レギュラーシーズンが終了し、プレーオフに進めなかったチームは一息ついている頃だろう。そしてそれは、球団の動きを常にフォローしている地元メディアにとっても同じだ。

 特に超大型新人ヴィクター・ウェンバンヤマが入団したサンアントニオ・スパーズの地元紙『San Antonio Express-News』(サンアントニオ・エクスプレスニュース)は今季、全米で最も目まぐるしい時を過ごしたに違いない。

 ウェンバンヤマの母国フランスを代表するスポーツメディアの『レキップ』が、同業の彼らに取材したところによると、サンアントニオ・エクスプレスニュースはこれまで、ウェンバンヤマに関する記事をおよそ500本も掲載したという。

 実際に注目度は高く、ドラフトのあった昨年6月から、スパーズ関連の記事の閲覧数は60%も増加しているというから、発信のしがいもあるというものだ。スポーツ欄のボリュームが厚い日曜版は、この出版不況にしては異例の毎週7万部を売り上げているという。
  ティム・ダンカン、マヌ・ジノビリ、トニー・パーカーらを擁して栄光を極めていた2000年代からスパーズを追っている担当記者たちにとって、近年の不調は、ニュースを発信する側としても厳しい期間だったというが、そんななかでのこのスーパールーキーの入団は「天変地異が起こったような気分だった。と同時に、これから山のような仕事が待っているぞと確信した(笑)」と記者の1人がコメントしている。

 しかし、読者がウェンバンヤマのニュースに夢中になったのは、彼が単に毎試合、チームハイの得点をゲットしたり、豪快なブロックをかましているからだけではないらしい。

「ウェンバンヤマはバスケットボールだけでなく、その若さや、様々な文化に精通した一面、そして人柄で瞬く間に読者を魅了してしまった。人々は彼がどんな服を着て、何を食べているのかといった彼の在り方そのものにまで興味を持つようになったんだ」

 サンアントニオ・エクスプレスニュース紙ではそれまで3人の記者がスパーズを担当していたそうだが、ウェンバンヤマのライフスタイル関連の話題を扱うために4人目を加えたとのこと。
 「ヴィクターは、私のようなコラムニストにとっては金鉱のような存在だ。好奇心旺盛で、バスケットボール以外の話題についても多くの意見を持っている20歳のアスリートというのは珍しい」

 そう語っていたのは、番記者の1人で、スポーツに心理学を絡めた記事を書くことも多いというマイク・フィンガー氏だ。

 フランスにいた時代も、ウェンバンヤマは記者たちからの評判はすこぶる良かった。しっかり質問を聞き、じっくり考えてきちんと答える、その真摯な姿勢だけでなく、彼らが一番評価していたのは“答えの量”だった。

 どんな質問に対してもウェンバンヤマは長い答えをくれるから、読者にとって読みがいのあるインタビューになる。フランス人記者は、彼が使うボキャブラリーについても「この年代の若者の口からは聞いたことのないような単語が出てくる」と感心していた。子どもの頃から読書が好きだったというウェンバンヤマらしい一面だ。
  しかしそんなウェンビーをフォローするのは「精神的には相当タフでもあった」とサンアントニオ・エクスプレスニュース紙の記者は漏らしている。ウェンビーが試合で何かすごいことを達成する、試合後に彼が驚きの発言をするなど、常に何かサプライズが起こる可能性があり、いつ何時でも神経を研ぎ澄ませ、万全の体勢でいる必要があったからだ。

 以前は、ロードでは彼らしか取材に来ていない試合もあったそうだが、今シーズンは『ESPN』や『The Athletic』、そしてフランスメディアの特派員が常に帯同し、 大所帯になったというのは想像がつく。

 スパーズのシーズンは終わっても、ウェンバンヤマについては“ルーキー・オブ・ザ・イヤーの獲得なるか”“夏のオリンピックでの活躍は?”と、オフの間も話題が尽きそうにない。サンアントニオ・エクスプレスニュースの記者たちは、本当に束の間の休暇を過ごすことになりそうだ。

文●小川由紀子

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