3月26日、第96回選抜高校野球大会の第7日が甲子園球場で行なわれ、健大高崎(群馬)が明豊(大分)に4対0で完封勝利。2017年以来、7年ぶりとなるベスト8進出を決めた。
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「球数も多かったし、次の試合が投げられなくなってしまうので、その点を考えて継投策にしています」

 健大高崎の指揮官・青柳博文監督はいつも気持ちいいくらいの決断をする。例え先発のエースが、相手打線を0封していても迷いがないのだ。昨今は、投手の複数起用が定着してきたとはいえ、これほど割り切って起用できるのはチーム力の賜物と言えるのかもしれない。

「佐藤龍月と2人でと思っています。0に抑えてくれるので、僕は投げやすいです」

 いつもクローザーの役割を任されている石垣元気は、プロ野球のリリーバーのような振る舞いで相手に対峙する。この日は最速149キロを計測。練習試合では、大台をクリアしているとのことだが「甲子園で出したい気持ちもありますけど、マウンドに上がった時は球速をあまり意識はしないようにして、カウントに余裕がある時にだけ狙うことにします」と務めて冷静に話している。

 先発の佐藤が立ち上がり、やや制球を見出したものの、その後は危なげないピッチングだった。4シームとややシュートするストレート系を投げながら、スライダー、チェンジアップを投げ分け、頭脳派捕手の箱山遥人がうまくリードして、ゲームメイクする。
 「基本は完投のつもりでリードしています。だから、6回に変化球の多いイニングを作ったりして後に備えています。それで交代もしますけど、1試合を考えながらリードしました。ストレートが散らばっていましたけど、それもうまく使っていけたと思う」

 エースの特徴をよく理解している捕手がいることは、チームにとっては大きい存在。健大高崎の投手陣の良さに、箱山の存在が欠かせないのは間違いない。

ただ、それだけエースの状態が良ければ継投は難しい側面も兼ね備えている。
  高校野球の舞台で、継投が難しいのは投手交代の及ぼす影響だ。トーナメント戦のため、一つの失費が命取りになる。自チームの状態だけを考えるだけでいいのであればさほど問題ではないが、投手を交代させることが相手にとって気持ちを楽にさせることもある。好投、ましてや0点に抑えている展開からの投手交代はリスクをはらむものだ。

「試合の流れもありますけど、その点は割り切っていますね。投手への負担とこれからの戦いと選手の将来を考えてね。酷使してもしょうがない。普段の練習試合でも土日があっても連投しない。球数をかぎってやっているのでその辺はピッチャーファーストの考えですね」。

 青柳監督は投手交代に関しては完全に割り切っていると言えるかもしれない。それには過去の失敗も多くあるからで、球数制限がルール化されてからは、高校野球においては当然のことと受け止めている。

「これからの試合ではそういうわけにはいかない。佐藤が早くに点を取られることもあるし、他のピッチャーも出して総力戦で戦わないといけない時が来ると思います」。
  健大高崎は、ここ5年でセンバツ4回出場(1回はコロナで中止)。実は出場するたびに陰の優勝候補と注目を浴びてきた。今大会も、大阪桐蔭や広陵が優勝候補と騒がれる中、健大高崎の前評判も実は高いのだ。

「佐藤と2人で0に抑えて優勝したい。(最後にマウンドに立っている)イメージはあります」。

 一戦必勝を忘れずに持ちながら、それでいて良いイメージを持つクローザーの存在は頼もしいだろう。1、2回戦を快勝して次なる舞台へ進む。

 陰の優勝候補は今度こそ大願成就を果たすことができるのだろうか。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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