仙女新宿FACE大会にて、チーム200キロは松本浩代&DASH・チサコが保持するセンダイガールズワールドタッグチームチャンピオンシップに挑戦。勝利して第10代王者となった。

 2022年8月11日には、PURE-J後楽園ホール大会で中森華子を破り、PURE-J認定無差別王座を奪取した。そうして複数のベルトを持つなかで、「もっと刺激がほしい」と思うようになった。

「『誰と試合したい?』と言われた時に、すごく失礼なんですけど、パっと出てこないというか......。すでにいろんな選手とやってるな、と思っちゃうことがあって。何か"未知との遭遇"をしたいと思っていた時期に、鈴木みのる選手とのシングルマッチが決まったんです」

 2022年8月21日のハードヒット川崎大会で、鈴木との「プロレスvs柔道」の異種格闘技戦が組まれた。エニウェア畳ルールで、移動式畳を導入。場外を含め、いかなる場所でも畳の上では柔道ルールが採用されるという試合形式だ。

 鈴木が女子レスラーと試合をする際、いつもなら鈴木が相手を圧倒する。しかしこの試合の鈴木は序盤から優宇を警戒し、逃げ回る展開を見せた。陽が落ちた旧川崎球場で、ナイター照明がドラマチックに会場を照らした。

「その試合は忘れられないですね。チョップで胸が真っ黒になった跡が、10日間くらい取れませんでした。私は100%の力で向かっていって、鈴木さんはそれをすべて受け止めてくれた上で、しっかり叩き潰してもらった。自分にはまだまだ足りないものが多すぎるということを、言葉じゃなくて、しっかり体に叩きこまれました。『自分には伸びしろがあるな』とも思えましたね」

 コロナ禍で海外での試合スケジュールがストップし、優宇の中で時間が止まっていたような感覚があった。試合はしているが、自分のしたいことがわからない。しかし鈴木との一戦で、「自分が本当にやりたいこと」を考えるようになった。

「男子選手と向き合える体づくりをしようと思いました。やっぱり男子の一発は重いんです。でも、100%の力で打ってきてほしいんですよ。『こいつなら打っても壊れないな』と思ってもらえる体でいたいです」

【「自分の体だからこそ見せられるものを見せたい」】

 今年1月から、海外の動画で知った「ストロングマン」のトレーニングを始めた。ストロングマンとは重い物を持ち上げる競技だが、ウェイトリフティングではバーベルを持ち上げるのに対して、ストロングマン・コンテストでは大会ごとに競技内容やルールが異なる。タイヤを持ち上げたり、車やヘリコプターを引っ張ったりすることもある競技だ。

 4月20日、優宇は「SBD Apparel Japan Present STRONGESTMAN&WOMAN 2024 統一予選コンペティタークラス女子の部」に出場し、優勝。10月に開催される全国大会で、日本一のストロング・ウーマンを目指す。「レスラーとしても、ひとりの女性としても、夢や目標を途絶えさせることなく挑戦し続けていく」と話す。

 今年はもっと、海外にも挑戦していきたいという。EVEインターナショナルのベルトを1年以上保持しているが、ベルトを保持しながら、今年はYMZイギリス大会を開催するためにも頑張りたいと考えている。「海外の強豪たちと闘うことで、もっともっと高みを目指したい、強くなりたい」という気持ちが強まってきている。

 プロレスをやる上でのポリシーは、「体を全部使うこと」――。

「体重を有効に使ったプロレスをしたいんですよ。じゃないと、『なんのために太っているんだ』と思うので。フェニックス・スプラッシュはできないですけど、自分の体だからこそ見せられるものを見せたい。説得力のある試合を続けたいです」

 かつては個性がないことに悩み続けた。強すぎるあまりファンから応援されず、孤独を味わった。しかし今、彼女ほど個性のあるプロレスラーは、そういない。彼女ほど誰からも愛され、応援されるプロレスラーも。

プロレスにおける「強さ」とは何か。優宇というレスラーの生きざまが、その答えを物語っているような気がする。

【プロフィール】
●優宇(ゆう)

1991年7月19日、千葉県船橋市生まれ。小学校5年生の時、DDTビアガーデンプロレス観戦をきっかけにプロレスラーを志す。受け身の練習のために始めた柔道で、インターハイ、国体、ジュニアオリンピック出場など、輝かしい成績を残す。2016年1月4日、後楽園ホール大会でデビュー(対のどかおねえさん)。9月、山下実優を下し、TOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王座を獲得。2018年12月、東京女子プロレスを退団。2019年4月、プロレスリングEVEの所属となる。2020年10月、橋本千紘とのタッグ「チーム200キロ」でセンダイガールズワールドタッグチームチャンピオンシップ王者となる。2022年11月13日、EVEインターナショナル王者となり、現在も防衛中。156cm、100kg。X:@yuu_tjp

著者:尾崎ムギ子●取材・文 text by Ozaki Mugiko