川瀬良子がパーソナリティをつとめ、日本の農業を応援するTOKYO FMのラジオ番組「あぐりずむ」。毎週火曜は、農業はもちろん、時代の先を捉えるさまざまな研究をおこなっている東京農業大学の農学研究を紹介します。3月5日(火)、3月12日(火)、3月19日(火)の放送では、農業環境科学研究室の入江満美(いりえ・まみ)准教授に、「“食品ロス問題”と“土”との関係性」や「コーヒー粕を活用したお茶の栽培」について伺いました。


(左から)川瀬良子、入江満美准教授



◆“食品ロス問題”を「土」から考える

まず今回のテーマの1つである「土」について、「地球の半径が約6,400kmあるのに対して、土の深さって世界平均で見ると地球の表面の約2mしかありません。つまり(ほとんどのお米やお野菜は)とても薄い層の上で作られているんです」と入江准教授。

さらには、「1cmの土の厚さができるのに、平均で大体500年ほどかかるんです。例えば、葉っぱの野菜が育つには10cmぐらいの土が必要なので“約5,000年”。大根だったら30cmぐらい(の深さが必要)だから、約1万5千年かけてできた土壌で作られたものを、私たちは食べているんです」と説明すると、川瀬は「人類がそれに支えられていると考えると、なんだか儚いですね」と感じ入ります。

改めて入江准教授は「そもそも、食べ物が吸った栄養ってどこから来ているかというと“土”なんです。“水は資源”という感覚がありますが、土壌も間違いなく資源なので、“大切に維持しながら農作物を作って食べる”ということがとても大事です」と強調します。

◆温室効果ガスの約34%は“フードシステム”から排出!?

そんな“土”が、もう1つのテーマ「食品ロス」にどうつながるのでしょうか? 土のなかにはたくさんの有機物が含まれているため、農作物を作る際に土を耕しただけでCO₂(二酸化炭素)がどんどん排出されます。

さらに、土に肥料を与える場合、その化学肥料を作る際にも温室効果ガスが出ていると言い、「“農産物を作り、それが家に届く”までを考えると、世界で排出されている温室効果ガスの約34%はフードシステムから出ている、と言われているので、すごく環境に負荷を与えながら(土から)私たちの食べ物はできています」と解説。

また、生産量の約3分の1が廃棄されていることを指摘し、どこで廃棄されているのかを掘り下げてみると、「先進国は家庭に届いてから捨てている割合が高く、途上国ではインフラが良くないので、炎天下でも(食品を)冷蔵車で運べず、市場でも冷蔵・冷凍設備がないので、そのままの状態で売られています。その結果、産地で採れてから消費者のところに届くまでに約87%(が廃棄される)」と入江准教授。そのため、途上国で食品ロスを減らすのは難しいものの「先進国は“削減できるだろう”と言われています」と声を大にします。

改めて「(貴重な土から作物ができていると考えると)感謝の気持ちが生まれますし、食べ物は資源そのものだなと思える。だからこそ、いい農法を取り入れて、努力してくださる農家の方が作られた作物は“ちゃんと買いたい”と思いますし、そういう意味でも、皆さんが(食品ロスに)関心を持って、小売店の方に『どうしてこの野菜がないの?』とか言ってくださると(お店側も)置いてくれるかもしれない。そうなれば、農家の方の出荷先も増えるので、もっと頑張れる。そんなふうに(良い循環・良いサイクルに)なったらいいなと思っています」と力を込めます。

◆お茶の栽培で“コーヒー粕”が大活躍!?

続いて、入江准教授がおこなっているユニークな研究を紹介。それは「コーヒー粕を活用したお茶の栽培」です。この研究をおこなっている経緯について、「緑茶はたくさんの肥料を欲しがる作物でありながら(栄養成分を)たくさん取りこぼしてしまうことが分かっています」と入江准教授。

例えば、窒素肥料を100入れたとしても、そのうち緑茶が吸収できるのは20〜30程度だそうで「植物が吸えなかったものは、雨が降ると流れていきますし、(取りこぼす量が)多すぎると、ガス化してN₂O(亜酸化窒素)というガスになって抜けてしまいます」と説明。

そこで、入江准教授が着目したのが「コーヒー粕」です。コーヒー粕は、炭のように穴がたくさん空いている構造をしており、なおかつ吸着する能力があるため、「漏れたガスが多いときや茶葉の根っこがまだ伸びていないときに、コーヒー粕に栄養成分を蓄えておいてもらって、根っこが伸びてきたタイミングで植物に栄養成分を与えてくれる」と解説。また、コーヒー粕は、私たちがほぼ口に入れることがないうえに、熱水で抽出した後にできるものなので「むしろ綺麗なんです」とも。

現在は焼却処分されることがほとんどのコーヒー粕ですが、「保水性もあるので、土壌水分を測ると、コーヒー粕を取り入れているところは水分が多いんです。また、地下に漏れる水に含まれる窒素量も減るということが確認できています。コーヒーの消費量は世界的にも伸びているので、これをうまく使えたらいいなと思っています」と期待を寄せていました。



3週に渡る入江准教授とのトークを振り返り、川瀬は「私たちは“土”という貴重な資源を使って、CO₂排出をしながら作られた農作物を食べているとしたら、本当に無駄にできないですよね。皆さんも、食品ロスについて考えることもあるかと思いますが、入江先生の“土から考える”というのは、本当に考え方がガラッと変わるお話でした」と感じ入った様子。

さらに、入江准教授が取り組む研究については、「“コーヒー粕がお茶を育てる”って、聞けば聞くほど不思議な話ですけど、これは楽しみな研究ですし、期待したいですね」と話していました。

<番組概要>
番組名:あぐりずむ
放送日時:毎週月曜〜木曜 15:50〜16:00
パーソナリティ:川瀬良子
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/agrizm/