【達川光男 人生珍プレー好プレー(45)】プロ野球で最も日本一から遠ざかっているのがカープです。1984年に阪急を破って頂点に立ったのを最後に40年。その間には阿南準郎監督の就任1年目だった86年、山本浩二監督が率いた91年、そして2016年から18年は緒方孝市監督でリーグ3連覇(17年はCS敗退)と日本シリーズに4度出場しましたが、いずれもはね返されてしまいました。

 歴史を塗り替える大役は新井貴浩監督にお任せするとして、個人的に悔やんでも悔やみきれないのが86年の西武との頂上決戦です。あのシリーズでは勝つチャンスがあったし、日本一にならなければいけなかったと思っています。

 同年限りでの引退を表明されていた山本浩二さんと西武の黄金ルーキー清原和博の「新旧4番対決」としても注目を集めた86年のシリーズは旧広島市民球場で開幕し、第1戦から延長14回、4時間32分に及ぶ激闘の末に2―2で引き分け。当時は4時間30分という時間制限があったんです。試合は0―2の9回一死走者なしから小早川毅彦と浩二さんが完封目前の東尾修さんから2者連続本塁打を放って追いつき、それはすごい盛り上がりでした。

 第2戦では大野豊が129球の熱投で1失点完投勝利。第3戦は同年に10勝2敗2セーブで新人王に輝いた長冨浩志が6回途中1失点と粘り、川端順―津田恒実が2イニングずつを投げて7―4で逆転勝ち。ちなみにこの試合は私も大当たりだったんです。

 3回の第1打席で郭泰源が投じてきた内角球への死球アピールは失敗に終わりましたが、1―1の5回に一死一塁から一塁線を破る決勝の適時二塁打を放ちましてね。4―1の7回は先頭打者で右前打。山崎隆造の右越え三塁打で5点目のホームも踏みました。ついでに言うと8回の第4打席で5番手の渡辺久信から右手に死球を受け、これも運命の第5戦への伏線の一つになったように思います。第4戦もカープが3―1で競り勝って3連勝。2年ぶりの日本一に王手をかけました。
 86年のカープとライオンズは、どちらも130試合制のレギュラーシーズンで129試合目に優勝を決めたように粘り強さと底力がありました。第4戦を終えて3勝1引き分けとカープが優位に立っていましたが、勝負はどちらに転んでもおかしくなかった。そうして流れが変わったのが第5戦です。

 北別府学、東尾さんの両先発が互いに譲らず、1―1のまま今シリーズ2度目の延長戦に突入しました。カープは10回から登板した2番手の工藤公康の前に12回までの3イニングで安打を放ったのは10回二死走者なしから左前打した山崎だけ。次に出塁したのが、12回二死走者なしから死球を受けた私でした。
 次打者の北別府は三振を喫して12回裏へ。振り返って考えると、工藤にぶつけられた直後だったことが運命を狂わせたように思います。