皐月賞2024

[GⅠ皐月賞=2024年4月14日(日曜)3歳、中山競馬場、芝内2000メートル]

父は〝希代の癖馬〟ゴールドシップ

 大混戦の皐月賞(14日=中山芝内2000メートル)で“一発気配”を漂わせているのがメイショウタバルだ。毎日杯を6馬身差でぶっちぎり、この中間の上昇ぶりも顕著。大舞台にたどり着くまでに少々遠回りはしたが、そのひと筋縄ではいかないところも、時に圧倒的な強さを見せるところもアノ馬をほうふつとさせる。そう、父は“希代の癖馬”ゴールドシップだ。

 2012年皐月賞の“最内ワープ”をはじめ、15年宝塚記念の“120億円事件”など、数々の伝説を残してきたゴールドシップ。13、14年の宝塚記念を連覇したように圧倒的な強さを見せる一方で、モロさも同居した超個性派だった。その日の気分で走ったり走らなかったり…担当だった今浪元厩務員の手を煩わせる姿を見てこのコンビを好きになったファンも多いだろう。産駒のユーバーレーベンが21年オークスを制覇し、マイネルグロンが昨年の中山大障害を勝利するなど、種牡馬としても確固たる地位を築きつつあるが、12年の時を経て父がもっともファンに強烈なインパクトを与えた皐月賞へ惑星馬を送り込んできた。3連勝中で勢い十分のメイショウタバルだ。

毎日杯を6馬身差で圧勝したメイショウタバル
毎日杯を6馬身差で圧勝したメイショウタバル

 前走・毎日杯は逃げて自らラップを刻み、最後は後続を突き放しての圧勝。重馬場で1分46秒0は出色の数字だし、6馬身差をつけたのがシンザン記念を快勝したノーブルロジャーだったことからも、相当な能力を秘めているのは疑いようがない。

 ただ、メイショウタバルがここまでたどり着くのには父ゴールドシップ並みの紆余曲折があった。3走前の若駒Sはレース当日、京都競馬場の馬房内で右前脚の爪をぶつけてしまって無念の競走除外。2走前につばき賞を制した後はスプリングSで皐月賞の権利を取ろうとしたが、最終追い切りを終えた後に皮膚から感染症にかかって今度は左前脚がフレグモーネ一歩手前の状態になってしまった。ギリギリまで回復を待ったものの、木曜昼に回避を決断。その後の経過が順調だったので翌週の毎日杯へ向かうことになったが、決して万全ではない中で父をほうふつとさせる圧倒的な走りを見せたのだ。

毎日杯の走りを再現できたら…

「強かったね。鞍上もケンカしないように運んで馬場のいいところを走らせてくれたけど、直線であれだけ引き離すとは思わなかった」

 こう話すのは担当の上籠助手。気苦労は絶えないようで、「馬の出入りを嫌がるところがあるし、若駒Sのこともあって前走時は30分ごとに馬房に様子を見に行ったくらいで、球節の下まで保護してくれるメディカルフーフブーツを購入した。前回は使用しなかったけど、今回は一応、中山へ持っていくつもり」と現在も細心の注意を払いつつ準備を進めているが、この中間はメイショウタバルのさらなる進化も実感している。前走後の短期間でガラッと良くなっているというのだ。

大一番を前にして馬体に幅が出てきたというメイショウタバル
大一番を前にして馬体に幅が出てきたというメイショウタバル

「毎日杯を勝った後から馬の歩き方が違ってきた。それまでは嫌々歩いていたのが、自分の意思を持ってリズム良く歩けるようになってきた。もともと背中が良かった馬で体重こそ変わらないけど、馬体に幅が出て触っていてもトモの内側の筋肉が発達してきたのを感じる。1週前追いは予定よりも時計が速くなったけど、走りは良かったし、毎日杯のときよりもいい」

 数々の名馬を知る上籠助手の言葉だけに説得力十分。その1週前追いで、序盤に力みながらも直線で軽く手綱を緩めるとそこから再加速したように父譲りの規格外の心臓も持っている。毎日杯にしても一番苦しくなるラスト2ハロン目に10・9秒とさらにスピードを上げた。皐月賞であの走りを再現できたら他馬は手も足も出ないだろう。

 遅れてきた大物と言っても過言ではないメイショウタバル。様々なトラブルを乗り越え、父ゴールドシップと同じような衝撃の走りを見せて牡馬クラシック第1弾を制することができるか、注目の一戦になる。

著者:難波田 忠雄