高本幹也が口角を緩める。涼しげな目。成人男性にあってはやや高めの声を連ねる。

「どの試合も負けたくないんですけど、負けたら終わりという試合になればなるほど、やっぱり、気持ちは高まる。何て言うんですかね…。トーナメントのほうが、迷わないというか、思い切ってやろう、となる」

【PHOTO】ラグビー界に名を馳せる世界のトッププレーヤー30選! 大阪桐蔭高、帝京大では日本一を争うノックアウトステージを計3度、制している23歳。5月19日からは東京サントリーサンゴリアスの一員として、リーグワン1部のプレーフに挑む。

 身長171センチ、体重80キロと小柄も、実質1年目にして司令塔のスタンドオフとしてレギュラーシーズン全16試合に先発してきた。

 実戦を通して進歩してきた。チームで作ったプランを仲間と遂行したり、その流れで学生時代から定評のある技術と判断力を活かしたり。フッカーの堀越康介主将に、こう認められる。

「もともと強気な選手なんですけど、試合を重ねるごとに『このチームをどう勝たせるか』『自分のプレーがどれだけチームに影響を与えるか』について責任を感じてきて、それを日々の活力、自信にして、いいサイクルで成長している」

 印象的な働きを披露したのは4日。東京・秩父宮ラグビー場で、昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイを迎えたリーグ最終節のことだ。

 26―14とリードしていた後半4分頃だった。

 相手ボールキックオフから、自陣10メートル線付近左中間でラックができる。その左側でパスを受けた高本がさらに左を向き、かつ、右前方へ低いキックを放つ。向こうの虚を突く弾道で、エリアの奪い合いを始める。

 蹴り返されたら、その弾道を予測して自陣22メートル線付近右でキャッチ。走りながら左足を振り抜き、楕円球を敵陣22メートルエリアまで飛ばす。

 その後、いくつかのラリーを経て、スピアーズがやや後逸しながら何とかリターン。それをハーフ線付近の右タッチライン際で捕球したのが、高本だった。

 駆け上がる。

 ふわりと球を浮かせる。

 せり上がってくる防御の背後へ落とし、その地点へは味方が圧。結局、動き始めた地点よりも約20メートルも進んだところでリスタートできた。

「(秘訣は)練習(の成果)と、あとはちょっと直感の部分です」

 1点差でも勝てば官軍のプレーオフにおいては、いかに敵陣ゴールラインの近くにいられるかが肝となる。競技の特性上、ずっと守っていてもペナルティーゴールを得てスコアできるからだ。

だから、高本のキックバトルでの閃きはいっそう価値を高める。スピアーズ戦は決定機を逃すなどして26―45と惜敗も、「(他の選手と同じ)絵は見られている」とビジョンの共有には手応えを口にした。
  これからの短期決戦で意識する点を聞かれ、改めて蹴り合いに触れた。

「『安パイ』を狙いにいくんじゃなくて、普段の練習でやっている通り、いいキックを蹴っていけたらいいかなと思います」
  秩父宮で行なわれるセミファイナルでは、今季の直接対決で0勝2敗の東京ブレイブルーパス東京とぶつかる。先方は、高本と同じスタンドオフにリッチー・モウンガを起用する。長らくニュージーランド代表だった29歳だ。

 期待の若手スタンドオフが同じポジションで世界的な名手と対峙する時は、「対面対決」が注目されがち。その見立てに、集団競技としてのラグビーを生きる高本はかように応じる。

「あんまり意識しないんですけど、この前のクボタ戦のフォーリー選手(スピアーズのスタンドオフはオーストラリア代表経験者のバーナード・フォーリーだった)とか、モウンガ選手とかは、試合をやっていてうまいなと思う。そういう選手になりたいな…と」

 田中澄憲監督曰く、「ラグビー小僧」。このスポーツを軽やかに愛する。

 語ったのは15日。府中市内でトレーニングを公開し、取材を受けた。話が一段落すると、帝京大の5学年先輩でもある堀越康介主将がその場にやってくる。インタビューイの交代だ。堂々たる新人は、「堀越さん、入りまーす」と微笑んで辞去した。

取材・文●向風見也(ラグビーライター)

【動画】レギュラーシーズン2節の直接対決ハイライト
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