スコアは2−4。昨夏ベスト4の神村学園が大阪桐蔭の前に散った。

「守りからリズムを作るというのを掲げていましたが、守備にミスが出て、完全に守備陣が守りに入っていた。攻める守りができなかったのが全てだったと思います」

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 神村学園の小田大介監督はそう敗因を振り返ったが、試合全体を総括するとやり切った満足感を漂わせていた。ミスは出たものの、試合前の期待通りに、この日登板した5人の投手がやり切ったからだ。
  小田監督は続ける。

「今日はピッチャーにはストライクゾーンで勝負しようといって送り出しました。強気というのはインコースに投げるとか、力んだボールを投げることではなくて、打たれることを恐れずに、ストライクゾーンに自分のベストボールを投げることだよって話をして、投手陣はその通りに投げてくれた。ビッグイニングを作られずになんとか凌いだのは褒めるべきところだと思います」

 試合に敗れてもこうも言ってしまえるのは、やはり対戦相手が大阪桐蔭だからである。毎年チームが変わる高校野球においては、常に強豪校が強いとは限らない。しかし、2度の春夏連覇を果たしている大阪桐蔭というチームは、全国の多くのチームにとって目標であり憧れなのだ。

 小田監督は今大会の組み合わせが決まった時から「大阪桐蔭と対戦すること」をチームにとって大事な機会だと捉えていてこの日を迎えていた。だからこそ、ピッチャーには大阪桐蔭にビビってかわすようなピッチングではなく、ストライクゾーンで勝負していくことで何かを掴んでほしいと考えていたわけである。

 試合は1回表に幸先よく先制したものの、その裏にミスから犠牲フライで同点に追いつかれてしまう。3回には2死一塁からの長打で1失点。5回にはライトオーバーの処理を誤ってランニングホームランを浴びたが、1点ずつの失点でビッグイニングを作られなかったことを大きな収穫と小田監督は先発した上川床勇希を褒めていた。

 上川床は5回途中までを投げて3失点。2番手の早瀬朔が3分の1を抑えてエースの今村拓未に繋いだ。今村は1失点したものの2イニングを抑えてみせた。

 上川床は手応えがあったとこう振り返る。

「もっと打たれると思ったんですけど、自分の中で収穫の方が大きかった。こうしたら抑えれるという強いチームの対策を学べました。ストレートだけじゃなくて、バッターのスイングを見てスライダーを続けることだったり、カウントが3-2になっても思い切り腕を振ってストライクゾーンからボールになる変化球を投げたりすることが大事だなと思いました」
  攻撃の方は、1回以降はなかなか活路を見出せていなかったが、小田監督は8回裏の守備から立て直しを図ろうと試みた。

 イニングの頭から右腕の千原和博を投入。右打者2人を抑えると、左打者の山路朝大を迎えたところでサウスポーの釜にスイッチ。三者凡退に切ってとったのだ。

 その狙いを小田監督はこう話す。
 「三者凡退をとりたかった。三者凡退で守りからリズムを作るのが野球の基本が大事だと思いますので、2人の投手を投入しました。そこで1点を取り返せたので、少しは意地を見せれたのかなと思います」

 事実、9回表、神村学園は今岡拓夢、正林輝大の二者連続二塁打で1点を返し、一矢報いたのだった。後続が倒れそのまま試合を終えたが、投手陣の頑張りで得たものは大きかった。

 試合前から大阪桐蔭が相手ということで楽しみにしていたのは選手も同じだった。8回にたった2人だけを抑えた千原は話す。

「自分的に憧れだった大阪桐蔭さんと当たってワクワクしていた。もしマウンドに上がれたら、絶対に抑えてやろうと思いました。自分がマウンドに上がる前は流れが悪かったので、それを断ち切ろうと思いました。チェンジアップという持ち味は十分に出せたと思う。もっと自分の武器を磨いていきたいと思う」

 試合には負けて満足する選手は一人もいない。

 しかし、全国大会だからこそ経験できることもある。チーム事情でエースの今村が長いイニングを投げることができない中で、多くの投手が登板して強豪と対峙することの意義は大きかった。

 小田監督はいう。

「いくら大阪桐蔭打線でもちょっとタイミングをずらしたり、芯をずらすだけで打ち損じをしてくれる。アウトになる率が上がる。そう言った意味でカウントを悪くすると、ストライクゾーンが絞りやすいし球種も絞りやすい。3球で1ボール2ストライクを作ることが大事だった。それくらいの気持ちでストライクを投げてくれた。全ては経験だと思う。このかけがえのない経験を次に活かしてもらうための敗戦だったと思えば、彼らの今後が楽しみでなりません。めちゃめちゃ悔しいですけどね」

 昨夏はベスト4、この春は2回戦で敗退と悔しい結果に終わったものの、神村学園は貴重な財産を得て夏への反抗を誓った。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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