朝ドラ好演に“大河”主演も決定…オファーが絶えない“実力派”仲野太賀の地に足ついた演技力 宮藤官九郎作品でも光る存在感
■憎まれキャラから、家族思いの青年まで見事に体現
現在31歳の仲野は、デビュー15年以上にわたってさまざまな役柄に挑んできた。彼が最初にお茶の間の認知を拡大した作品といえば、宮藤官九郎が脚本を手掛けたドラマ「ゆとりですがなにか」(2016年、日本テレビ系)で演じた“ゆとりモンスター”山岸ひろむだろう。
「飲み会、強制参加っすか?」など、何を発言しても相手をイライラさせる山岸は、舐め腐った態度ばかり見せていたが、強烈なキャラクターだからこそ仲野の存在を世に知らしめた。本人も「『ゆとりですがなにか』というドラマに出させてもらって人生が大きく変わったというか、鬱屈とした思いを抱えていた自分に少し光が見えた瞬間でもありました」などと、当メディアのインタビューで答えている。
山岸の生みの親である宮藤と再びタッグを組んだ「季節のない街」は今回のテレ東での地上波放送の前に、2023年にディズニープラスで先行配信された作品。宮藤は本作で企画・監督・脚本を手掛けており「紛れもなく一番やりたかった作品」とコメントしている。
舞台は、12年前に起きた“ナニ”で被災した人々が暮らす仮設住宅。そこでは月収12万円を超えると即立ち退きとあって、みんなギリギリの生活を送っていた。そんな“街”で見たもの、聞いた話を報告するだけで報酬がもらえると軽い気持ちで潜入した主人公・半助(池松壮亮)と、街の青年部のタツヤ(仲野)、オカベ(渡辺大知)の3人が中心となり、18世帯のワケあり住人たちを映し出していく――。
仲野は物語の舞台でもある仮設住宅に家族と暮らす青年・タツヤとして出演。ポジティブで常に前を向く強さを持つタツヤだったが、兄のシンゴ(YOUNG DAIS)に対するコンプレックスや母・しのぶ(坂井真紀)とのすれ違いを抱えており、タツヤがフィーチャーされた第2話「親おもい」では、シンゴの怪我をきっかけにこれまで一人で抱えていた思いが母に対して爆発してしまうシーンが描かれる。
誰よりも家族、特に母を思ってきたからこその歯がゆい思いで感情をぶちまけるタツヤの姿は、見ている側も胸が張り裂けそうになるほど。仲野が見せた演技に、配信直後にはSNSにも絶賛の声が上がった。
■“永遠の少年感”で青春ドラマでも欠かせない存在に
“ゆとりモンスター”以降もドラマ「仰げば尊し」(2016年、TBS系)ではパンチパーマに髭面の高校生でブラスバンドに青春を懸けた・高杢役で作品のムードメーカーに徹し、ドラマ「今日から俺は!!」(2018年、日本テレビ系)では、ケンカは強いがお人よしでおバカな番長・今井役でインパクトを残した。特に今井は笑いを誘うシーンも多く、シリアスな役柄も多く演じる仲野のギャップがとても面白い。何歳になっても学生役が似合う“永遠の少年感”も仲野の持ち味だ。
一方で、同じ青春群像劇でもまたひと味違った魅力を見せたのがドラマ「コントが始まる」(2021年、フジテレビ系)だ。青春群像劇作品のメインキャストに仲野がいるだけで、その作品の深みがグンと深まるのはこれまでもそうだが、同作で菅田、神木隆之介らと演じたお笑いトリオ「マクベス」の潤平は、仲野の真骨頂とも言える演技がさく裂している。特に高校時代から交際している奈津美(芳根京子)との関係に悩み、安堵(あんど)し、男泣きする第6話は、仲野の熱い演技に思わず没入してしまうほど。こちらもぜひチェックしてみてほしい。
■売れないミュージシャンからアイドルオタクまで
ここまで近年のドラマ出演作品を中心に振り返ってみたが、彼は映画でもその存在感を見せつけている。魚喃キリコの原作を実写化した映画「南瓜とマヨネーズ」(2017年)では、臼田あさ美演じるツチダの恋人で、売れないミュージシャンのせいいちを自然体な姿で演じている。また、役所広司主演の映画「すばらしき世界」(2020年)では、若手テレビマンの津乃田として出演。仲野が憧れているという、ベテラン俳優の役所を相手に引けを取らない、存在感のある演技で作品に爪痕を残した。
仲野の泣き顔がポスターカットにもなっている映画「生きちゃった」(2021年)では、妻の浮気現場を目撃したことで、日常が崩壊していく男・厚久を熱演。さらに、同年に公開された映画「あの頃。」では、藤本美貴を推すオタクでひねくれ者のコズミンを好演するなど、映画界でも仲野の存在は不可欠だ。
ここ数年で多くの作品に出演し、名実共に日本を代表とする実力派俳優として成長し続けている仲野。若い頃から芝居と真摯に向き合い、努力してきたからこそ、今オファーが絶えない結果となっているのだろう。才能に努力が加われば、それこそまさに“虎に翼”。彼が出演すると分かると、自然と作品への期待値が上がると言っても過言ではない。今後どんな表現を見せてくれるのか、楽しみに待ちたい。
◆文=suzuki