5月24日の全国公開が間近となっている映画『おいしい給食 Road to イカメシ』の綾部真弥監督と岩淵規プロデューサーがホテル椿山荘東京(文京区)で5月15日、講演を行い、映画製作の秘話や映画を通じて伝えたい学校給食の魅力を語った。

講演会は、学校給食向け食材を提供するメーカーが加盟する学校給食用食品メーカー協会の50周年記念総会で行われたもの。メーカーや給食関係団体、栄養教諭など、約80名が参加した。

2019年に放送を開始した『おいしい給食』シリーズは、1980年代を舞台にしたコメディ食ドラマ。市原隼人さんが演じる甘利田幸男は給食をこよなく愛する中学教師。いかにおいしく、楽しそうに給食を食べるか、給食マニアの生徒と繰り広げる給食バトルがたまらないエンタテインメントコメディ作品だ。ドラマ3シーズン、劇場版2本と作品を重ねるごとに熱烈なファンを増やし続けた話題沸騰中の食ドラマが、再びスクリーンに帰ってくる。

市原さんを主演に抜擢した理由について、岩淵プロデューサーは「初めて会ったとき、ストイックで熱い俳優だなと思った。そんな市原さんが給食をおいしく食べるギャップは面白いと思ったのと、子どもを見る優しい目に惹かれたから」と話し、「最初はスタッフから合わないのではと言われたが、監督も武道をやっていて良い化学反応が起きたのか、シーズン3までいった。マッチングがよかったと思う」と振り返った。

綾部監督は「(市原さんは)裏表なく、常に熱く、たくましい漢だ」とコメント。「熱すぎて、その熱さに弱ってしまう監督もいるかもしれないが、同じくらいの熱さで切磋琢磨することで特異性をもつことができた。相性がよかった」と語った。

シリーズ作品を通じて、生徒は給食を食べる前に校歌を歌い「いただきます」と言ってから食べるのが恒例となっている。市原隼人さん演じる甘利田先生は校歌を歌うときに身体をものすごく揺らしたり、ダンスを踊ったりする。その表情、身振り、手振りを駆使した独特なダンスは、観る人をぐっと引き付けて離さない見せ場のひとつだ。

市原さんのその喜びのダンスについて聞くと、綾部監督は「台本には何も書いていない。振り付けは全て市原さんが考えている」と回答。

「今でも忘れないのは、シーズン1の撮影初日だ。先生だから黙って生徒が歌うのを聞いているつもりだったが、これだけ給食が好きなら、食べる前にウキウキしてしまうのではないか。リズムに乗って歌って踊って、給食に臨むという一連の動きにしよう。今日は、ソフト麺だからこういう動き、八宝菜だからこういう動きというように、その時々の感情によってアクセントが毎週変わる。毎週同じ構成なのに少し違うのが面白いのではないかと考えて、市原さんにノってみてくれ!と依頼した。もっとやって、もっとやって、とはやし立てると、振り付けを自ら考えてくるようになった。現場でジャズセッションのように生まれた」と、給食の喜びダンス誕生秘話を説明した。

〈給食は日本にしかない共生食〉

学校給食をテーマにしたことについて話を聞くと、綾部監督は、「給食を題材にした映画・ドラマを作って早5年になる。給食について学べば学ぶほど、給食の文化やもたらす効果を知り、これほど大事なものはないと思った。給食は人生最初のキャッチボールだ。初めて他人と食べる会食が給食だから。調べてみると、世界中で同じものを自分たちでよそって食べるという文化は、日本しかない。まさに共生食。コミュニケーション力を育み、苦手な食事でも食べられるようになる。『いただきます』というシーンも丁寧に撮影している。この文化は日本人が誇れるものだ」とコメント。

そして「この給食文化を守るためにたくさんの人々が不断の努力をしている。栄養を気にしつつ、食材をどう手に入れて、給食をどう調理して、どう提供するのか。それによって、子どもたちが味覚を鍛えて、コミュニケーションもできて、人格形成ができる。食事はただ身体の栄養だけでなく人間を形成するものだ。給食が子どもたちの人間力を作っている。給食をどうおいしく、楽しく、丁寧に描くのか。これからも追求していきたい」と語った。

岩淵プロデューサーは「知り合いのアメリカの子どもと一緒に『おいしい給食』を見たところ、これはなんだ!僕たちの国にはない!日本の給食を食べてみたい!!と言われた。日本にはこんなにおいしい食材があって、こんなにすばらしい給食が提供されていて、本当に幸せな国だと思った。作品を通じて、日本の給食の楽しさをもっと伝えたい。残食率がなくなり、元気の源になるなど食の大切さが伝わってほしい」と語った。

〈『おいしい給食』シリーズ総決算の作品、これ以上ない愛を込めた〉

最後に、参加している学校給食関係者へのメッセージを尋ねると、綾部監督は、コロナ禍で給食が黙食になったことの問題に触れた。

「オーディションで200人あまりの子どもたちに会うと、9割の子どもは、また元のように机をくっつけてワイワイガヤガヤ食べたいと言っていたが、1割はこのままでいいと言っていた。1人で自分のペースで食べて、誰とも話さず、早々とコミュニケーションをあきらめてしまう。そこに、給食の意義はあるのか。もちろん大人になってから自分の時間を大切にするのは良い。しかし、小中学校の9年間もそれでいいのか」と話した。続けて「なんとかこれを打破できないか、早々にあきらめてほしくない、もっとトライしてほしいという思いで映画に臨み、『おいしい給食』が目指す総決算の作品になっている。全力を尽くし、これ以上ない愛をこめて作った」と熱く語った。

また、「食事と映画は似ている。食事は一人で食べてもおいしいが、皆で食べるともっとおいしい。映画も、一人で見てもいいが、不特定多数の方々と見ると違う面白さがある。特に、給食や食事に携わる皆さんには、微力ながら背中を押させていただけるような作品になっている。ぜひ劇場でご覧いただきたい」と呼びかけた。

岩淵プロデューサーは「この映画は家族みんなで見られる映画になっている。これまで、男女問わず、世代問わずたくさんの方々に見ていただいている。だまされたと思ってぜひ、見てほしい。だましてないので(笑)」と笑いを誘った。