テレビアニメ「ダンジョン飯」(毎週木曜夜10:30-ほか、TOKYO MXほか/ABEMA・ディズニープラス・Huluほかで配信)の第1話「水炊き/タルト」が1月4日に放送された。モンスターを調理する注目の禁断グルメもさることながら、原作漫画の特徴をうまく残した絶妙なテンポ感、キャラクターの雰囲気が生むギャグのよさで期待を裏切らないスタートを見せてくれた。

■今期注目、トレンド1位のスタート

今期注目アニメの1つに挙げられている「ダンジョン飯」。原作は九井諒子による同名漫画で、狩ったモンスターを料理の材料にするという異色のグルメが話題を集めた作品だ。放送後には早速Xのトレンド1位を獲得し、注目度の高さをうかがわせた。

舞台となるのは、とある離島にある地下ダンジョン。探索を行っていたライオス(CV.熊谷健太郎)たち冒険者の一行は、遭遇したレッドドラゴンにライオスの妹ファリン(CV.早見沙織)を捕食されてしまう。脱出魔法で地上へ逃れたライオスたちはファリン救出のため再びダンジョンを目指そうとするが、金も食料もダンジョンに置いてきてしまっているという状況。そこでライオスは、ダンジョン内で食料を調達する“自給自足”の冒険を仲間に提案する。

というわけで、原作では毎話のようにライオスたちが創作する奇妙、珍妙なダンジョングルメが登場し、アニメ第1話ではそれに倣って「大サソリと歩き茸の水炊き」「人喰い植物のタルト」が提供された。

■ファンタジーなのにリアリスティックなギャグのツボ

「ダンジョン飯」の面白さの1つに、ファンタジー世界と妙な現実感のギャップというものがある。本作の景色や設定は純西洋ファンタジー。古いたとえを持ち出すなら「ウィザードリィ」や「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の世界観そっくりというものだ。それに対してライオスたちキャラクターの言動には生活感があるというか、ファンタジーのお約束から逸脱したリアリスティックな場面が随所に描かれている。

剣使いの戦士、ライオス。エルフの魔法使い、マルシル(CV.千本木彩花)。ハーフフットの鍵師、チルチャック(CV.泊明日菜)。ドワーフの戦士、センシ(CV.中博史)。こうした種族や職業はゲームの定番だし、仲間が死亡しても魔法で生き返らせることができる世界。なるほど、ファンタジーだ。しかし、モンスターの生態や習性に対する解説がやたら生物学に則ってされているのがとても面白い。

一般的なファンタジーものならスライムを倒すには炎で焼くだろうし、出てくるモンスターも魔法で撃退したり、剣でズバズバと斬っていったりという、そういう描写になるはずだ。けれど「ダンジョン飯」は違う。スライムの内臓構造を熟知するセンシはまるで魚を活け締めするようにナイフのひと突きで息の根を止め、ライオスはザリガニ釣りのように穴に潜む大サソリを捕まえる。そして、それらを食材として捌く。巨大な茸モンスター(歩き茸)は繊維の関係で縦にはスイスイと切れていくというトリビアには、「なるほど!」と思わず手鼓を打ちながら、ファンタジーにないギャグとして笑ってしまったところだ。

そして、妙にリアルなモンスター食材の調理法と料理。高級食材になるというスライムの天日干しに、大サソリは茹でると赤くなり、身はホロホロ。消化型人喰い植物の実は果肉が詰まっていて味が濃く、養土型は瑞々しくて甘みがあるなど、食材の観察と食レポがやけに細かくて面白い。

そんな料理シーンにはXでも、「魔物と料理に対する視野が広がります笑」「安直にダンジョンで食事をする、という感じではなくて、しっかりサバイバルと調理が下地にあるうえでのおいしいごはん!という感じに描かれていて好きです」「異世界放浪メシとは別角度のモンスター料理が面白い。食欲そそる…かなあw」など、反響のコメントが続々と上がっていた。

■度し難いサイコパス主人公と芸人枠のヒロイン

“ダンジョン飯”というところで一見にはレシピに注目が集まるところだが、アニメは原作漫画の特徴をうまく残したテンポ感、キャラクターの雰囲気が生むギャグのよさがさらに視聴を楽しくしてくれるポイントだった。

アニメ化の醍醐味に原作の補完というものがあるが、やりすぎればそれは原作とは違う作品になりかねない。かといって原作そのままではやはり物足りないものだ。そういう意味では、本作はバランス感が実に絶妙だ。速くもなく遅くもない、ほどよいテンポ感と間。アクションは控えめに、漫画がそのまま動いているような絵の感覚。その折々でくすりとさせてくれるキャラクターの顔芸も秀逸だ。特段目立つオリジナルシーンがあるわけではないが、その分、声優の声がキャラクターに肉付けを与え、会話の面白さというものを引き立ててくれている。

何よりキャラクターと言えば、第1話から絶好調だったライオスのサイコパスな振る舞いに尽きるだろう。一見まともそうに見えて、モンスターへの偏愛とモンスター料理への執着が過ぎるやばいヤツだ。うれしそうに説き、何か考えているときの目は特にやばい。寄生型植物のツタに捕食された状況で、「どうだった?」などと締め付け具合のよさを聞いてくるヤツがパーティーのリーダーだったら普通はどうだろう?

そんなライオスの変態的な面白さに振り回される一般人感のマルシルが気の毒にもかわいいところで、シュールなギャグの要所と話の転換役にもなってくれているのがまた絶妙だ。個人的には絵はかわいくなっても、かわいすぎないマルシルの声はとても好きなところだった。

Xでも2人の様子は話題になり、「千本木マルシルの叫びが心地よすぎる」「マルシルが想像以上に芸人枠で笑った」「声がつくとライオスのパスみが上がってて笑う」「マルシルがオモシロおねーさんなのはライオスが狂人すぎるから」「マルシルのヤダヤダは非常にヨシ。ライオスの変態性が滲み出てるのもヨシ」など様々なツッコミが上がっていた。

この他にもライオスの陰に隠れてはいるがなかなかのトチ狂いっぷりを見せるセンシに、冷たい眼差しでツッコミを入れるチルチャックというように、キャラクターそれぞれの個性は抜群。この先4人がどんな愉快なシーンを見せてくるのか楽しみなところだ。

■<今週のレシピ>※原作より

大サソリと歩き茸の水炊き:
材料(3〜4人分)
大サソリ――1匹/歩き茸――1匹/茸足――2本
藻(花苔・イシクラゲ)――適量/サカサイモ――中5本程度
干しスライム――お好みで/水――適量

人喰い植物のタルト:
材料(3〜4人分)
昼食の残りのサソリ汁――200ミリリットル
スライムゼラチン――80グラム/バラセリア――中3個
ミアオーク――中5・6個/ベタン――中3個
塩――適量/胡椒――少々

■文/鈴木康道