近年盛り上がりを見せている台湾映画・ドラマをWEBザテレビジョンで大特集。今回は、80年代の日系ナイトクラブを舞台にした「Light the Night 華燈初上ー夜を生きる女たちー」や「悲しみより、もっと悲しい物語」「時をかける愛」といった、劇中で流れる歌や音楽が印象的なロマンス作品を3つ紹介。ストーリーを心に深く印象づける歌の力について考察していく。

■懐メロが愛憎劇を情感たっぷりに彩る「Light the Night 華燈初上ー夜を生きる女たちー」

本作は日系ナイトクラブ「スナック光」を舞台に、キレイな純愛ではすまない生々しい愛憎劇が繰り広げられる。物語の軸となっているのは、スナック光にかかわる誰かが遺体となって発見されるという事件だ。事件の被害者は誰なのか、事件の真相は何なのかが、全24話を使って描かれていく。

1988年10月、台北の山中で女性の遺体が発見された。身元は不明、手がかりは被害者のものかどうかもわからない「スナック光」と印刷されたマッチだけー。物語は3つのパートに分かれており、パート1では遺体発見から時間を3カ月巻き戻し、スナック光での日々の出来事や人間模様などが映し出される。

中心となるのは2人のママ、ローズ(ルビー・リン)とスー(シェリル・ヤン)だ。ローズは脚本家のジャン(リディアン・ヴォーン)と親しく付き合っていたが、近頃は会えないばかりか、電話すらもらえないことに苛立っている。ジャンは家に押し掛けてきたローズに、もう愛していないと告げたばかりか、ローズの親友であるスーを口説きにかかるのだった。

夜の蝶たちと、そこに吸い寄せられる男たちには、それぞれ事情や思惑や打算があり、ドロドロとした濃密な人間ドラマが繰り広げられる。事件の謎を追うサスペンスとしても、いくつもの愛や欲望が交錯するロマンスドラマとしても楽しめる作品だ。

また、80年代のきらびやかなナイトクラブの様子や、女性たちが身にまとう80年代ファッションなどとともに、劇中でいくつも出てくる懐メロたちがとても印象深い。舞台がスナックであるということもあり、カラオケを歌うシーンも多く出てくる。

なかでも耳に残るのが、五月天の阿信が歌う「月亮代表我的心」だ。主題歌であり、劇中でローズも歌っている。この曲は、アジアの歌姫として日本でも人気だったテレサ・テンの代表曲の1つだ。そのため、どこか耳なじみがあり、台湾の懐メロを知らなくても懐かしさを感じられるのではないだろうか。

歌が持つ、愛情深くて、どこか悲しくはかなげなメロディーと歌詞が、一夜の夢を売るナイトクラブという舞台につどった人たちの行く末を感じさせ、物語を甘く切なく彩っている。

■曲に秘められていた珠玉のラブストーリー「悲しみより、もっと悲しい物語」

本作は2009年にヒットしたクォン・サンウ主演の韓国映画のリメイク作品ながら、アジア各国で大ヒットを記録し、多くの人を感動の涙で包んだ。

第23回釜山国際映画祭でワールドプレミアとして上映された際は、5,000枚のチケットが発売わずか数分で売り切れ。2018年の台湾の国内映画興行収入ランキングで1位を獲得したのみならず、シンガポールとマレーシアでも同年のアジア映画興行収入ランキング1位を獲得した。また、翌2019年3月には、中国の中国大陸部映画興行週間ランキングで1位を記録している。台湾映画が中国大陸部ランキングで1位をとるのは、史上初の快挙だったという。

台湾を代表する歌姫のA-Lin(本人役でA-Linが出演)が、「ある悲しみ」という未発表曲に引かれたことから物語は始まる。作詞者と連絡を取ろうとしたことで、その裏にあった秘められたラブストーリーを知ることになるという構成だ。

「ある悲しみ」の作詞をしたクリーム(アイビー・チェン)に、デモ音源で歌を歌っていた音楽プロデューサーのK(リウ・イーハオ)が出会ったのは16歳のときだった。父親を病気で亡くし、母親に捨てられたKは、天涯孤独の身の上。自由奔放で明るいクリームに恋をし、同じ大学に進学し、卒業し、仕事をともにし、たくさんの日常と思い出を積み重ねていく。クリームも交通事故で家族を亡くして1人ぼっちだったこともあり、やがて2人は身を寄せ合って家族のように一緒に暮らし始めた。

ところが、Kはクリームに他の男性との結婚を薦める。彼は自分が父と同じ白血病に侵されていて、余命わずかであることを知っていた。1人になることの孤独を身に染みて知っているからこそ、クリームを再び1人きりにしたくない。それは、クリームを心から愛しているからこそ、自分よりもクリームの幸せを願っているからこその行動だった。

正装をしてバージンロードをエスコートしたKは、ウエディングドレス姿のクリームを新郎へと託し、Kとクリームの物語は終わりを迎えた。かのように思われたものの、実はそこにはKが思いもかけなかった「もう1つの物語」が…。

クリームが作詞家であるため、この物語にも歌がたくさん登場する。新人歌手の子猫ボニーが歌うハチャメチャな歌詞の歌も可愛く、なにげにストーリーともリンクしているのだが、やはりA-Linが歌って大ヒットした主題歌の「ある悲しみ」が印象深い。個人的には、劇中でKが歌ったバージョンが、映画の泣けるシーンとともに頭をぐるぐると回っている。クリームが作詞したという設定のため、映画の内容や、クリームとKの関係とよくマッチしており、聞いているだけでつい涙腺がゆるんでしまうこと請け合いだ。

■キーとなる歌が頭のなかでリフレインする「時をかける愛」

(※中盤までの展開に関するネタバレ記述あり)本作は「イタズラな恋愛白書」の制作チームが贈る本格的なラブミステリ―だ。テレビアワードの電視金鐘獎で4冠を獲得し、ドラマのその後を描く劇場版がつくられ、韓国で本作のリメイクドラマがつくられたほどの大人気ぶりで、「神劇」との呼び声も高い。

キャリアウーマンの雨萱(アリス・クー)は、2年前に飛行機事故で行方不明になったままの恋人・詮勝(グレッグ・ハン)を今も忘れられずにいる。あるとき、雨萱は詮勝と自分にそっくりの男女が写った1枚の写真を見つけた。男性は詮勝そのものだが、女性のほうは自分と同じ顔立ちながら髪型などが違っている。写真が撮られた場所にも、一緒に写っているもう1人の男性にも心当たりがない。

写真のログによると、この写真がネットにアップされたのはまだ雨萱が詮勝と知りあう前の2010年だという。調べた結果、雨萱のそっくりさんは1999年に亡くなった韻如という女の子だった。写真が撮られた当時の詮勝の年齢は6〜7歳、写真の青年は詮勝ではなかったのだ。つまり、約20年前に詮勝そっくりの青年と雨萱そっくりの女の子が出会っていたということになる。

差出人不明のウォークマンとカセットテープが届くなど、不思議なことはまだ続く。雨萱がバスのなかで、その送られてきた曲を聞きながら眠ってしまい目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。なぜか雨萱は韻如になっており、目の前には写真に写っていた詮勝そっくりの男の子、子維がいて……。

2019年の台北と1998年の台南を主な舞台に、いくつもの愛と謎が交錯する複雑なストーリーだ。先の読めないスリリングな展開と、続きが見たくなるヒキの強さと、ミステリーの謎がひも解かれていく様が、多くの視聴者をくぎ付けにした。

このドラマは、オープニング曲、エンディング曲、劇中で流れる曲がどれも印象に残る。特に、八三夭 831が歌うエンディング曲「想見你想見你想見你 Miss You 3000」は、挿入歌として切ないシーンなどでよくかかるため、注目を集めた。

そして、物語のキーとなっているのが、伍佰&China Blueの「Last Dance」だ。ゆったりとした曲調のうえ、劇中でかなり繰り返し流されるため、全話を見終わる頃には口ずさめるようになっているのではないかと思う。韻如たちの時代に流行った曲であるため、ドラマ用につくられた歌ではないのだが、頭のなかでエンドレスリピートされてしまうほど印象に残る。

■作品を盛り上げて深い余韻を残す歌にも注目を

ロマンス作品と単純にひとくくりにできないほど、台湾のロマンス作品はふり幅が広い。今回は、台湾ロマンスのなかでも、「泣ける」「謎解きの答え合わせ要素がある」「歌が印象的に使われている」という作品を3つ紹介させてもらった。

作品やシーンにマッチした音楽や歌というのは、ロマンチックな場面はよりロマンチックに、切ない場面はより切なく、視聴者側の気持ちを盛り立てる効果がある。また、歌詞の内容が登場人物たちの気持ちを代弁していたり、直接セリフにはない思いを補完していたりすることも少なくない。特に、ロマンス作品においては、登場人物たちの恋や愛を盛り上げてくれる音楽は欠かせないのだ。

今回紹介した3作品は、歌を効果的に使うことによって視聴者が作品世界にハマるための手助けをし、視聴後の余韻をより一層深いものにしてくれている。作品を見る際には、ぜひ歌にも注目してみてほしい。